公開:2026.11.05

【年金】“年金相談のリアル”がんや精神疾患も対象?障害年金で押さえるべき「初診日」と「納付状況」 (菅野美和子氏)

チャット風吹き出し最終決定版(中央寄せ修正版)

ベテランFPや経済の専門家が、FPに関わるさまざまなテーマやトピックスについて、全6回にわたり解説します。

菅野美和子氏

本シリーズでは、3,000件を超える年金相談に向き合ってきた経験から、現場でよくある質問や誤解をテーマ別に紐解いていきます。最終回に当たる第6回のテーマは障害年金。普段はあまり意識しませんが、いざというときに助けになるセーフティーネットでもあります。特に精神疾患や病気の後遺症でも適用になることは見落としがちです。どの世代でも最低限知っておきたい障害年金のポイントについて、事例から確認をしていきましょう。

ある日の相談で

相談者:抗がん剤の治療で副作用がひどく、通院以外は寝込んでいます。とても働ける状態ではないのですが、収入がなくなってしまい、この先の生活が不安です。

菅野:がんの治療による後遺症などで就業が難しい場合、障害年金が受給できるかもしれません。初診日や働けない状態が証明でき、しっかり年金の保険料を納めていれば受給につながる可能性が高まります。主治医とも相談のうえ、申請を検討してみてはどうでしょうか。

がんが原因でも障害年金は受け取れる

障害年金の受給というと、身体障害が原因というイメージを持つ人が多いのですが、私が受ける障害年金の相談では2つの病気で悩む人がほとんどです。1つはがん。そしてもう1つは精神疾患です。

障害年金について、特に若い世代には、自分にはあまり関係ないのでは、と考える人も多いでしょう。また、実際に病気で生活に不安を抱えている人でも、その病気が障害年金につながるとは考えていないケースも少なくありません。

冒頭の相談例のように、抗がん剤治療などの副作用で仕事ができなくなった場合なども該当します。また、精神疾患は子どものころに知的障害がわかって、20歳になって障害年金を請求するケース、社会人になって、いろいろな体験が原因でうつ状態になり、働けなくなるまでの影響が出てきたケースなどが該当します。このように、さまざまな病気が原因で働けない場合なども、障害年金受給の対象になる可能性があることを知っておきましょう。

「初診日」が重要ポイント

障害年金の手続きでは初診日が重要です。初診日を客観的に証明できなければ原則として障害年金を請求できません。また、初診日は年金の種類や受給可否判定の基準であるからです。

初診日の証明において、例えばがんの場合は、初診日が健康診断後の受診などで明確になりやすいといえます。

一方、知的障害や疾病があるお子さんなら、将来、障害年金を請求するかどうかにかかわらず、20歳前であれば、受診した事実を示す記録を残しておくとよいでしょう。日本年金機構のウェブサイトから入手できる初診日の証明書(所定の様式)を医師に記載してもらえば理想的です。

また、初診時の医療機関が廃院している、医師が退職している、カルテが残っていないなど、初診日の証明を取得できないことが意外とあるのですが、診察券、薬袋、健康診断書でも証明に使えることがあります。たまたま母親が保存していた診療明細書が見つかり、年金請求につながったこともありました。年月が経ってカルテが廃棄されていても、医療機関のシステムに受診日の記録が残っていて、受診証明を発行してもらえた例もありました。

年金保険料納付の状況も要確認

そして、もう1つ重要なのは、初診日を基準とした要件を満たすように年金保険料を納付しているかどうかです。遺族年金と同様、未納があると受け取れない可能性があるからです。

特に注意が必要なのは国民年金の納付状況です。「ねんきん定期便」では、「納付済み」という情報だけしかわかりません。記録上は「納付済み」でも、その年金保険料を実際にいつ納めたかは年金事務所に問い合わせないとわからないのです。障害年金支給不支給の判定では、初診日を基準とする所定の期間における当時の納付実績が調査されます。

保険料納付の要件には、「初診日の前日に初診日前々月までの全体の加入期間の3分の2以上が納付済または免除期間であること」とあります。実際、未納だった年金保険料を後から納めていた人がいました。その人の場合、あと 1カ月初診日が違っていたら、年金保険料納付の要件を満たせず、あやうく受給できなかった、という例もありました。

また、初診日が国民年金加入期間に該当する人は、障害年金の等級基準の1級か、2級に該当しないと支給対象にならないのも押さえておきたい点です。厚生年金の場合は、症状により短時間・少日数の勤務や休みがちなど、就労の状況に制約があることで3級と判定されれば障害厚生年金の支給対象となります。しかし、国民年金の場合は、障害基礎年金制度自体に3級がなく受け取れません。大まかに言って、就労できる状態ではなく、日常生活にも影響するレベルが2級に当たります。

「見えない障害」ゆえの難しさも

障害の等級を決めるのは主治医の診断書が基になります。そのため主治医にどう自分の状態を伝えるかがポイントになります。1カ月に1回程度の通院で、診察時間も5分、10分ということがあるでしょう。医師に「お変わりありませんか?」と聞かれて、「特にありません」といった答えになってしまい、詳しいことをしっかり伝えられていないかもしれません。特に本人がうまく伝えられない場合は、普段の日常生活でどんな不自由な点があるか、どう行動に影響があるか、などの具体的な情報を家族が伝えてサポートするといいでしょう。

私は依頼を受けて障害年金を申請するときに、先に申立書(病歴・就労状況等申立書)を書きます。今までの経過、日常生活や仕事への影響などを書いておき、それを依頼者本人から主治医に渡して読んでもらうような手順で進めています。こうするとスムーズに主治医に状況が伝わると思います。

身体上の障害の場合、客観的にもわかるのですが、特に内部障害や精神障害はわかりにくい点があります。また認定後も、病状が悪化して等級が上がる場合もあれば、治療効果などで該当しなくなる場合もあります。また、がんでも精神疾患でも、1、2年に1回は受給資格を確認し、更新していきます。

がんの手術の際に、腸に穴が開いてしまい(腸管穿孔)、後遺症の胃腸障害でずっと苦しんでいる人の相談を受けたことがあります。週に1日か2日は仕事に行くのですが、仕事の日は1日中食事を摂らず、仕事の次の日は寝ているといった生活を続けていました。その後、手術の後遺症がひどかったこともあり3級が認定され、障害年金の受給が決まりました。

3級の年金でも助かった、とのことでしたが、5年経過したところで打ち切りになってしまいました。症状が改善されたわけではなく、「一般的にこのような症状で障害年金には該当しない」、とのことでした。主治医の協力も得て、不服申し立てをしたのですが、判定は覆りませんでした。どれほど生活に支障があっても、認定が永久に続くとは限らないという例ですが、これが今でも私が一番心残りになっている障害年金の相談です。

きちんと納め、いざというときに備えよう

若い世代は将来、どんなリスクがあるか実感がないのは仕方がないのですが、病気やけがのリスクはゼロではありません。だからこそ、年金保険料はきちんと納めておきましょう。自営業など国民年金の人や、会社を転職する際は要注意です。保険料はきちんと途切れずに納めるか、免除の手続きをしておきましょう。これが今、健康上、何も問題がない人への重要なアドバイスです。

「年金制度は当てにならない」と言う人がいます。確かに誰にとっても素晴らしい、完璧な制度ではないかもしれません。それでも、今の年金制度がセーフティーネットとして必要な制度であることには変わりありません。

年金制度への意見を一人ひとりが声にすることも、よりよい制度につながっていくと考えています。納付したうえで、いい制度につながるよう、みんなで声を出し合うことを続けていきませんか。

アコーディオン目次

お話を伺った方

CFP®認定者、社会保険労務士、すがのみわこコンサルティングオフィス代表

菅野美和子 氏

2002年独立開業以来、企業顧問のほか、セミナー講師、年金相談員等を務める。西日本新聞連載コラム「やりくり家計術」を担当中。著書に『ねんきん定期便がよくわかる本』『年金1年生』等がある。福岡市在住

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