公開:2026.10.06

【終活】余命告知、延命治療、最期の迎え方。「話して伝え」「更新する」(黒田尚子氏)

チャット風吹き出し最終決定版(中央寄せ修正版)

ベテランのFPや経済の専門家が、FPに関わるさまざまなテーマやトピックスについて、全6回にわたり解説します。

黒田尚子氏

テーマは、誰かのためではなく、自身の人生を楽しくするための「終活」。今回は、「入院や病気への備え」について解説します。

お泊まりセットを準備しておく

急な入院に備えて「お泊まりセット」を用意しておく。終活とは少し違うかもしれませんが、「いざというときに家族や周りの人に迷惑をかけない」「きちんとしていると信頼される」という意味では、「自身の人生を楽しくするための終活」につながると思います。入院という、ややネガティブなイベントを、誰かの負担を減らす、周囲から感謝されるなどのプラスに変換する種まきになりそうです。

入院に必要なのは、3日分程度の着替え(肌着)や、洗面用具、スキンケア用品、スマートフォンの充電器、少額の現金などです。ほとんどのものは病院の売店でも調達できますが、使い慣れたもの、お気に入りのもののほうが快適で安心です。特に最近は感染防止のため、家族であっても面会が制限されているケースが少なくありません。入院中、ほしい物が手元に届かない可能性もありますので、自分で用意しておくのが確実です。また、病衣やタオルなどは、コロナ禍以降、レンタルの利用が増えているようで、荷物も少なく済みますし、洗濯の手間も軽減されます。ただし物価上昇でレンタル料は上昇傾向です。

おおむね旅行に持って行くものを揃えておく感覚ですが、出張や旅行に慣れていない人ではあれこれ準備してしまいがち。荷物が多すぎるのも厄介ですから、ほどほどを心がけましょう。一人暮らしの人では、自宅のスペアキーを用意して入院セットに入れておくと、誰かに不足しているものを持ってきてもらう際などに便利です。

考え、確実に伝えておきたい4つのこと

病気やけがなど、万が一の場合、どのような医療措置を受けたいかを考えておくことも大切です。判断能力が低下してからでは希望や要望を伝えられない可能性がありますし、急病の際なども伝えるのが難しいケースがあります。本人が決められない、意思表明できない場合は、家族が判断することになり、大きな負担がかかります。突然、大切な人が病気を発症し、「人工呼吸器を付けますか?」と医療者に聞かれたとしたら……。すぐに答えることはできますか?

そうならないためにも、事前にしっかり考え、頼れる人に伝えておきたい4つの項目があります。

①余命を知りたいか
②延命治療を受けたいか
③どこで最期を迎えたいか
➃臓器提供をしたいか  です。

ひと昔前、胃がんを胃潰瘍などと伝えて本人にショックを与えないよう配慮した時代もありましたが、現在は、基本的に本人に病名が伝えられます。なぜなら、病気について理解し、納得したうえで治療を受けることが大切だからです。

余命について伝えるかどうかは、病状や治療方針、ご本人の希望などによって異なります。やり残したことに取り組みたい、会いたい人に会いたいから余命を知りたい、最期までポジティブな気持ちでいたいから余命は伝えないでほしいなど、ご自分の考えをまとめておきましょう。

延命治療とは、病気やけがなどで生命が危ぶまれる際に、人工呼吸器や人工栄養などによって生命を維持するための治療や措置のことです。前述のとおり、自身の意思を伝えておかないと家族が重い選択をしなければなりませんが、とても難しい選択であり、家族でも意見が分かれることが少なくありません。どのような選択をしても、あとから「あの選択は正しかったのか」「逆を選んだらどうなっていただろう」など、正解のない答えを繰り返し問い、思い悩むことにもなりかねません。

家族が悩み、迷う負担を少しでも減らすためにも、自身で考え、そして、それを伝えておくことが重要です。伝えておく際には、その理由をセットで話しておくこと。そうすることで、「本人が、こういう理由で延命措置を望んでいなかったのだから、それでよかったのだ」と家族にも納得感が生まれ、その選択を受け入れやすくなります。

エンディングノートだけではなく、「話す」

気をつけたいのは、前述した4つの項目について、家族などに直接伝えておく、ということです。エンディングノートにもそうした項目があり、頑張って記入されている方もいます。もちろん、書くことが望ましいですが、せっかく記入しても、家族がその存在に気づかなければ意味がありません。「看取りや葬儀のあと、遺品整理をしているときに気づいた!」というケースも少なくないのです。

さらに、一度決めたり伝えたりしただけでは万全ではない、ということも覚えておきたいものです。なぜなら、時間の経過や心身の状況によって、気持ちが変化していく可能性があるからです。

ある、がん患者の方は、「抗がん剤治療や延命治療は一切受けたくない」と話されていました。しかしお孫さんの結婚が決まったことを知り、「花嫁姿を見たいから、延命してほしい」と希望されるようになりました。目標や楽しみができたり、誰かと話したり、誰かの最期に接したりするうちに、考え方が変化することもあるのです。

人生会議で繰り返し考え、意思を更新する

そこで行いたいのが、「人生会議」(ACP。アドバンス・ケア・プランニング)です。人生会議とは、自分がどのような医療やケア、療養生活を望んでいるかを考え、家族や医療・ケアチームと繰り返し話し合って共有することです。最期まで自分らしく生きるための話し合い、と考えればいいでしょう。国も人生会議の普及を推進しており、さまざまな取り組みを行っています。

人生会議では、無理に結論を出さなくてもよく、「家族や友人のそばにいたい」「少しでも長く生きたい」「家族の負担になりたくない」「痛みや苦しみは感じたくない」など、「大切にしたいこと」や「してほしくないこと」を家族や医療者などに伝え、共有しておくプロセスが重要です。

会議というとフォーマルなイメージがありますが、テレビドラマを見ながら、「あの主人公のように、痛みや苦しみを感じながら命を永らえるのはいやだな。最期にみんなの笑顔がみたいな」、「一人暮らしだし、起き上がれなくなったら、自宅ではなく、病院のほうがいいかな。でもたくさん面会に来てね」など、家族でお互いの気持ちを話し合ってみるといいでしょう。

そうした会話を糸口にして、余命を知りたいか、延命治療をしたいか、どこで最期を迎えたいか、臓器提供をしたいか、気持ちを整理しながら、家族に伝えていくといいと思います。

そして、気持ちは変化していくことがありますから、「前はあんなふうに考えていたけれど、最近はこう思うようになった」などと打ち明ける、「いつかこう話してくれたけれど、今も同じように思う?」と聞くなど、折に触れて気持ちを確かめてみるのが望ましいといえます。

尊厳死宣言という方法

大切なことを話しておける相手がいない、家族に伝えても自身の希望がとおらないかもしれないなどの不安を持つ方もいます。例えば、ある50代・がん患者の女性は、「自身に判断能力がなくなったときに、母親にはどのような医療を受けるかを判断してほしくない」とおっしゃいました。母娘には長く確執があり、そもそも高齢の母親に意思を伝えておいても、希望が叶えられるかわかりません。

そのようなケースでは、尊厳死宣言(リビング・ウィル)をしておく方法もあります。尊厳死とは、患者が自らの意思で延命措置を行うだけの医療をあえて受けずに死を迎えることで、その意思表示をしておくのが尊厳死宣言です。公益財団法人日本尊厳死協会では、「リビング・ウィル(人生の最終段階における事前書)」を作成し、それを協会が保管するサービスを行っています。宣言書のコピーを誰かに渡しておいたり、会員証を携帯したりすることで、尊厳死宣言をしていることを示すことができ、自身の意思を周知する一助になります。

一生懸命考える。ベストを尽くす

折に触れ、自身の最期についての考え方を話したり、親や家族の気持ちを確認したりすることは、とても大切です。もし、そうした機会を持てないまま脳疾患で意思確認が難しくなったり、命の最終段階にさしかかってしまったりした場合には、ご本人の意思を察して判断するしかありません。そうなったとき、出した答えが、仮にご本人の意思とは異なっていたとしても、それは仕方がないことです。自分を責めない。仕方がなかった。ああするしかなかった。そう考えればいいと思います。

人はいつか亡くなります。例外はありません。医師の言ったままでは悔いが残ってしまいかねませんが、元気だったときの家族の価値観や発言、性質などを振り返り、一生懸命に考えれば、やりきったという想いは遺せるものです。言い方を変えれば、どのような選択をしても、後悔がまったくないとは限りません。だからこそ、大切なのは、その時々で一生懸命考え、ベストを尽くすことです。

私も乳がんの診断を受けた際、「余命5年」と告げられました(それから15年以上が経過しています)。感じたのは、「誰もが天寿を全うできるわけではない。生きているうちにすべきことをしなければ」という思いです。死を身近に感じたことがないと難しいかもしれませんが、いつ何があるかわかりません。早めに考え、伝える、を実践していただきたいと思います。

次回の【終活】分野は、「相続・遺言」について解説します。
アコーディオン目次

お話を伺った方

CFP®認定者

黒田 尚子 氏

1998年4月にFPとして独立。2009年に乳がん告知を受け、自らの体験をもとに、病気に対する経済的備えの重要性を訴える活動や老後・介護・消費者問題にも注力。城西国際大学や千葉商科大学で講師を担当するほか、2023年4月に患者さんやご家族への支援のため「患者家計サポート協会」を設立、顧問を務める。

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