公開:2026.11.04

【終活】自分らしく生きるための終活。 終活支援はFPの最も大事な分野(黒田尚子氏)

チャット風吹き出し最終決定版(中央寄せ修正版)

ベテランのFPや経済の専門家が、FPに関わるさまざまなテーマやトピックスについて、全6回にわたり解説します。

黒田尚子氏

テーマは、誰かのためではなく、自身の人生を楽しくするための「終活」。最終回は、相続や身元保証サービスなどについて解説します。

相続対策とは大切な人への真心

終活において、後回しにしてしまいがちなのが、相続対策です。

「大変」「時間もお金もかかる」というイメージがありますが、たしかにそうです。私自身も、父の相続では大変な思いをしました。自宅や田畑など、ほかの親族と共有名義の不動産があり、遺産分割の話し合いが必要だったり、連絡がとれない相続人がいたりと、大変な労力を費やしました。後述しますが、相続の大変さは財産の多さで決まるわけではありませんし、家族で仲が良いからといって、「うちは大丈夫」と思うのは危険です。FPが相談者に注意を促すことも重要でしょう。

相続は、財産を承継するという実質的な行為にとどまらず、「自分の大切な人が、自分のために時間を費やすこと」です。相続には手間もかかる、気も遣う、ときには心が疲弊することでもあります。大切な人(家族など)の負担を少しでも減らしたいと考えるなら、対策は欠かせません。

例えば、財産を整理してわかりやすくしておく(取引のある金融機関の一覧表でもいい)ことは、遺された人が困らないようにしておくための有効な準備です。情報がないと、財産の確認作業などに奔走することになり、悲しんだり、家族で故人を偲んだりする時間が失われてしまいます。必要な準備をしておけば、遺された人が「私たちが困らないようにしてくれた」と感じることができ、「お母さんらしい」とか、「いろいろと考えていたのだ」など、想いが伝わります。遺された人への慰めにもなり、準備した本人にとっても安心につながるでしょう。

ちなみに、預金保険機構に対し、被相続人を名義人とするすべての金融機関の預貯金口座について、その所在をまとめて確認できる「相続時預貯金口座照会」が、2025年4月に開始されています(生前にマイナンバーを紐付けたものに限る)。

うちは大丈夫という過信は捨てる

前述のとおり、相続において、「うちは大丈夫」と思い込むのは危険です。2015年の基礎控除引き下げに加え、近年の地価や株価の上昇などを背景に、相続税がかかる人の割合が高くなっています。2024年の国税庁の統計では10.4%であり、地価の高い都市部では資産家ではなくても相続税がかかるケースがあります。

相続税がかからない見込みでも、相続人が複数いるなら、遺産分割対策は欠かせません。相続税がかかりそうなら、ほかに節税対策、財産移転対策、納税資金対策も必要です。

遺産分割についてトラブルにならないためには、誰に何を遺したいかを明らかにし、遺言書を作成しておくことが重要です。特に被相続人が以下に該当する場合は、遺言書がないとトラブルになりやすいといえます。

◆離婚・再婚している
◆内縁の夫や妻がいる
◆兄弟姉妹が多い
◆親族以外の人にお世話になっている
◆子のうちの誰かが同居しており、ほかに別居している子がいる
◆事業を営んでいる

個々の事情が遺産分割協議をはばむ

具体的な例をお話ししましょう。被相続人が母親(父親は他界)、相続人は母親と同居してきた独身の長女、結婚して別に住む長男のケースです。

遺産は自宅(2,400万円)と、預金600万円です。長女は今後も自宅に住みたいと思っていますが、実家を長女、預金を長男が相続するのでは長女が多くの割合を相続することになります。遺言書がなければ、長男が法定相続分を主張することも考えられます。また、遺言書を作成した場合でも、遺留分への配慮が必要です。

「長女が母親の世話をしていたのだから、長男も理解するはず」、などと考えても意味がありません。子どもの教育費がかかる、住宅ローンの返済負担が重いなどの懐事情や、配偶者の意向などから、長男が権利を主張してくる可能性は十分あります。結婚して別々の道を進んでいくと、優先順位は親や兄弟姉妹よりも、自分の配偶者や子どもになりがちであることも認識しておきたいところです。やはり、遺言書は必要なのです。誰にどの財産を遺すか、なぜそうしたいのか、付言事項を添えるのも効果的です。

遺留分もありますから、代償分割、換価分割、あるいは自宅を長男と長女の共有名義にするなどの方法(ただし、共有は将来の売却・管理や二次相続のトラブルにつながる可能性がある)を検討する余地があるかもしれません。場合によっては資金の準備も必要です。FPが注意を促したり、必要な資金をプランニングに反映させたりしたいところです。

開始時期は2025年10月から順次となっているほか、利用の可否について公証人の判断が必要ですが、条件を満たせば、公正証書遺言をウェブ会議で作成できる改正も行われました。そうしたトピックスも押さえておきましょう。

ニーズ別の対策を押さえておく

身元保証や死後事務への関心も高まっています。

その背景には、おひとりさまの増加だけでなく、家族がいても遠方に住んでいるなどで頼りにくい人、家族に迷惑をかけたくないと考える人が増えている状況があります。図はニーズ別のサービス選びのポイントを整理したものですが、FPにとって必須の知識といえるでしょう。地域包括支援センターや地域の社会福祉協議会などに相談する方法もありますし、最近は「身元保証サービス」への注目も高まっています。

図表■ニーズ別のサービス選びのポイント

ニーズ主な選択肢・相談先
見守り・緊急連絡地域の見守り、民間の見守り契約
日常の支払い・金銭管理社協の日常生活自立支援、金融機関の代理人制度、財産管理委任
判断能力低下後の契約・財産管理法定後見/任意後見
特定財産・不動産の管理民事信託(家族信託)等
入院・入居時の保証や支援終身サポート事業者等/病院の相談員
葬儀・納骨・解約・住居整理死後事務委任契約
誰に何を残すか遺言書、遺言執行者
情報と気持ちの共有エンディングノート・手紙・付言事項
出所:黒田尚子氏作成

身元保証サービスとは、医療機関や介護施設への入院・入所の際の連帯保証、身柄の引き取り、緊急時の対応などを行うものです。遺体の引き取り、遺品整理、葬儀、埋葬といった死後事務サービスを提供している事業者もあります。

2024年6月には身元保証サービスなどを行う「高齢者等終身サポート事業者」について、国がガイドラインを策定しました。ガイドラインに照らして、事業内容などを確認することが重要です。どんなサービスがあるか、安全性が確保されているか、基本料金や別途料金、解約したときの返金、預託金の管理、倒産の際にサービスがどうなるか、財産管理など第三者による監査などの仕組みがあるかなど、確認すべき点は少なくありません。相談者に身元保証サービスについて説明する場合にも、契約を即決せず、社会福祉協議会や消費生活センターなどへの確認を促すとよさそうです。

2026年の社会福祉法等の改正では、頼れる身寄りがいない高齢者等に対する日常生活支援や入院等の手続支援、死後事務支援を行う事業が、第二種社会福祉事業に位置付けられました。原則施行日は2027年4月1日ですが、改正項目によって異なります。今後の地域での支援体制の整備に、FPとしても注目したいところです。

自分らしく生きるための終活をFPがサポート

相談業務をしていて最近強く感じるのは、元気な高齢者も多いこと、また長寿化が進み、判断能力が低下したあとの人生も長く続く、ということです。最近では、相談者から、「90歳を過ぎた母親の預金が、10年間で1,000万円増えていた」というお話を聞きました。FPは老後資金が足りるかを考えがちですが、個人が築いてきた資産や、年金収入などをどう使うか、その人らしい生き方にお金をどう活かしていくのか、という視点を持つことも重要だと感じます。

FPの役割は、自分らしく生きるお手伝いをすることです。そう考えると、終活はFPにとって最も大事な分野だとも感じます。医療、介護、相続、葬儀など、お金がいくらかかるか、不足しないかの検証が必要なのは当然ですが、それだけでは不十分です。どうしたいのか、望みを叶えるにはどのような準備が必要か。お金だけでは解決できない問題についてはどのような制度があり、どのような専門家とつなぐのか。

「終活」とは、自分らしく、楽しく生きるために行うものです。

人生が長い分、考え方や環境も変化していくので、節目節目で見直し、大切な人に想いを伝える。家族はそれを受け止める。

FPとして、どう生きたいか希望を引き出し、課題を見いだし、サポートしたいと思っています。

アコーディオン目次

お話を伺った方

CFP®認定者

黒田 尚子 氏

1998年4月にFPとして独立。2009年に乳がん告知を受け、自らの体験をもとに、病気に対する経済的備えの重要性を訴える活動や老後・介護・消費者問題にも注力。城西国際大学や千葉商科大学で講師を担当するほか、2023年4月に患者さんやご家族への支援のため「患者家計サポート協会」を設立、顧問を務める。

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