公開:2026.09.25

【事業承継】ガイドライン改訂時にも注目された「従業員承継」とFPの役割(山田&パートナーズ 宇田川氏、金沢氏、西内氏)

チャット風吹き出し最終決定版(中央寄せ修正版)

ベテランFPや経済の専門家が、FPに関わるさまざまなテーマやトピックスについて、全6回にわたり解説します。

山田&パートナーズ様
山田&パートナーズ
宇田川氏、金沢氏、西内氏

「事業承継」の第4回では、近年改めて注目されている「従業員承継」を取り上げます。従業員承継を取り巻く環境と、FPに求められる役割について考えてみたいと思います。

従業員承継は「有力な承継手法」として改めて重要性が高まっている

従業員承継とは、現経営者の親族ではない経営幹部や従業員が後継者となり、経営権と株式を承継していく事業承継の手法です。かつてから存在する承継方法ではありますが、現在も高い後継者不在率を背景に、M&Aと同様に有力な選択肢として位置付けられ、過去数年では一番多い形式となっています。とはいえ、従業員承継の実現には経営面・資金面・家族面など多くの課題が存在します。

有力な承継手法の1つとして位置付けられる一方で、従来は親族内承継やM&Aと比較して整理されている論点が限られているという指摘もありました。そのような背景もあり、中小企業庁が作成している「事業承継ガイドライン(第3版)」では従業員承継関連の記載が拡充されています。

従業員承継が選ばれる理由の1つは、企業理念や企業文化を維持しやすいことにあります。長年会社で働いてきた幹部や従業員が後継者になることで、従業員や取引先に安心感を与えやすく、承継後の混乱も比較的抑えやすい傾向があります。また、「会社は残したいが、第三者への売却はできれば避けたい」というオーナー経営者の思いとも親和性があります。

一方で、従業員承継には特有の難しさもあります。後継者候補の選定や株式承継資金の確保といった課題です。実際に、後継者決定企業への調査で事業承継の際に問題になりそうなのは、「後継者の経営能力」と「相続税・贈与税の問題」「後継者による株式・事業用資産の買い取り」が上位に挙がっています(図表1)。

図表1■後継者決定企業における、事業承継の際に問題になりそうなこと

出所:中小企業庁 2024年版「中小企業白書」 第6節事業承継

従業員承継においては特に、「経営の承継」と「株式の承継」をどのように実現していくのかを一体的に考えることが重要になるでしょう。

従業員承継の道筋をつける際に最初に検討すべきは後継者の選定

後継者を選ぶ際に、「仕事ができる人」が必ずしも「経営者に向いている人」とは限りません。売り上げの責任を持つ部門管理職として優秀であっても、財務・人事・株主対応まで含めて会社全体を見渡せるとは限りません。後継者には、会社全体の方向性を決定し、最終責任を負う経営者としての資質が求められます。

また、社内外からの信頼も重要です。従業員、取引先、金融機関からの支持を得られる人物であるかどうかは、承継後の経営に大きな影響を与えます。

上記に加えて重要となるのが、経営責任を引き受ける後継者自身の覚悟です。経営者になることは会社の最終責任を負うことであり、中小企業では個人保証や借入の問題とも向き合うことになります。そのため、「責任が重い」「家族から反対された」などの理由で後継者候補が慎重な姿勢を示すケースも少なくありません。

さらに、中小企業では後継者候補を計画的に育成する体制が整っていないケースも多く、早い段階からの育成が課題となります。

後継者選定後のカギは、家族の理解と社内合意形成

さらに、従業員承継において見落とされやすい存在が、後継者の家族からの理解です。
前述のとおり、後継者は株式取得資金の借入や経営者保証を引き受けることがあります。中小企業庁の資料によると、後継者候補はいるものの、個人保証を理由に承継を拒否されたとする調査結果もあります。後継者個人の事情も様々あり、想いだけでは事業承継を円滑に行うことが難しいことが指摘されています。(図表2)

図表2■事業承継にとって大きな課題となる個人保証

出所:中小企業庁「事業承継時の経営者保証解除に向けた総合的な対策について」

後継者として会社の借り入れに伴う経営者保証を引き継ぐことは、後継者本人だけの問題ではなく、後継者の家計や将来の生活設計にも影響を及ぼすため、後継者の家族にとっても重要な課題になります。

そのため、承継の検討段階から配偶者等の家族を含めた話し合いを行うことが重要です。会社の将来性だけではなく、融資の返済計画や生活への影響についても十分な検証・説明が必要となります。

また、社内従業員への説明も欠かせません。
比較的若い従業員が後継者になる場合、昨日までの上司が部下になるなど組織内に摩擦が生じる可能性があります。特に複数の後継者候補が存在した場合には、不満や不信感につながることもあります。成功事例を見ると、後継者選定の理由を丁寧に説明し、段階的に権限移譲を進めながら、現経営者が一定期間伴走するケースが多く見られます。事業承継は単なる手続きではなく、人の理解と納得を積み重ねるプロセスであることを忘れてはなりません。

最後の最大のハードルとなるのは、株式承継資金の確保

従業員承継における2つ目の大きな課題となるのが、株式取得資金の問題です。後継者としての能力や意欲が十分であっても、株式を買い取るための資金を確保できなければ承継は実現できません。

中小企業の株式価値は想像以上に高額になることがあります。一方で、後継者の個人資産は限られていることが一般的です。このギャップが従業員承継を難しくしている要因です。現経営者としては株式を安価に承継したい意向があっても、税務上の問題や家族間の公平性への配慮から、適正な価格での承継が求められることが少なくありません。

資金調達の方法としては、後継者個人による借入や、受け皿会社を設立して借入をする方法が典型的です。また、複数の後継者による社員持株会を活用するケースもあります。どの手法を採用する場合でも、キャッシュフローの検証や税務面の整理が欠かせず、税務・法務・金融の各専門家と連携しながら全体設計を行うことが重要です。

従業員承継の実務では、後継者の資金力を背景に、まず社長職などの経営権だけを移転し、株式の承継は後回しになることもあります。その結果、前経営者やその親族が引き続き大部分の株式を保有し、「経営する人」と「所有する人」が分離した状態が続くことがあります(図表3)。

図表3■所有と経営の分離に関するイメージ図

出所:山田&パートナーズ作成

所有と経営が分離した状況は直ちに問題になるとは限りませんが、例えば前経営者の死亡による「相続発生」をきっかけに、株式を相続した人と経営陣とのあいだで利害関係の対立が表面化することもあります。実際にあったその事例を紹介しましょう。

B社の事例-製造業、従業員数約100名、東北地方

B社では、約10年前に経営権を現経営陣へ承継したものの、株式の承継は資金面の問題から先送りされ、前経営者が主要株主のままとなっていました。

その後、前経営者が逝去し、会社に関与していない息子が株式を相続しました。息子は相続税の納付資金を確保するため、現経営陣に株式の買い取りを打診しましたが、「資金繰りの観点から難しい」と回答されました。

そこで息子は第三者へのM&Aを決断し、その方針を現経営陣へ伝えました。すると、自社が第三者に買収される可能性が現実味を帯びたことで状況は一変し、最終的には現経営陣が金融機関から融資を受け、M&Aで想定されていた価格(当初息子から要求されていた金額のほぼ2倍)の水準で株式を取得することで合意し、第三者への売却は回避されました。

この事例は、従業員承継において「経営の承継」だけでなく、「株式の承継」についても早い段階から道筋を描いておくことの重要性を示しています。

FPに求められる役割は「承継の伴走者」

従業員承継の本質は、単に株式を移転することではありません。経営責任を誰が引き継ぎ、会社をどのように未来につなげていくか、また株式承継後の資金繰りをどう設計していくかという経営課題そのものにあります。

これまでFPは相続対策や資産承継対策を中心に支援するケースが多かったかもしれません。

しかし、従業員承継においてFPが貢献できる範囲は広いのではないかと考えられます。
後継者本人の意思確認、家族との対話支援、資金調達に関するアドバイス、承継後のライフプラン設計、そして経営者や後継者の悩みに寄り添う伴走支援など、FPが貢献できる場面は少なくありません。

事業承継ガイドラインが示すように、事業承継は長期的な対話と準備のプロセスこそが重要です。経営者や後継者の価値観を整理しながら意思決定を支援するというFP本来の強みは、今後ますます重要になるでしょう。

次回の「事業承継」は、急増している中小企業のM&AとFPができる支援を取り上げて解説します。
アコーディオン目次
【事業承継】 第1回~第6回はコチラ (山田&パートナーズ 宇田川氏、金沢氏、西内氏)

お話を伺った方

税理士

宇田川 隆 氏

税理士法人山田&パートナーズ パートナー。2002年入社。2015年アドバイザリー本部創設。現在はM&A・事業承継・資本政策等の資本戦略コンサルティングに従事。

公認会計士・税理士

金沢 伸晃 氏

税理士法人山田&パートナーズ シニアマネージャー。2013年入社。元中小企業庁における事業承継ガイドライン改訂・事業承継税制執行担当官。現在はM&A・事業承継等の資本戦略コンサルティングに従事。

税理士

西内 森吾 氏

税理士法人山田&パートナーズ マネージャー。2019年入社。大手金融機関におけるソリューション部門へ出向、現在はM&A・事業承継・資本政策等の資本戦略コンサルティングに従事。

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