公開:2025.12.18

【住宅購入】「問題不動産」にしない・させないために(橋本秋人氏)

チャット風吹き出し最終決定版(中央寄せ修正版)

ベテランFPや経済の専門家が、FPに関わるさまざまなテーマやトピックスについて、全6回にわたり解説します。

橋本秋人氏

「住宅購入」の第1回目は、不動産を「問題物件」にしないための考え方と実務のポイントを解説します。

「問題不動産」とは利活用や売却を阻むもの

「問題不動産」とは、一言でいえば「貸せない・売れない不動産」です。単に所有しているだけでは意味がなく、そこに、「住む」「貸す」「売却する」などの利活用や処分ができてこそ、不動産は資産としての価値があります。ところが、さまざまな要因によって、その利活用や処分が阻害されている物件が少なくありません。
中でも、私が「ビッグ3」と呼んでいるのが、境界・名義・道路の3つの問題です。

1つ目の「境界の問題」とは、隣地との境界がそもそも不明確であったり、隣地所有者との間で「どこが境なのか」を巡って争ったりしていて境界が確定できないケースです。このようなケースでは、測量や境界確認書の取得ができず、売却や建て替えの手続きが止まってしまいます。

2つ目の「名義の問題」は、相続が発生しても相続登記をしないまま、祖父や曾祖父などの名義で長年放置されているケースです。このケースでは、相続人が世代をまたいで増え、全員の同意を取るだけで膨大な時間と労力がかかります。以前、あるFP相談のお客様から聞いた話ですが、自宅の敷地が広かったので一部を売却しようとしたところ、40年前に亡くなった祖父の名義のままだったので相続人が35人に増えており、全員の同意を得て売却できるようになるまでに21年かかったそうです。

3つ目が「道路の問題」です。建築基準法では、建物を建てられる敷地は、原則として建築基準法上の道路に2メートル以上接していなければならないという「接道義務」があります。敷地が道路に接していない無接道、あるいは路地状敷地の通路の幅が2m未満の場合などは「接道義務違反」にあたり、新築や建て替えができず、「再建築不可」といった扱いになります。このようなケースの中には、いざ建て替えや売却をしようとしたときに、初めて「実は法的には建て替えられない土地だった」と判明することもあります。

図表1 接道条件を満たさない路地状の敷地の例

橋本秋人氏作成

ビッグ3以外にも、建ぺい率や容積率オーバーの違法建築、共有名義で意見調整ができないケース、建物や塀などの越境、水道管・下水道管などが他人地を通っているケース、土壌汚染、地中障害物があるなど、「問題不動産」の要因はさまざまです。近年は築40年以上の「高経年マンション」も増え、修繕積立金の不足から、問題物件化している例も目立つようになりました。

法的な問題と実務上の問題

問題不動産を整理すると、「法律上の問題がある不動産」と「法律違反ではないが実務上の支障が大きい不動産」の2種類に分けられます。

まず、法的な問題を抱える典型的なケースが、「接道義務違反」と「違法建築」です。接道義務違反は、そもそも建物が建てられない、あるいは建て替えができない状態ですから、このままでは売却もできません。しかし、中古住宅の取引では、こうした法的な部分が十分に確認されないまま売買されてきた例も多く、「知らずに買ってしまった」という相談もあります。

違法建築については、「わかっていてやった確信犯」と「よく理解しないままやってしまったケース」の両方があります。たとえば、庭に10平方メートルを超える子ども部屋を増築する場合、本来は建築確認が必要ですが、「このくらいなら大丈夫だろう」と申請せずに工事をしてしまうと、それだけで違法な状態になります。昔は建築の手続きや登記の運用が現在ほど厳格ではなく、「増築はしたが申請も登記もしていない」という物件も少なくありません。しかし、その物件を売買しようとしたときに、物件の調査時や金融機関の住宅ローンの審査時に初めて問題を突き付けられることになります。

一方、「既存不適格」と呼ばれる状態もあります。建築当時は合法だったものが、その後の法改正や用途地域の変更により、現行法の基準を満たさなくなってしまったケースです。既存不適格そのものは違法ではなく、現在の建物に住み続けることはできますが、将来建て替える際には、新しい法律に合わせた規模や配置にせざるを得ず、「同じものは建て直せない」という形で制約を受ける場合があります。

境界の問題も法律違反ではありませんが、実務上の支障が非常に大きい領域です。昔は、杭が入っていなくても、塀や樹木を目印に「このあたりが境」という感覚で売買が行われていたこともあり、図面と現況が一致していない土地も少なくありません。

相続登記の問題も、放置期間が長くなるほど解決は難しくなります。2024年4月から相続登記の義務化が始まりましたが、すでに長年放置されている土地については、相続人が数十人に増えている事例も珍しくありません。相続人が増えれば増えるほど、中には行方不明者がいたり、権利を主張する人がいたりして、全員の同意を取り付けるハードルは高くなります。先ほどの21年を要したケースは、まだ解決できたから良い方で、途中で頓挫して名義変更自体を断念せざるを得ない例もあります。

境界トラブルがどうしても解決しない場合には、法務局の「筆界特定制度」を利用して、筆界がどこかを法務局に特定してもらう手続きや、「境界確定訴訟」として裁判所に判断を委ねる方法があります。ただし、これらの手続きも、時間も費用もかかりますから、「そこに至る前にどこまで手を打つか」が重要です。

図表2 一般的な境界確定の手順

橋本秋人氏作成

「問題不動産」を防ぐためにすべきこと

これからマイホームや土地を取得しようとする方が、問題不動産を購入してしまわないよう、気をつける点があります。

まず土地については、境界杭を確認することと併せて「境界確認書」があるかどうか。通常、仲介業者を通じた売買では、契約の条件として、売主が隣地所有者との間で境界確認書を作成し買主に交付します。境界確認書がない、杭がそろっていない、隣地との関係が悪化していて立ち会いに応じてもらえない、などという場合には、「問題不動産」になる可能性が高いと見てよいでしょう。

建物については、新築と中古で見るべきポイントが変わります。新築住宅の場合、建築確認だけでなく、完成後の完了検査を経て取得する「検査済証」は必須です。検査済証は、「申請された図面どおりに建物が建てられている」という公的な確認ですから、これがない新築住宅は避けたほうが無難です。一方、中古住宅では、建築当時の制度や慣行の違いから、検査済証がそもそも取得されていないケースも少なくありません。この場合、建物の構造や劣化状況を確認する手段として、ホームインスペクション(建物状況調査)を専門家に依頼することをお勧めしています。インスペクションには費用がかかりますが、これから長く住む家の状態を見極めるための「必要経費」と考えれば、十分に意味のある投資だといえるでしょう。

さらに、新築・中古に関わらず、住宅性能評価制度を利用して「住宅性能評価書」が発行されている住宅は、その内容についても確認します。住宅性能評価では、耐震性、火災時の安全、劣化の軽減、省エネなど、新築10分野、中古9分野の性能について第三者機関が評価しているため、住宅の品質が明確にわかり、安心につながります。さらに住宅が「長期優良住宅」や「低炭素住宅」かどうかも確認すると良いでしょう。これらの認定を受けている住宅は一般的に高品質で省エネ性能なども高い住宅です。

立地については、災害リスクを見落とさないことが不可欠です。土砂災害警戒区域や浸水想定区域などは、自治体のハザードマップで確認できます。建物自体がしっかりしていても、災害リスクの高いエリアでは、将来の売却のしやすさなど資産価値に影響が出てきます。

契約前に説明・交付される「重要事項説明書」については「何が書いてあるかを理解する」ことが大切です。特に「物理的瑕疵」「法的瑕疵」「環境的瑕疵」「心理的瑕疵」は購入の判断に大きな影響を与える重要な内容のため、告知事項として重要事項説明書に明示する義務があります。わからない点は必ず質問することが大切です。

なお、投資用不動産では、現地を見ずに資料だけで購入してしまう方もいますが、境界や建物の傷み具合、周辺環境などは最終的には自分の目で確認するしかありません。必ず現地に足を運ぶことを強くお勧めします。

すでに不動産を所有している方に対しては、「不動産の健康診断」というイメージで、早期発見・早期対応の重要性をお伝えしています。境界杭はそろっているか、相続登記が済んでいるか、違法な増築がないか、建物の劣化や修繕計画はどうなっているか、といった点をチェックし、気になる点があれば早めに専門家に相談することが大切です。見つからない境界杭があれば、隣地の方と相談し、土地家屋調査士にも入ってもらって境界を明確にしておくことが望ましいでしょう。問題不動産は、自分の代で解決し、子ども世代へ「きれいな不動産」を残すことが親の責任だと私は考えています。

最後に、使わない地方の実家、土地を国に引き取ってもらう「相続土地国庫帰属制度」があります。ただし、国は引き取ることができる土地の条件を定めていて、その1つが「境界が確定していること」です。境界トラブルを放置したままでは、国も引き取ってくれません。利活用も売却も国への帰属もできない、まさに「行き場のない不動産」になってしまいます。

不動産の問題は、時間が経つほど複雑化し、解決にかかるコストも膨らんでいきます。境界・名義・道路を軸に、「今は大丈夫でも、将来の利活用や相続で支障が出ないか」を早い段階から点検し、必要な手当てを促していくことは、FPとして果たせる大きな役割ではないでしょうか。

次回の【住宅購入】分野は、「建築基準法と建築物省エネ法の改正」について解説します。
アコーディオン目次
【住宅購入】 第1回~第6回はコチラ (橋本秋人氏)
第1回「問題不動産」にしない・させないために
第2回公開をお楽しみに!
第3回公開をお楽しみに!
第4回公開をお楽しみに!
第5回公開をお楽しみに!
第6回公開をお楽しみに!

お話を伺った方

CFP®認定者、1級FP技能士、公認不動産コンサルティングマスター、FPオフィス ノーサイド 代表

橋本 秋人 氏

早稲田大学卒業後、大手住宅メーカーに30年以上勤務。在職中は、顧客の相続対策や資産運用としての賃貸住宅建築など、不動産活用の実務に長く携わる。独立後は、不動産活用、相続・終活、住宅取得などを中心に、講演や執筆、コンサルティングを通じて、実務経験に基づいた実践的なアドバイスを提供している。

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