公開:2026.09.03

【年金】“年金相談のリアル” 「遺族年金はどう変わる?」若い世代こそ知っておきたい改正の中身(菅野美和子氏)

チャット風吹き出し最終決定版(中央寄せ修正版)

ベテランFPや経済の専門家が、FPに関わるさまざまなテーマやトピックスについて、全6回にわたり解説します。

菅野美和子氏

本シリーズでは、3,000件を超える年金相談に向き合ってきた経験から、現場でよくある質問や誤解をテーマ別に紐解いていきます。制度見直しにより2028年度から大きく変わる遺族年金については、すでに受け取っている人も「5年の有期になる」といった誤解が少なくありません。第4回は「余計な心配をしなくて済む」よう、遺族年金の改正内容を確認していきましょう。

ある日の相談で

相談者:遺族厚生年金が5年で打ち切られると聞きました。私が今、受け取っている遺族年金も5年でもらえなくなるのですか?

菅野:確かに制度見直しによる法改正で2028年度から遺族厚生年金は5年の有期年金になります。ただし、現在受け取っている人、2028年度に40歳以上になる女性などは見直しの対象になりません。余計な心配をしないよう、制度見直しの内容をしっかり理解しておきましょう。特に制度見直しの対象になる若い人こそどう変わるのかを知っておき、ライフプランに活かすことが大切です。

すでに受給している人・一定年齢以上の女性は影響なし

「遺族厚生年金が5年の有期になる」などと報道されると、細かい内容を確認しないまま、慌てる人が少なくありません。よく「私は受け取れなくなるのか」といった質問を受けます。現在すでに遺族厚生年金を受給している方は対象ではないため、これまでどおり終身で受け取ることができます。報道では「5年で終わる」という点だけが強調されがちですが、今回の改正では有期給付加算の創設や継続給付など、新たな支援も盛り込まれています。制度全体を見て理解することが大切です。

また、遺族厚生年金に上乗せされる中高齢寡婦加算の廃止が決まりましたが、これも現在受けている人には影響ありません。2028年4月1日以降に新たに加算の対象となる人から、支給額が25年かけて段階的に縮小され、完全廃止されるのは2053年度以降です。すでに受給されている方は、これまでどおり、65歳になるまで受け取ることができます。

■見直しの影響を受けない人
以下の①~④に該当する人は、今回の見直しによって受ける影響はありません。

①すでに遺族厚生年金を受給している人
②60歳以降に遺族厚生年金の受給権が発生する人
③18歳年度末までのこどもを養育する間にある人の給付内容
④2028年度に40歳以上になる女性

出所:厚生労働省ホームページ「遺族厚生年金の見直し」をもとに日本FP協会作成

「男女平等」と「手厚い有期給付」が改正の狙い

まずはどのような意図で制度改正になったのか、どのような人が対象になるかを理解しておきましょう。

1つの流れは「男女平等」です。これまでの制度は、「夫が働き、妻が専業主婦」という家族像を前提として設計されていました。しかし現在は共働き世帯が主流となり、女性の就業率も大きく上昇しています。こうした社会の変化に制度を合わせることが、今回の見直しの背景にあります。

60歳未満で子どものいない配偶者が受け取る遺族厚生年金は男女ともに「原則5年間の有期給付」へ変更されます。これまで給付されなかった55歳未満で妻を亡くした夫も、原則5年間の受給対象になり、対象者は推計で年間約1万6,000人とされています。さらに、年収850万円未満という収入要件が撤廃されます。この収入要件のために遺族厚生年金を受給できない、というケースはなくなります。

その一方、これまで無期限(終身)で受給できていた30歳以上の女性などは受給期間が短縮されます。とはいえ、急激な変化を避けるため、40歳未満(1989年4月2日以後生まれ)から対象とし、20年かけて段階的に対象年齢を引き上げていきます。

5年の有期になる一方で、受給額は増える見込みです。有期給付には新たに有期給付加算が上乗せされ、現在の遺族厚生年金の額の約1.3倍となります。

さらに5年間の有期給付が終わった後も、障害状態にある人(障害年金受給権者)や、収入が十分でない人は、引き続き増額された遺族厚生年金を受給することができます(継続給付)。現時点では年間収入が132万円(見込み)以下の場合は継続給付が全額支給されます。

これは月額に換算すると約11万円。パート勤務などでこの基準を超えないように働くべきか、それとも自身のキャリアを積んでしっかり稼ぐべきか、ここでも社会保険の壁(第3回参照)同様、ライフプラン全体から見た選択が問われることになるでしょう。

子どもがいる場合の加算額も見直されます。これは少子化の中、子育てを後押しする考え方からです。遺族基礎年金の「子の加算」はこれまで3人目以降は額が抑えられてきましたが、これが改められました。加算額も上がり、1人につき年額281,700円(2024年度価格。実際の価格は2028年度改定後に決定)となります。第3子以降も第1子・第2子と同額まで引き上げられるため、子どもの多い家庭ほど手厚い手当となります。

今後の詳細発表にも注視が必要

遺族年金制度改正まで実際は1年以上あるため、詳細なことはこれから順次明らかになっていくでしょう。例えば5年の有期給付が終了後に受給できる継続給付に関しても、収入条件は132万円以下」となっていますが、詳細なことは公表されていません。「132万円超になると打ち切られる」ということはなく、在職老齢年金のように収入が増えた分、年金額が減額になるといった段階的なものになると見られています。

また、「死亡分割の導入により増額」されることが決まっていますが、具体的にどのように分割され、年金額に反映されるかはわかっていません。考え方としては亡くなった配偶者の報酬が高く、多くの厚生年金保険料を払っていた場合にその厚生年金記録(標準報酬月額など)を分割して、遺族の年金に上乗せする、というものです。おそらく離婚したときに夫婦の婚姻期間中の厚生年金記録を分け合う年金分割と同じような仕組みが取り入れられ、実施されるのではないでしょうか。

これらは今後順次明らかになっていくと思われますので、厚生労働省などからの情報はキャッチアップしておきたいものです。

若い世代・共働き夫婦が今からできる「備え」

若い世代で遺族年金を意識している人は少ないでしょう。しかし、結婚や子育て、住宅購入などライフイベントが進むほど、万一への備えは身近な問題になります。遺族年金の仕組みを知っておくことは、自分や家族の暮らしを守る第一歩といえます。今は共働きが増えています。子どもを持たない夫婦も多いでしょう。どちらかに万一のことがあっても、ある程度収入があり、子どもがいない場合は5年間で遺族厚生年金の支給が終わってしまうことをぜひ念頭に置いておいてください。

とくに若い世代は生命保険など、死亡保障をどうするかを検討する世代でもあります。そのときに、遺族年金制度を押さえ、「自分ごと」としておくことはとても有効です。

制度を正しく理解したら、次は自分たちの場合を確認することが大切です。「ねんきん定期便」「ねんきんネット」で自身の加入履歴(厚生年金期間)を確認しておくことも今すぐできる行動です。

さらに、民間保険の「収入保障保険」や「定期保険」を見直す際、まず「自分たちがいくら遺族年金をもらえるか」を試算したうえで、足りない分を民間保険で補うようにすれば家計の無駄を省くことにつながります。

見逃しがちな「遺族年金」を考慮に入れて、長い人生を賢く生きる最適なライフプランを選択していってください。

次回の【年金】分野は、「遺族年金、受給に関するポイント」について取り上げます。
アコーディオン目次

お話を伺った方

CFP®認定者、社会保険労務士、すがのみわこコンサルティングオフィス代表

菅野美和子 氏

2002年独立開業以来、企業顧問のほか、セミナー講師、年金相談員等を務める。西日本新聞連載コラム「やりくり家計術」を担当中。著書に『ねんきん定期便がよくわかる本』『年金1年生』等がある。福岡市在住

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