公開:2026.08.04

【終活】「お金・健康・時間」の最適化と住まいの見直しは、 老後を豊かに生きるための終活(黒田尚子氏)

チャット風吹き出し最終決定版(中央寄せ修正版)

ベテランのFPや経済の専門家が、FPに関わるさまざまなテーマやトピックスについて、全6回にわたり解説します。

黒田尚子氏

テーマは「終活」。誰かのためではなく、自身の人生を楽しくするための「終活」。今回は、「お金・住まい」について解説します。

「お金」「健康」「時間」を最適化する

「お金」「健康」「時間」は人生を最大限に充実させる三大要素です。この三要素のバランスをどう取るかが大事ですが、20~30代は「健康と時間はあるけれどお金に余裕がない」、40~50代は「健康とお金はあるものの時間がない」、60~70代は「お金と時間があって健康に不安を覚えがちになっている」。ご相談を受けていると、一般的にはそのような傾向が強い印象を受けます。

でもそれは仕方がないこと。大事なのは、やりたいこと、やっておくべきことを先送りするばかりでなく、先々、どのようなバランス(状況)になるかを見越して、その時々のできる範囲で満足できる暮らし方をすることです

例えばリタイア後は、「健康」を損ねやすいことを認識し、その確保を優先させるのが望ましいと思います。

Aさん(60代男性)は、リタイア後にがんに罹患しました。若いころから、Aさんは保障を手厚くしていたため、がん保険で多額の給付金を受け取りました。当初Aさんは、かかった医療費以上に十分な給付金を受けられたことを喜んでいました。しかし1年後、がんが再発してしまい、気力も体力も一気に衰えてしまったのです。「給付金をもらって安心して治療に専念できるのはありがたいことです。でも、心も体も健康でなければ、お金があっても自分が考えていたように使うことはできない。たくさん保険金や給付金を受け取るよりも健康でいたかった」とおっしゃったのが印象的です。Aさんのエピソードからも、「お金」「健康」「時間」のバランスが重要だとわかります。

老後や終活というとお金のことに目が向きがちですが、現役時代より時間があるのですから、その時間をどう活かすのか、何がしたいかを考えてみます。そして健康を維持して、それらが実現できるようにする。そこに予算をつけておくのが理想的です。そうしたプランを立てるのも、大切な終活です。

老後資金三分法。「残す」「備える」「使う」

好きなことをするためにどれくらいのお金が使えるのか。それがわからないと、ある程度の老後資金があっても気持ち的にはプチ貧乏だったり、家計を過剰に締め付けたりすることになりかねません。ストレスフリーになるためには、老後資金を「残す」「備える」「使う」の3つに分ける、三分法が得策です

3つに分けておけば、どの程度使っていいかがわかりますし、3つのお金それぞれをどのような金融商品で運用するかが考えやすくなります。

まず確保したいのが、「残す」お金です。葬儀費用、死後の整理費用、家族に残すお金など、予算を立てて、確保します。「残す」お金は、預貯金や終身保険、インフレが気になるなら金を保有しておくのもよさそうです。

次は「備える」お金です。病気やけがをしたときのための費用、要介護・認知症になった場合の費用、災害に備えておく費用、自宅をリフォームするための費用などが挙げられます。状況によっても異なりますが、私は70歳以降の医療費は200万~300万円、介護費用は300万~500万円程度を目安にしています。介護施設への入所も視野に入れている場合は1,000万円程度用意しておけば、選択肢が広がります。そうした資金は、いつでも引き出せる普通預金で準備しておくのが便利ですし、目的に応じて医療保険やがん保険、介護保険といった民間保険を活用するのもいいでしょう。 「残す」「備える」お金を確保すれば、あとはすべて「使う」お金としても構いません。年金に加えて、どのくらいのペースでそのお金を使うのかを考えます。「平均寿命」は男性81歳、女性87歳ですが、実際にはそれよりも長生きするケースも少なくありません。統計的にみた期待値である「平均余命」を踏まえて、そこに少し余裕を持たせて考えるといいでしょう。5年ごとくらいに確認し、使い方のペースを再検討していくのがよさそうです。

認知症になった場合のお金

終活として必要性が高いものの、なかなか着手しにくいのが、認知症になった場合の対策です。

なお、認知症は病名ではありません。認知機能の低下によって生じる共通の症状の出る病気のグループの名称(症候群)を指します。

認知症の有病率は80~84歳・男性で約19%、女性は約24%です。個人差はあるものの、年を取れば認知機能は衰えていくわけですから、誰しも認知症になる可能性があるのです。

認知症高齢者の保有する資産の合計額は、2020年時点で255兆円にのぼります。内訳は、金融資産175兆円、不動産80兆円で、日本の家計が保有する資産総額の8%以上。2040年には349兆円、家計資産総額の12%を超えると考えられています。

認知症を発症すると、意思決定を伴うさまざまな法律行為が制限される可能性があります。例えば、本人の判断能力が十分でないと金融機関が判断した場合、本人保護の観点から預金の払い戻しができなくなります

ただし、直ちに口座が凍結されるわけではありません。本人の判断能力の状況や金融機関によって対応は異なりますが、全国銀行協会(全銀協)は2021年、認知判断能力が低下した預金者への対応に関する考え方を公表し、介護費や医療費など本人の利益となる支払いについては、家族等からの申し出に応じて柔軟に対応するよう金融機関に求めています。

認知症になっても預金が使えるように手続きをしておく

とはいえ、事前に対策を講じておくに越したことはありません。判断能力がしっかりしている段階でしておきたいのが、金融機関の「代理人カード等」や「代理人指名手続き」です。代理人カードは本人の代わりに預貯金の出し入れができるもので、口座を持っている本人が手続きすれば無料で作成できます。1日50万~100万円を限度に引き出しできるので、大体の出費には対応できるでしょう。

代理人を決めておくと、本人の判断能力が低下した際、所定の診断書などを提出すれば代理人が預金の出し入れや金融商品の売却、住所変更などの手続きができます。代理人に指定できるのは原則、配偶者または二親等以内の親族等で、代理人指名手続きが可能かどうかは銀行によって異なります。

また子どもの口座にまとまった金額を「預り金」として移しておき、「自分の判断能力が低下したり、要介護状態になったりしたとき、子どもに管理してもらう財産として預けます」といった覚書を交わしておく方法もあります。相続時に他の相続人とトラブルにならないように金銭の出し入れの詳細を記録しておくことが大切です。また、本人が亡くなった後は相続財産として戻す必要はありますが、適切に預り金として管理され、贈与の意思がないことが明確であれば、原則として贈与税の対象にはなりません。

こうした方法があることは一般の人はほとんどご存知ないので、FPが情報提供すると、喜ばれると思います。また子どもが複数いる方がこうした方法を利用される場合は、きょうだい間で情報共有するように助言することも大切です。 そのほか、ご家族がいない場合の「日常生活自立支援事業」、さらに「任意後見」や「民事信託」などの知識も、今後、重要性を増しそうです。

暮らし方を考える。費用も考えてみる

最後住まいも、終活の大きなテーマです。
老後の住まいには、大きく分けて以下の3つのパターンがあります。

パターン1……できるだけ最後まで自宅で過ごす
パターン2……今より便利なところに住む
パターン3……早めに高齢者施設に入居する

最後まで自宅で過ごすためには、修繕や設備の交換などが必要ですし、バリアフリーにしたほうがいいかもしれません。今より便利な暮らしを望むなら、サービス付き高齢者向け住宅に移る、郊外の戸建てから駅近のマンションに住み替えるといった選択肢があります。高齢者施設への入居を希望する場合は、特別養護老人ホーム、有料老人ホームなどが候補になります。

理解しておきたいのは、どのパターンを選ぶにせよ、費用がかかるということです。また自宅に住むことを望んでも、要介護状態が進むなどで施設入居が現実的な選択になる可能性もあります。さらに高齢者施設に入っても、身体状況によっては別の施設に移らなければならないケースもあるのです。

そのため、どのような暮らしをしたいか、ご自身の希望と、予算とをすりあわせておくことも重要です。希望を整理したり、お金の見通しを立てたりしておかないと、いざ要介護状態になった場合などに本意ではない選択をしてしまうこともなきにしもあらず、です。希望と予算をすりあわせ、それを家族などと共有しておきたいものです。予算については、FPの助言も必要でしょう。

「親を施設に入居させたいが、費用は子である自分が負担する。払いきれるだろうか」というご相談もあります。

Bさんは、親御さんが認知症になり、グループホームに入居。費用のほとんどはBさんが負担しています。年齢や健康状態などから考えて長くても1年くらいと思っていたそうですが、施設に入って親御さんの体調がみるみる良くなってきたそうです。「元気になって、笑顔も増えてうれしい。でも、この分だと、想定以上にお金がかかってしまう」と複雑な思いを抱いています。最近は、物価高騰で別途負担となっている費用が値上がりしている例もあり、想定していた資金プランでは間に合わないこともあるようです。

親は子の鏡。親の老後は自身の老後の予習になる

子に迷惑をかけたくないと思う親は少なくありませんが、最近は、親の介護に関与したくないと考える子が増えています。親は子の鏡であり、ご自身がそう思うなら、ご自分が高齢になったとき、子にはケアしてもらえない可能性が高いでしょう。一方で、親御さんの老後は、ご自身が先々迎える老後の予習にもなります。ご自身はどうしたいのか。子や周囲の負担にならないよう、お金にゆとりを持っておくのか、ケアしてほしいことを伝えておくのか。終活として、そうした点も踏まえて考えておくのが望ましいといえます。

いずれにせよ、終活は「捨てること」が目的ではありません。これからの暮らしに本当に必要なものを選び直し、「お金」「住まい」「人とのつながり」を見直すことこそが終活だと私は考えています。

次回の【終活】分野は、「人間関係、情報伝達」について解説します。
アコーディオン目次
【終活】 第1回~第6回はコチラ (黒田尚子氏)

お話を伺った方

CFP®認定者

黒田 尚子 氏

1998年4月にFPとして独立。2009年に乳がん告知を受け、自らの体験をもとに、病気に対する経済的備えの重要性を訴える活動や老後・介護・消費者問題にも注力。城西国際大学や千葉商科大学で講師を担当するほか、2023年4月に患者さんやご家族への支援のため「患者家計サポート協会」を設立、顧問を務める。

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