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公開:2026.03.19
更新:2026.05.21
住宅ローン金利が上昇傾向を見せる中、頭金の準備は住宅購入における重要なテーマとなっています。「住宅購入」の第4回目は、親や祖父母からの生前贈与を活用した頭金づくりに焦点を当て、税制面の優遇措置や注意点、そして家族全体で考えるべき資金計画のポイントを解説します。
住宅購入において、頭金を準備することには明確なメリットがあります。
第一に、同じ価格の住まいを購入する場合でも借入額を圧縮できるため、住宅ローン返済の負担を軽減できる点です。また、借入額が少ない分、金利変動の影響も抑えられます。
第二に、頭金を増やすことで購入予算そのものを引き上げることが可能になります。例えば5,000万円の物件を検討していた人が、親から1,000万円の贈与を受けることで6,000万円の物件を視野に入れられるようになります。これにより、より都心に近い立地、広い間取り、あるいは高性能な住宅など、住まいに対する満足度の高い選択肢が広がります。
親や祖父母からの資金援助を生前贈与の形で受けることは、単なる貯蓄の代替手段ではありません。税制上の優遇措置を活用することで、本来であれば贈与税の課税対象となる資金についても、非課税あるいは税負担を軽減できます。
例えば、省エネや耐震、バリアフリーなど一定要件を満たす住宅であれば、「住宅取得等資金の贈与税の非課税措置」により1,000万円まで贈与税がかかりません。通常の暦年贈与(基礎控除110万円控除後)では、1,000万円の贈与に対して177万円の贈与税が課税されるところを、この特例を使うことでゼロにできます。
さらに、相続時精算課税制度を選択すれば、特別控除額2,500万円まで贈与税がかかりません。加えて、2024年の税制改正により、同制度に年間110万円の基礎控除が新設されました。この改正により、住宅資金の贈与を受けようとする方にとって、選択肢は大きく広がっています。
贈与を行う親世代にとっても、あげたい人に、あげたいタイミングで資金を渡せることは大きな意義があります。相続では亡くならなければ財産を渡せませんが、生前贈与なら子どもが本当に必要とする時期に支援できます。長寿化が進む現代では、相続発生時には子どもが60代・70代ということも珍しくなく、その時点では住宅購入や子育てといったライフイベントがすでに終わっていることも多いのです。
また、生前贈与は財産移転を前倒しすることで、結果的に相続税の課税対象財産を圧縮できる可能性もあるため、家族全体の資産防衛という視点からも効果があります。
現行制度では、住宅取得等資金の贈与税の非課税措置の適用期限は2026年12月31日までとされています。この特例を利用するには、まず2026年中に贈与を行い、その資金で取得した住宅に原則として、贈与年翌年の2027年3月15日までに入居する必要があります。贈与は完了したものの入居が期限を過ぎてしまった場合、原則として特例の適用は受けられません。ただし、やむを得ない事情があり、3月15日以降、遅滞なく入居できることが見込まれる場合は適用が認められます。
なお、現行制度は2026年末が期限ですが、2009年の創設以来延長され続けている制度であり、来年度の税制改正で延長される可能性もあります。検討中の方は最新の税制情報を注視しながら計画を進めることをおすすめします。
もう1つ重要な注意点は、たとえ贈与税額がゼロになる場合でも、必ず贈与申告が必要であるという点です。自己判断で申告を怠ると、特例の適用が否認されてしまうリスクがあります。
注目したいのは、住宅取得等資金贈与と相続時精算課税制度は併用が可能だという点です。
例えば、省エネ性能の高い住宅を取得する場合、
住宅取得等資金贈与の非課税枠:1,000万円
相続時精算課税制度の特別控除額:2,500万円
相続時精算課税制度の基礎控除:110万円
これらを合計すると、最大3,610万円までの資金を、贈与税を支払うことなく移動させることが可能になります。
ただし、相続時精算課税制度は将来の相続時に贈与額を相続財産に加算して相続税を計算する仕組みのため、上記の特別控除額2,500万円部分は将来の相続財産に加算されます。一方、年間110万円の基礎控除部分は相続財産に加算されません。相続税への影響については、必ず事前に税理士に試算してもらい、慎重に判断することが大切です。
また、相続時精算課税制度の年間110万円の基礎控除は相続財産に加算されないため、毎年この枠を使って将来の住宅資金を少しずつ積み立てていく方法もあります。数年後に住宅購入を計画している方であれば、今から贈与を始めることで余裕を持った資金準備が可能です。
さらに、住宅取得後にローン返済の一部を親が贈与という形で支援していく活用方法も考えられます。この制度は、あげる人ともらう人の双方にとって、柔軟で有効な選択肢といえるでしょう。
生前贈与を活用する際、制度面でのメリットは大きいものの、将来のトラブルを避けるためには家族間のバランスと配慮が欠かせません。
特定の子どもにだけ多額の援助をすると、ほかの兄弟姉妹から不公平感を持たれ、将来の相続時に争いの種となる可能性があります。住宅資金として援助する子どもがいる一方で、別の子どもには結婚資金や独立資金を支援するなど、それぞれのライフステージやライフスタイルに応じた配分を考えることが重要です。持ち家を必要としない子ども、転勤が多く購入のタイミングが合わない子ども、あるいは実家を継ぐ予定の子どもなど、状況はさまざまです。家族全員が納得できる形での資金移転を行なうことが、円満な贈与の大前提となります。
そしてもう1つ忘れてはならないのが、贈与する側である親世代の老後資金です。子どものために資金援助をしてあげたいという気持ちは自然ですが、過度な贈与によって親自身の老後生活が困窮してしまっては本末転倒です。老後資金や医療・介護費用が十分に確保できているか、インフレや金利上昇といった環境変化にも耐えられるかといった点を確認したうえで、余剰資金の範囲内で贈与を行うべきです。
生前贈与は、もらう側とあげる側の双方にメリットがあってこそ意味を持ちます。家族全体の資産を次世代の住まいに有効活用し、親子ともに安心できる計画を立てることが、FPに求められる本質的な役割といえるでしょう。
CFP®認定者、1級FP技能士、公認不動産コンサルティングマスター、FPオフィス ノーサイド 代表
橋本 秋人 氏
早稲田大学卒業後、大手住宅メーカーに30年以上勤務。在職中は、顧客の相続対策や資産運用としての賃貸住宅建築など、不動産活用の実務に長く携わる。独立後は、不動産活用、相続・終活、住宅取得などを中心に、講演や執筆、コンサルティングを通じて、実務経験に基づいた実践的なアドバイスを提供している。
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