公開:2026.09.01

【終活】エンディングノートはなくてもいい。「基本情報」に絞り、「効果的に」伝える(黒田尚子氏)

チャット風吹き出し最終決定版(中央寄せ修正版)

ベテランのFPや経済の専門家が、FPに関わるさまざまなテーマやトピックスについて、全6回にわたり解説します。

黒田尚子氏

テーマは、誰かのためではなく、自身の人生を楽しくするための「終活」。今回は、「人間関係・情報伝達」について解説します。

最低限必要な情報が効果的に伝わるようにしておく

私は、「終活は、自身の人生を楽しくするために行うもの」と考えています。

何歳まで生きるかわからない、どのような医療や介護が必要になるかもわからない。そうした不確定な要素がある中で、FPは、さまざまなケースを想定し、ある程度、余裕をもったリタイアメントプランを立てる必要があると考えられます。そのため、お金を使い切って人生を終わらせるのは、かなり難しいといえます。

一方で、「自分の希望に合った生き方をする」、「やりたいことをやり切って人生の幕を下ろす」ことは、工夫をすれば実現できる可能性があると思います

やりたいことをやり切る、不本意な最期にならず、希望に合った生き方を貫くには、意思や希望を明らかにして、家族や周囲の人に確実に伝わるようにしておくことが重要です。必要なときに、自分の声で意思が伝えられるとは限りませんし、誰かの手を借りなければいけないこともあるからです。

そのための方法としては、エンディングノートに意思や希望を書いておくのが王道です。しかし、「書こうと思って用意したものの、書くべきことが多すぎて途中で断念してしまった」とか、「自分の気持ちを書けといわれても、考えがまとまらないし、言葉にするのは難しい」と感じる人も多いようです。

そこで、私が最優先事項としておすすめするのが、「最低限必要な基本情報」を、「効果的に伝えられるよう、準備する」ことです

必要な基本情報とは、以下の3つの情報です。

①「住所、氏名、かかりつけ医、持病、服用している薬」といった、医療に関する情報
②「金融機関、保険、年金」など、お金に関する情報
③スマートフォンやPCなどのパスワードの保管場所
 (パスワードを書くのは危険なので、別途、メモを作り、別の場所に保管するといい)

この3つはエンディングノートに記入し、保管しておきたいものです。普通のノートでも構いません。

医療情報は携帯、自宅では「救急医療情報キット」を活用する

必要な基本情報のうち、医療に関する情報については、エンディングノートに書くだけでは不十分です。急病の場合など、いつ、どこで、具合が悪くなるかわからず、エンディングノートでは、救助してくれる人や医療者の目に入らない可能性があるからです。スムーズに、また希望する医療が受けられるようにしておくには、緊急時に救助してくれる人に情報が伝わるようにしておく必要があります

外出先で倒れた場合に備えるには、お財布や手帳に、前述の情報を書いたメモを入れておくといいでしょう。

また自宅から救急搬送される場合に役立つのが、「救急医療情報キット」です。筒状の容器に、健康保険証やかかりつけ医、持病、服用している薬の情報、緊急連絡先などを書いた用紙を入れ、冷蔵庫に保管しておくものです。薬剤情報提供書(処方時に薬局で発行されるもの)や、万が一の際、延命措置を希望するかどうか意思表示したものを入れることもあります。

冷蔵庫に保管したことを表示するステッカーやマグネットが付属していることも多く、それらを玄関や冷蔵庫の扉などに貼り、救急隊などがそれを見て、キットを探してくれるようにしておきます。市区町村で高齢者や要介護者などを対象に救急医療情報キットを配布している例もありますし、民間でも販売されています。

趣味、嗜好を伝えておくことは認知症対策にもなる

前回、認知症になるのは特別なことではないと述べました。認知症に対する不安は誰もが感じるところであり、家族に迷惑をかけたくない、自分が落ち着きなく過ごすのが怖いと考えがちです。そこで、できるだけ穏やかに過ごせるよう、準備できることがあります。それは、趣味・嗜好の情報を誰かに伝えておくことです

認知症になったとしても、人としての本質は大きく変わることはありません。趣味や、好きな色、好きな食べ物、好みの花や音楽などは、ほとんど変わらないようです。そうした好みのもの、慣れ親しんだものに囲まれていると、認知症の方も気持ちが落ち着くようですし、好きなことなら進んで楽しむことも期待できます。

趣味・嗜好、どう呼ばれたいか、どのような生活リズムで暮らしているか(朝晩に軽いストレッチをするなどのルーティン)。そうした情報があれば、介護者もその方が落ち着く環境を作りやすいですし、声かけもしやすくなります。環境が変わると認知症の症状が進みやすくなるため、そうした情報が周囲に伝わるようにしておくと、医療や介護スタッフにとっても貴重な情報になるのです。

情報を残すのは、必ずしもエンディングノートでなくても構いません。たしかにエンディングノートには、趣味・嗜好や想い、経歴などを記入するページもたくさんあり、そこに記入するのもいいのですが、前述のとおり、誰でも書けるわけではありません。むしろ、私は、書くことにこだわらず、「誰かに話しておくといい」と思っています

親御さんから趣味や好みを聞き出す。ご自身について、お子さんや甥御さんや姪御さんなどにお話しする。それこそが、大切な時間であり、終活だと思うからです。繰り返し、繰り返し。心を許せる何人かに。

頼れる人をつくる。地元のつながりを復活させる

介護のためにも、ご自身のためにも、人間関係を見直したり、築いたりしておくことも重要です。

親御さんと離れて暮らしている場合、急病などの際にどうするかは大きな悩みの種です。スープの冷めない距離に親類がいればいいですが、そうではない場合は、すぐに駆けつけてくれる人を見つけておきたいものです

ケアマネージャー、訪問看護師や訪問介護士、民生委員、ご近所など、連絡したら駆けつけてくれる人がいるか、イメージしてみましょう。長く担当してくれている保険会社の担当者など、緩やかなつながりを持っている人も、候補になるかもしれません。近所にいる同級生が見に行ってくれるというのも安心です。

そうしたつながりを大事にするためにも、帰省の際には挨拶に行ったり、連絡先を知らせておいたりするのもいいと思います。地元の同窓会も、古いつながりを復活させるチャンスですから、できるだけ出席したいもの。地元の介護サービスや、介護施設、事業所などの評判を聞くこともできます。 親御さんが高齢の場合は、親の世代だけでなく、若い世代とのつながりも大切です。「お隣の若夫婦に、実家のカーテンが開いていなかったら連絡してもらう」など、お願いしておくのもいいでしょう。

相談先をつくる。孤独への耐性をつけ、孤立は避ける

もう1つ大事なのは、役所や地域包括支援センターなど、困ったときに連絡できる相談先を作っておくこと、そして、困ったときには相談する習慣をつけておくことです。怪しい人がうろついていた、お金のことで騙されたかもしれないなど、不安や困りごとを口に出せる。そうすれば一人で不安を抱え込まず、悩みを切り離すことができます。誰にも相談できないままでは、不安が膨らむばかりで、心身の健康を脅かすことにもなりかねません。詐欺などの被害を受けるのも心配です。

親子では、ついつい「その話、この前も聞いた」、などと言ってしまいがちですが、100に1つ、大事なことがあったりするものです。話を受け流したり、話を聞くのを断ったりしてしまうと、萎縮して、何も話せなくなってしまうことがありますから、要注意です。

孤独への耐性をつけることも大切ですが、孤立は避けたいところです。

私は自身ががんに罹患した際、家族とはなんだろう……と考えました。いろいろな答えが浮かびましたが、そのひとつとして感じたのは、もしものときに助けを求めることができる人、すぐ来てくれる人、でした。またそうした相手なら、血のつながりがなくても家族と同じように大切な人だとも思いました。

そうした考えを巡らせることも、人生を豊かにするための終活、といえるでしょう。

次回の【終活】分野は、「入院・病気に備える」について解説します。
アコーディオン目次

お話を伺った方

CFP®認定者

黒田 尚子 氏

1998年4月にFPとして独立。2009年に乳がん告知を受け、自らの体験をもとに、病気に対する経済的備えの重要性を訴える活動や老後・介護・消費者問題にも注力。城西国際大学や千葉商科大学で講師を担当するほか、2023年4月に患者さんやご家族への支援のため「患者家計サポート協会」を設立、顧問を務める。

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