FP・専門家に聞く
2026.06.02
【終活】人生を実り豊かにするための終活。親にはせかさず、寄り添う(黒田尚子氏)
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公開:2026.06.02
テーマは「終活」。誰かのためではなく、自身の人生を楽しくするための「終活」。第1回は、「終活の目的」について解説します。
「遺された家族が困らないように」
「相続でもめたりすることがないように」
終活は、そうした目的で行うものと考える人が少なくありません。
たしかにそれも大事なことであり、終活の本筋ともいえます。しかし、私は終活をもう少し前向きなものとして考えたいと思っています。「終活=終わりの準備」ではなく、「終活=これからの人生を実り豊かにするための準備」と考えるのです。
不要なモノを処分してスッキリすれば暮らしは快適になります。重い病気に罹ったときにどうしてほしいかを明らかにしておけば、家族の負担を減らせて気がラクです。若い頃の写真を整理したら、楽しかった思い出が蘇ったり、お洒落を楽しむ意欲が湧いたり、お休みしていた趣味を復活させたりする気持ちになるかも知れません。終活は家族のためだけではなく、快適に暮らしたり、不安を減らしたり、人生を楽しむための手続きや再発見の機会でもあるのです。
どんな風に生きたいかを考えることも終活の大事な要素であり、それが、これからの人生を充実させることにもつながる、というわけです。
終活は、「自身が終活をしたい」というケースと、「親に終活して欲しい」というケースの二通りがあります。
親御さんが60代後半くらいになると、子世代としては、「親が認知症になるなどしたら大変なことになる。預金や保険などがわかるようにしておいてほしいし、病気になったらどうするかなど、決めておいてほしい」と考えます。
しかし、親御さんに終活について話すのは簡単でありません。「親に終活してほしいが、どう切り出せばいいか……」と悩む人も多いですし、「終活を勧めたら、親の逆鱗に触れてしまった」という例もあります。「いくら言っても親が応じないので、専門家から終活するように言って欲しい」といって親御さんを伴って相談にいらっしゃる方も少なくありません。
そのような親御さんにFPが「終活」などと切り出せば、かなりの確率で気分を害されます。
ではどうすればいいのでしょうか。私は、終活とは言わず、「これからの人生をどう楽しむか、ライフプランの再構築をしませんか」と呼びかけるようにしています。
「旅行がお好きなのですね。資産を棚卸しすると、どのくらいのペースで預金を取り崩していいかが明らかになって、もっと旅行の回数を増やせるかもしれませんよ」(結果的に財産や老後資金を確認することができる)
このように、前向きに生きるためにしたほうがいいことを提案する、それが終活にもなる、というわけです。
ライフプランという方向で話すと関心を示してくださり、前向きになってくださる方がほとんどです。
親御さんに終活を促すのには、タイミングも重要です。体調を崩したときやちょっとした入院をした際などは、親も自身の今後について考えるため、いいタイミングと言えます。「まだ若いし、今回は大丈夫だったけれど、長く入院するようなことがあったら、自分が必要な手続きを手伝うね。そのためにいろいろ教えておいて」などと話すといいでしょう。
終活のメリットを伝えるか、あるいはデメリットを挙げて注意喚起するか。どちらがいいかは親の性格によっても異なります。「家族だからわかってくれる」とは考えず、「戦略的に」話を進めたいところです。
また子どもが束になって親に終活を迫るのは御法度です。親は自分ひとりが責め立てられているような気になってしまう危険性があるからです。兄弟のうち、誰かが代表になって話すのがいいでしょう。
家族が親の終活を望んでも、ご本人が「死んでしまったあとのことまで考えていられない」「家族がなんとかしてくれる」などと話す場合もあります。しかし、無責任にそう言っているとは限りません。終活の必要性はわかっていても、実行に移せないケースもあるからです。
終活には、判断力や行動力も必要であり、終活したほうがいいことは理解していても手が付けられなかったり、中断してしまったりすることがあるのです。
実際、不要品を処分するには相当の体力が必要です。口座を整理するにも、移動が困難で1人では金融機関に行けないケースもあるでしょう。何かがハードルになっていないかを考え、子が支援する、一緒に行うなどしたほうがうまくいく場合があります。
私は、親の終活を手伝うことは精神的にも大きな価値があると考えています。それは、親の想いや価値観に触れられるからです。
終活では、病気になった場合にどのような医療を受けたいか、介護が必要になったときにどう暮らしたいかなども明らかにしていきます。親の終活を手伝うことで、そうした希望や親の価値観を知ることができます。相談者の中には、「いずれ親に介護が必要になっても、離れて暮らしていて介護することはできない。どうしたらいいか……と悩んでいたのですが、親は、自宅で暮らせなくなったら介護施設に入ると決めていました。とても意外でした」という方もいました。
50代のCさんは、「自分は年に一度しか帰省ができず、80代の親の平均余命から考えると、あと10回ほどしか親に会えないかもしれない。それに気づいてからは、年1回の親との時間を大切にして、親のことを知り、親が楽しく生きられるように終活を手伝っている」と言います。
私も大学進学で親元を離れ、親は何が好きなのか、どんな考えを持っているのかなど、ほとんど理解できていないと思ったことがありました。あるとき、80代を迎えて徐々に体力や気力が衰え始めた母が、「ありがとう」「迷惑かけてごめんね」という言葉を繰り返すことに気付きました。子どもに世話をかけていると感じて自信を失っているのではないかと思い、切ない気持ちになりました。
私は母に自信を持ってほしくて、得意なことを発揮できる機会を作るよう、心掛けるようになりました。その一つは、卓球です。母は若い頃から卓球が得意で、ラケットを持つと今でも驚くほど俊敏に動きます。試合をすると20代の孫よりも強く、活き活きとして本当に楽しそうです。そこで、家族旅行に行く際は、卓球台があることを宿泊先の絶対条件にしています。親との会話を増やしたり、親を知ろうとしたりすると、何気ない会話から終活につながる話題になり、親の気持ちを引き出せることもあります。それも終活といえるでしょう。
「父親のキャッシュカードの暗証番号が、家族しか知り得ない記念日だと知った。なんだかジーンとしました」(50代女性)など、親が大事にしていることを知るのは、素敵なことだと思います。FPは終活において、お金のことに意識が向きがちですが、想いも大事にしたいですし、そうしたことも相談者にお伝えしたいと思っています。
自身の終活においても、どんな医療を受けたいか、資産を誰に遺すかなどを考えることは、自身を見つめ直し、どう生きていきたいかを考えることに通じます。
私は40代で乳がんになり、エンディングノートを書きました。そのとき、一番大切なのは家族だと再認識しましたし、日々の生活が続いていくことが一番幸せなことだと気付くことができました。
生きているうちにやりたいことを書き出す「バケットリスト」を作成することも、広い意味では終活になると思います。やりたいことを明確にすることで、人生を充実させることにつながると考えられます。
終活の分野は広く、健康、人間関係、お金、暮らし、手続き、モノの処分や整理整頓、葬儀の方針、こころなど、多岐にわたります。どこから手を付ければいいかがわからない、という声もよく聞きますが、終活に順番の決まりはありません。始めやすいところから始めてもいいですし、特に気になっていることから進めてもいいのです。
人生について考え、意思表示し、そのために必要な準備をしていく。そうすることで人生を充実させる。FPは、「やりたくなる終活」を勧めるのが望ましいでしょう。
「健康」「人間関係」「お金」「暮らし」「手続き」「整理整頓」「葬儀」「こころ」。終活は多岐にわたります。次回から、分野ごとに具体的な方法についてお話ししていきます。
| 第1回 | 人生を実り豊かにするための終活。親にはせかさず、寄り添う |
|---|---|
| 第2回 | 公開をお楽しみに! |
| 第3回 | 公開をお楽しみに! |
| 第4回 | 公開をお楽しみに! |
| 第5回 | 公開をお楽しみに! |
| 第6回 | 公開をお楽しみに! |
CFP®認定者
黒田 尚子 氏
1998年4月にFPとして独立。2009年に乳がん告知を受け、自らの体験をもとに、病気に対する経済的備えの重要性を訴える活動や老後・介護・消費者問題にも注力。城西国際大学や千葉商科大学で講師を担当するほか、2023年4月に患者さんやご家族への支援のため「患者家計サポート協会」を設立、顧問を務める。
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