公開:2026.07.07

【終活】捨てるのではなく『選び直す』。整理は安全・快適に生きるため(黒田尚子氏)

チャット風吹き出し最終決定版(中央寄せ修正版)

ベテランのFPや経済の専門家が、FPに関わるさまざまなテーマやトピックスについて、全6回にわたり解説します。

黒田尚子氏

テーマは「終活」。誰かのためではなく、自身の人生を楽しくするための「終活」。今回は、「モノを減らす、整理する」について解説します。

似合う服、好きな服だけを残し、気分良く暮らす

終活は終わりの準備ではなく、これからの人生を実り豊かにするための準備――。前回、終活の定義についてそうお話ししました。『モノを減らす、整理する』のも、遺された人のためではなく、自身の暮らしを豊かにすることにも直結します

例えば洋服。50代後半のAさんは、「あとどのくらい自分の好きなファッションを楽しめるか……。そう考えると気に入らない服を無理して着る時間がもったいない。一軍の服以外はすべて処分した」と言います。たしかに外出時も、家にいるときもお気に入りの服を身に着けていれば、気分も上がります。

量が多くて選べない、クロゼットもぱんぱん、といった状態から抜け出すためにも、余分な服は処分しましょう。一人ファッションショーをして、今の自分に合っているか、好きかを確認し、似合っていない、好ましくない、ここ1年着ていない、などの服は処分します。迷うものは「保留ボックス」に入れ、1カ月後に判断するのがいい方法です

気に入っている服に絞り込むことで、判断する時間と能力を省くことができ、気分もスッキリ、かつお洒落ができて、良い気分です。

服の処分に役立つアプリもあります。私が利用しているアプリは、自身が所有している服を撮影して登録するとコーディネートを提案してくれるほか、着用頻度が低い服を教えてくれます。似たようなものを買ってしまう失敗も防ぎやすくなります。

住宅内の事故が多い。安心、安全に暮らすために整理整頓する

そうはいっても、高齢の方には少しハードルが高いかもしれません。加齢によって判断能力が下がっていて、整理整頓の必要性を理解しにくかったり、いる・いらないを判断するのが億劫だったりすることもあるからです。世代として、モノを大切にするお気持ちが強く、捨てることに強い抵抗感があるのも、整理整頓が進まない大きな理由です。

そうしたケースでは、このように考えたり、提案したりしてはいかがでしょうか。それは、捨てるのではなく、『選び直す』という考え方です。これから生きていくうえで、大事なモノと、そうでもないモノとに分ける。整理整頓を、大事なモノを再確認する機会、と位置づけるのです。それなら、前向きに取り組める可能性があります。

もう1つ知っていただきたいのは、整理整頓は安心・安全につながる、ということです。

国民生活センターによると、65歳以上の高齢者の事故の8割程度は住宅内で起きています。モノが床に置いてあると転倒の原因にもなりかねません。室内での転倒は非常に多く、それを防ぐには整理・整頓が大切なのです。衛生面でも、スッキリしていたほうが安心です。

たまの帰省時、大事なはずの時間に「捨てて」「片付けて」とけしかけるのではなく、「家の中でつまずいて転ぶ人が多いらしいよ。気をつけてね。少し片付けてみる?手伝うよ」などと言ってみてはいかがでしょうか。

私も母が一人暮らししている実家を片付けることがあります。不必要な食器がたくさんあったり、やかんがいくつもあったりと、モノがあふれていることに驚かされます。歯磨き粉やスキンケア用品など、未開封のままの試供品。買い置きして値札が付いたままの備蓄品もため込みがちで、たくさんしまい込まれていました(ちなみに、同じものを何度もたくさん買ってしまうのは、認知症の症状である可能性もあります)。

使えないものはもちろん処分、使用可能であっても、使わないモノ、なくてもいいモノは売却したり、誰かに譲ったりします。迷うモノは保留品として分けておき、あとで判断します。一気にやろうとせず、財布の中、引き出しなど、少しずつ進めていきましょう

親御さんが亡くなった後に実家の片付けに難儀する方も多く、遺品整理業者などに片付けを依頼すると、荷物が多い場合や広い一戸建てでは50万円を超え、場合によっては100万円近くになることもあります。「あとが大変だからやっておいて!」などと言わず、一緒に取り組むのがよさそうです。どうしても片付けが進まない場合は、処分費用がかかることも想定しておきたいものです。

デジタル資産の対策で相続トラブルを防ぐ

パソコン、スマホなどを利用している人なら、金融資産や個人情報などのデジタル資産についても対策が必要です。

金融資産には、ネット銀行やネット証券の口座、電子マネー、ポイント、ネットのサービスや有料のアプリなどがあります。エンディングノートなどに口座の情報を残すか、パソコンに『見てほしいフォルダ』を作って、必要なことを格納しておくのがおすすめです。定期的に確認して、更新していきます。

パスワードの管理も大切で、どこに書いてあるかを家族に伝えておく、あるいは聞いておくなどしましょう

ネット銀行などでは通帳がないため、存在を知っておかないと相続にも支障をきたしかねません。おひとりさまは特に注意が必要です。マイナンバーカードに紐付けしてすべてわかるようにしようという構想もありますが、まだ先の課題です。

Bさん(60代男性)は、病気で奥様を亡くされました。奥様は余命宣告を受けたあと、パソコンの端にIDとパスワードを書いた付箋を貼っていたそう。奥様が亡くなった後、BさんがそのIDとパスワードを使ってパソコンを開くと、『私が死んだら開くこと』というフォルダがあり、デジタル資産のIDとパスワードの一覧、仕事やプライベートの引き継ぎ事項や連絡先に関するファイル、ご夫婦の思い出の写真データが格納されていたそうです。切なくもありますが、思いやりがあふれているようにも感じます。

写真や思い出の品は、スリム化して残す

写真やアルバムの整理には、いい出来事、楽しかったことを思い出せる、というご褒美があります。写真を見直すうちに、家族への感謝や、自身をねぎらう気持ちがわきおこり、優しい気持ちやポジティブな気持ちになったりします。

写真にはそうした力がありますから、しまい込むのではなく、いつでも眺められるようにするのが理想です。枚数を絞ってダイジェスト版のアルバムを作るのもいいでしょう。紙の写真をスキャンしてデータ化するのも、省スペースになります。私は面倒くさがりなので、写真をスマホで撮影してデータ化しています。それを母のスマホに送ると、「いつでも眺められる」と喜んでくれます。

ひな人形や旅行の記念に集めたタペストリーなど、思い出の品の処分も難題ですが、写真に撮る、リメイクする、一部だけ残して飾る、などの方法を検討してみてください。

写真整理から、遺影や葬式、お墓など終活を広げる

写真を整理する際、『遺影をどうしようか』と頭をよぎることがあります。遺影は、プロに撮ってもらうこともできますし、家族のほうが温かみのある写真、自然な表情ができるという人もいます。自分で選んでおくといいですね。

誕生、結婚、葬式は、自分が主役になれる人生の三大イベントです。誕生のときは自分では何もできませんし、結婚しない人もいますが、人は必ず死にます。したがって、葬式はどうしたいかを自分で考え、計画、準備しておくことができます。遺影の準備だけでなく、誰に、どんなふうに見送ってほしいか、戒名を受けるか、何をしてほしくないかなど、書き残しておくのもいいでしょう

お墓について考える人も多いといえます。遺された人に負担をかけたくない、引き継ぐ人がいないなどの理由から、「墓じまいをして、納骨堂や樹木葬などを検討したい」という人が増えています。費用もかかりますから、FPは、事前に情報を集めたり、施設を選んだりするなどして、予算を組んでおくよう、助言したいところです。

私自身は散骨も選択肢だと思っていますが、葬儀やお墓は遺族のグリーフケア(深い悲しみを支える)にも関係する、大事なことです。自身の想いだけを通そうとするのではなく、元気なうちに家族で話し合っておくのが望ましい。そうした準備をしておくことで気持ちがスッキリし、先に逝く人、遺される人、双方の悩みを減らすことができるでしょう。

次回の【終活】分野は、「お金・住まい」について解説します。
アコーディオン目次
【終活】 第1回~第6回はコチラ (黒田尚子氏)
第1回人生を実り豊かにするための終活。親にはせかさず、寄り添う
第2回捨てるのではなく『選び直す』。整理は安全・快適に生きるため
第3回公開をお楽しみに!
第4回公開をお楽しみに!
第5回公開をお楽しみに!
第6回公開をお楽しみに!

お話を伺った方

CFP®認定者

黒田 尚子 氏

1998年4月にFPとして独立。2009年に乳がん告知を受け、自らの体験をもとに、病気に対する経済的備えの重要性を訴える活動や老後・介護・消費者問題にも注力。城西国際大学や千葉商科大学で講師を担当するほか、2023年4月に患者さんやご家族への支援のため「患者家計サポート協会」を設立、顧問を務める。

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