FP・専門家に聞く
2026.04.23
【住宅購入】命を守る。災害大国日本でFPが押さえておきたい「住宅の耐震性」(橋本秋人氏)
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公開:2026.04.23
全国各地で大きな地震が頻発する近年、マイホーム購入において「安心して住み続けられること」は最も重要なテーマです。「住宅購入」の第5回目は、人命や建物を守るための「住宅の耐震性」に焦点を当てます。耐震・制震・免震といった構造の違いや、住宅選びにおける留意点、そして経済的なメリットなど、FPとして知っておきたい実務的なポイントを解説します。
マイホームを持つということは、家族が安心して生活できる場所をつくるという大きな意味を持っています。日々の生活においては、健康的な空気環境や、冬は暖かく夏は涼しいといった断熱性能も大切です。
しかし、大前提として最も重要になるのは「人の命を守る」という役割です。大規模な地震が発生した場合でも、その建物の中にいれば命が助かるという安心感は、住まい選びに欠かせない要素といえるでしょう。
この安全性を担保するために重要なのが建物の耐震性です。建物の構造には、「耐震構造」「制震構造」「免震構造」の3つがあります。
まず、「耐震構造」は、すべての住宅が必ず備えていなければならない基本の構造です。その目的は、稀に発生する極めて大きな地震でも建物が倒壊・崩壊せず、建物の中にいる人の命を守ることにあります。
耐震構造をひとことで言うと、「地震の揺れに耐える」構造です。具体的には、壁に筋交い(柱と柱の間を斜めにつなぐ補強材)を入れる、構造の接合部を金物で補強するなどして建物の強度を高めます。
ただし、耐震構造は人の命を守ることが最優先とされるため、地震の強い力による建物自体の一定の損傷は許容されています。つまり、建物の倒壊によって人命が失われることは防げても、建物の変形による壁のひび割れや家具の転倒、室内の散乱などは避けられない可能性があります。その結果、地震後に修繕工事が必要となり、しばらくその家に住めなくなることもあり得ます。
次に、「制震構造」は、「地震のエネルギーを吸収する」構造です。具体的には、建物の壁に油圧式やゴム製の制震ダンパーと呼ばれる装置を取り付けたり、屋根にTMDという振り子の原理を利用した装置を設置したりします。これらの装置が地震のエネルギーを吸収することにより、建物の揺れが大幅に軽減され変形も抑えられるため、地震後も引き続き建物が使用できる可能性が高まります。
そして、「免震構造」は、「地震の揺れを建物に伝えない」構造です。建物と基礎の間に積層ゴムなどの免震装置を設置し、建物と地盤を切り離します。これにより、例えば震度7クラスの激しい揺れが起こっても、室内では震度3程度に揺れを抑えることが可能です。建物の損傷を最小限に抑えるだけでなく、家具の転倒も防ぎやすく、地震直後から通常どおりの生活を維持できるという点が大きなメリットです。
住宅を購入する際に、これら3つの構造の中からどれを選ぶかは、購入者の予算や価値観、建物の種類などによって変わってきます。
建売住宅や分譲マンションでは、建築会社やデベロッパーがあらかじめ耐震性に関する構造を決めているため、自由に選ぶことができません。一方、注文住宅の場合は、間取りや設備と同様に、耐震にするか、制震や免震を取り入れるかについて建築会社と相談しながら決めることができます。
コスト面から見ると、基本である耐震構造をベースとして、制震構造、免震構造の順に建築費用は高くなります。どれくらい高くなるかは、建築会社、建物の規模、形状などによって異なります。特に制震構造の場合、建物の荷重バランスを計算し、どこに何カ所の制震装置を設置するかによってコストが変わります。そのため、複数の建築会社から見積もりを取り、構造の提案とそれにかかる差額を確認し、費用対効果を比較検討することが重要です。
加えて、構造の選択には「地盤の強さ」も影響します。軟弱な地盤では、そもそも免震構造を採用できないケースも多くあります。地中にある支持地盤(岩盤など)が深い場合は、建物を支えるための杭の設置工事費が高額になり、さらに液状化や不同沈下により免震装置が正常に機能しないリスクもあります。
また、地盤の強さは、隣の土地が軟弱地盤でなかったから自分の土地の地盤も軟弱ではないとは限りません。そのため、設計段階から必ず地盤調査を実施し、その地盤の強度に合った適切な構造を建築会社から提案してもらうことが重要です。
耐震性の高い住宅を選択することは、安心や安全だけでなく、経済的なメリットもあります。
ここで押さえておきたいのが、「住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)」に基づく「耐震等級」という評価基準です。建物の耐震性を示す指標の1つで、耐震性能を表す耐震等級は1から3のレベルに分けられています。
・耐震等級1:極めて稀に(数百年に一度程度)発生する地震(関東大震災クラス)の力に対して、倒壊・崩壊しない。
・耐震等級2:等級1で想定される地震の1.25倍の力が加わっても倒壊・崩壊しない。
・耐震等級3:等級1で想定される地震の1.5倍の力が加わっても倒壊・崩壊しない。
耐震構造であっても、最高ランクの「耐震等級3」を取得していれば、極めて高い耐震性が期待できます。地震保険料の割引制度でも、「耐震等級3」は「免震構造」と同等の最高ランクとして、保険料も割引率がもっとも高い50%が適用されます。
また、税制面でも優遇があります。「住宅取得等資金の贈与税の非課税措置」を利用する際に、非課税限度額が最大の1,000万円の適用を耐震性基準で受ける場合、「耐震等級2以上」または「免震建築物」であることが要件となります。
さらに住宅ローン控除においても、借入限度額が最大となる「長期優良住宅」の要件に、耐震性が「耐震等級2以上」または「免震建築物」であることが求められます。
このように、より高い耐震性を持つ建物を選ぶことは、結果的に資金計画を有利に進めることにもつながります。
なお、制震構造については、公的な基準がないため、現時点では税制優遇の要件には含まれていません。
制震構造は耐震構造の一部として位置付けられ、「耐震構造をベースにさらに強化し、地震による建物の揺れをより抑え、建物のダメージを軽減するもの」といえます。ただし、制震の設計思想や施工方法、期待できる効果の水準は建築会社ごとに異なるため、打ち合わせ時に内容を確認、理解しておくことが重要です。
近年は新築住宅の価格高騰の影響もあり、中古住宅の購入を検討する方も増えています。中古住宅を選ぶ際の基本は、まずは1981年6月以降の「新耐震基準」で建てられているかを確認することです。旧耐震基準の建物を検討している場合は、耐震診断や耐震改修が実施されているかを確認しましょう。
また、2000年4月以降に建てられた住宅であれば、「住宅性能表示制度」を利用している場合があります。この制度を利用していれば、第三者機関が発行する「住宅性能評価書」により、耐震等級を確認することができます。売主や不動産会社に対し、契約前に評価書の有無を確認し、評価書があれば耐震等級をチェックしておくことが大切です。あわせて、専門家によるホームインスペクション(建物状況調査)を活用することも有効な手段の1つです。
FPとしてお客様から住宅購入の相談を受ける際は、資金計画のサポートに加え、こうした安全性に関するアドバイスも欠かせません。建物自体の耐震性だけでなく、自治体のハザードマップや、民間の地盤調査会社が公開している地盤マップなども活用し、検討エリアの災害リスクを確認することも大切です。家族の命と財産を守り、安心して長く住み続けられるマイホーム選びを総合的にサポートすることも、FPの役割といえます。
CFP®認定者、1級FP技能士、公認不動産コンサルティングマスター、FPオフィス ノーサイド 代表
橋本 秋人 氏
早稲田大学卒業後、大手住宅メーカーに30年以上勤務。在職中は、顧客の相続対策や資産運用としての賃貸住宅建築など、不動産活用の実務に長く携わる。独立後は、不動産活用、相続・終活、住宅取得などを中心に、講演や執筆、コンサルティングを通じて、実務経験に基づいた実践的なアドバイスを提供している。
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