FP・専門家に聞く
2026.07.30
【事業承継】親族内承継のポイントと株価評価・特例措置の行方(山田&パートナーズ 宇田川氏、金沢氏、西内氏)
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公開:2026.07.30
更新:2026.07.31
「事業承継」の2回目は、事業承継の中でも歴史的に最も選択されることの多い「親族内承継」を取り上げ、そのポイントと事業承継税制の特例措置や株式評価方法、事業承継税制の特例措置の改正の行方について解説します。
事業承継は、本テーマ1回目でも述べたとおり、中小企業の重要な課題になりました。
事業承継には大きく分けて、①親族内承継、②従業員承継、③第三者承継(M&A)という方法があります。
昭和の時代においては、「家業は継ぐもの」という社会的な通念がありましたが、昨今では子どもの職業選択の自由を尊重したいという理由から、徐々に親族内承継の割合が減少傾向にあります。2017年から2023年に至る過程の中でも、親族内承継(同族承継)の割合が減少傾向にあることが見て取れます(図表1)。
前述の3つの承継方法に優劣があるのではなく、各々の中小企業が直面している状況(事業の将来性、親族内に後継者候補はいるか、経営者として育成することができるかなど)に応じて、最適解は異なるという点を理解することが重要です。
以下、3つの承継方法の一般的な特徴と課題を例示します。
①親族内承継
特徴:経営理念や企業文化を維持しやすく、社内外の理解を得やすい点。長期的な後継者育成が可能。
課題:後継者の適性確保や相続税負担、親族間の利害調整や従業員の理解を促すことが必要。
②従業員承継
特徴:内部人材の事業理解を活かし、比較的スムーズな引き継ぎと組織の安定性が期待できる。
課題:株式取得資金の確保や経営者としての資質、社内の納得感の形成。
③第三者承継(M&A)
特徴:企業価値の最大化や外部資本の活用による成長機会の獲得。
課題:経営の継続性や企業文化の承継に関するリスク、承継後のミスマッチのおそれ。
3つの承継方法のうち、今回は、「親族内承継」に焦点を当てて解説します。
親族内承継を成功させるためには、「経営の承継」「資産の承継」「株価の把握」の3つを一体的に設計する必要があります。
まず、「経営の承継」が最も重要なテーマであり、後継者の選定のみならず、承継のための育成について、しっかりと設計する必要があります。
後継者は、単に地位や業務を引き継ぐだけでなく、意思決定力、リーダーシップ、取引先や従業員といったステークホルダーとの関係構築力を備えた経営者として成長する必要があります。
そのためには、5年から10年程度の育成期間を見据えた計画的な取り組みが必要となります。中でも、現場経験と経営視点の両方を段階的に習得させることが不可欠です。昔から行われていることですが、現在でもなお「外部への修行」も有効な手段として活用されています。
以下、後継者教育の事例を見てみましょう(中小企業庁「事業承継ガイドライン」の掲載事例を一部修正)。
(事例)
創業者であるAは、後継者である子Bへの承継を見据えつつも、Bの経営者としての経験不足に不安を感じていた。そこで70歳を機に本格的な事業承継に着手し、Bに自社の経営課題の整理を指示した。営業責任者としての経験は豊富であったBは、外部専門家の支援を受けながら課題抽出と対応策の検討を進めることとなった。
その結果、Bの努力もあり営業面では強みが確認された一方、経理財務や人事労務といった内部管理体制の弱さが明らかとなった。この課題に対し、B自らが責任者として改善に取り組み、専門家の支援のもと、財務スキルや労務管理の知識を習得しながら社内体制の整備を推進した。
こうした実務経験を通じてBは経営者としての資質を高め、組織を掌握できるまでに成長した。その過程を見守ったAは、Bへの経営承継が可能となったと判断し、実行した。
次に、「株式」という資産の承継の設計も、重要な課題となります。
親族内承継においては、M&Aとは異なり、株価が低いほど承継は容易になるという特徴があります。ご存知のとおり、株価が低いほうが税金の負担が軽くなるためです。
非上場株式の税務上の評価は、類似業種比準価額と純資産価額を基礎として算定されますが、業種、会社規模、配当・利益・純資産額によって評価額は大きく変動します。したがって、承継のタイミングや利益水準等の把握が極めて重要となります。特に、赤字や利益水準が低い局面は株価が低くなることが多く、株式の承継を検討する1つのタイミングとなります。
一方で、株価へのインパクトを意識した過度な利益に対するアプローチや形式的なスキームによる対策は、税務上否認されるリスクもあるため、あくまで経済合理性に基づいた判断が必要です。
以下に見るように、昨今、一般的な財産評価方法で形式的に評価することが適当ではない事例(総則6項適用事案という)が増加して(図表3)、納税者は追加の納税を余儀なくされることが増えてきました。
2026年7月現在、国税庁において、行き過ぎた税務上の株価対策事案が増加した影響を受け、税務上の株式の評価を大幅に見直すための有識者会議が行われています。そこではさまざまな議論が行われており、類似業種比準価額の見直しを含む従来の方法から大幅に変更される可能性もあります。
FPも、今回の非上場株式の評価の改正に関する議論は注視するようにしてください。
親族内承継で特に重要な税制である「事業承継税制の特例措置」についても確認しておきましょう。
親族内承継を検討するうえで、事業承継税制の特例措置は極めて大きな影響を持つ制度です。本制度を活用することで、非上場株式の贈与税・相続税の納税が猶予され、一定の要件を満たせば最終的に免除されます。
制度を利用するためには、事前に「特例承継計画」を都道府県に提出する必要があります。
特例措置の特徴は、対象株式数の制限が撤廃され、納税猶予割合が100%に拡大されている点にあります。これにより、承継時に多額の資金を用意することなく、経営権を移転することが可能となります。
もっとも、この制度は時限的な措置であり、下記のとおり期限が設定されています。
【事業承継税制の適用期限】
特例承継計画の提出期限:2027年9月30日
株式承継の実行期限:2027年12月31日
実務上は、制度を活用するか否かに関わらず、「まずは使える状態を確保しておく」という考え方が重要です。適用の前段階で必要となる特例承継計画の提出は、結果的に使わなくてもペナルティはないので、期限までに提出することをおすすめしています。
本制度を活用するうえでの重要な留意点として、将来的に免除されるとしても、まずは納税が猶予されて、長期間一定の要件を充足しなければならない点が挙げられます。一定の要件を満たし続けなければ、猶予税額の納付が必要となるため、制度の利用は長期的な経営方針と一体で検討する必要があります。
このような留意点があったとしても、将来的に免除になれば、大幅な税負担軽減につながる有効な制度といえます。2026年6月時点では、特例措置は残り1年半の時限措置で、延長が極めて難しいのではないかといわれていますが、いまだに、将来的に免除となることもある点についての理解が乏しい経営者は少なくありません。
FPにおいては、改めて本制度について理解を深めたうえで、顧客企業や経営者と話し合ってみることが重要ではないでしょうか。
今回は親族内承継に焦点を当て、経営承継・株式承継の両面から、幅広く関連論点を解説しました。
親族内承継は、理念や文化の連続性を維持しやすい一方で、経営・資産・株式の承継を一体で設計する必要がある点に本質的な難しさがあります。とりわけ近年は、株価評価や税制を巡る環境変化により、従来の前提や対策が通用しにくい局面も増えています。
こうした不確実性の中で、FPには最新の制度動向や実務論点を的確に捉えた情報提供に加え、顧客の想いや状況に寄り添いながら、時間を要する意思決定を伴走支援していくことが期待されています。単なる制度活用にとどまらず、経営の持続性や次世代への承継ストーリーまで見据えた助言こそが、これからの付加価値となるでしょう。
| 第1回 | 事業承継の基本的考え方と「プレ承継」 |
|---|---|
| 第2回 | 親族内承継のポイントと株価評価・特例措置の行方 |
| 第3回 | 公開をお楽しみに! |
| 第4回 | 公開をお楽しみに! |
| 第5回 | 公開をお楽しみに! |
| 第6回 | 公開をお楽しみに! |
税理士
宇田川 隆 氏
税理士法人山田&パートナーズ パートナー。2002年入社。2015年アドバイザリー本部創設。現在はM&A・事業承継・資本政策等の資本戦略コンサルティングに従事。
公認会計士・税理士
金沢 伸晃 氏
税理士法人山田&パートナーズ シニアマネージャー。2013年入社。元中小企業庁における事業承継ガイドライン改訂・事業承継税制執行担当官。現在はM&A・事業承継等の資本戦略コンサルティングに従事。
税理士
西内 森吾 氏
税理士法人山田&パートナーズ マネージャー。2019年入社。大手金融機関におけるソリューション部門へ出向、現在はM&A・事業承継・資本政策等の資本戦略コンサルティングに従事。
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