公開:2026.06.25

【事業承継】事業承継の基本的考え方と「プレ承継」(山田&パートナーズ 宇田川氏、金沢氏、西内氏)

チャット風吹き出し最終決定版(中央寄せ修正版)

ベテランFPや経済の専門家が、FPに関わるさまざまなテーマやトピックスについて、全6回にわたり解説します。

山田&パートナーズ様
山田&パートナーズ
宇田川氏、金沢氏、西内氏

「事業承継」の1回目は、中小企業にとって重要なテーマとなっている事業承継における共通の課題と基本的な考え方、実行にあたって最初に取り組みたい「プレ承継」とFPの役割について紹介します。

事業承継は、すでに多くの企業が直面している現実です

この10年から20年の間に、「事業承継」というテーマは、日本企業における重要な経営課題として定着してきました。かつては一部のオーナー企業の問題として捉えられることもありましたが、経営者の高齢化や後継者不足を背景に、現在では多くの中小企業に共通する課題となっています。

中小企業白書を見ても、中小企業経営者の年齢は依然として高い水準にあり、60歳以上が過半数を占めています(図表1)。70歳以上も全体の10%超、80歳以上も5%程度を占めるなど、高齢の経営者は少なくありません。

図表1■中小企業における経営者年齢の分布

出所:中小企業庁「2025年版 中小企業白書」

事業承継は「いずれ考えればよい話」ではなく、すでに多くの経営者が現実の経営課題として向き合うべき段階に入っていると感じます。実務の現場でも、「何となく気にはなっているが、具体的に動けていない」という声を耳にすることは少なくありません。

承継の形も変化しています。親族内承継が一定数を占める状況は続いていますが、一方で、従業員承継や第三者承継(M&A)を選択肢として検討する企業も増えてきました。「誰かに継がせる」という前提は変わらないものの、その相手や方法は多様化しており、単一の選択肢を前提にしない準備が求められる時代になっています。

こうした状況だからこそ、単に「誰に承継するか」だけでなく、そもそも事業承継とは何を引き継ぐことなのかを整理しておくことが、検討を進めるうえでの第一歩になるでしょう。

元気で健康な時期から承継について考える意味

事業承継を考え始めるタイミングについて、経営者が基準にしがちなのが「平均寿命」です。ただ、実務に携わる立場としては、「健康寿命」という視点も重要ではないかと感じています。

健康寿命とは、「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」を指します。
厚生労働省は、2024年12月24日の「第4回 健康日本21(第三次)推進専門委員会」において「健康寿命の令和4年値について」を公表し、健康寿命は男性で70歳代前半、女性で70歳代半ばとされています。この数字は、重要な経営判断を継続的に行える期間には一定の限りがあることを示唆しています。中小企業白書でも、事業承継や廃業の予定年齢は60歳代が一つのボリュームゾーンとなっています。

60歳前後は、体力や判断力にまだ余力があり、将来を比較的冷静に見据えやすい時期です。この段階で事業承継を「遠い将来の話」ではなく、自身の経営課題として捉え直せるかどうかによって、その後の選択肢や進め方が大きく変わってくるともいえるでしょう。

経営者が考えたい事業承継の本質とは

事業承継を「いつ始めるべきか」を考える際、年齢だけを基準に判断するのは適切ではありません。なぜなら事業承継とは、単なる引退時期の問題ではなく、何を、どのように引き継ぐのかという本質的な問いを含んでいるからです。

事業承継の本質は、これまでの経営の中で育まれてきた理念や意思、価値観を未来へ引き継ぐことにあるといえるでしょう。その目的は、現経営者の役割を終わらせること自体ではなく、事業の永続性を確保し、次の世代につなげていくことにあると考えられます。

この視点に立つと、事業承継は単なる社長交代や株式の承継と同義ではありません。また、一時的な株価対策や形式的な手続きにとどまるものでもありません。企業が蓄積してきた価値観や無形資産、経営資源を、将来に向けてどのようにつないでいくかを考える、経営戦略の一つとして捉えるべきものだといえるでしょう。

後継者が決まっても、承継は終わりません

事業承継は、後継者を決めれば完了するものではありません。むしろ、後継者が決まってからが本当のスタートになるケースが多いといえます。一般的には、後継者の選定から実際に承継が完了するまでに、3年以上を要する企業が半数を超えています(図表2)。

図表2■事業承継する際に、後継者への移行にかかる期間

出所:中小企業庁「2025年版 中小企業白書」、出典は帝国データバンク「事業承継に関する企業の意識調査」(2021年8月)

特に時間を要するのが、後継者の育成や社内外との信頼関係づくりです。経営の引き継ぎとは、「経営判断の主体」を段階的に移していくプロセスであり、実質的な責任を引き受けられる状態になるまでには、相応の時間と対話が必要になります。

後継者が決めきれないときは、助走として会社の見直しを

実務の現場では、「後継者を誰にするか決めきれない」という相談を多く受けます。そこで近年、私たちが重視しているのが「プレ承継」という考え方です。これは、後継者が明確になる前の助走期間として、どの承継手法を選択することになっても対応できるよう、会社の状態を整えていく取り組みを指します。

具体的には、事業承継に向けたステップとして、経営状況や課題などを「見える化」し、改善していくために「磨き上げ」をしていく段階がプレ承継になります(図表3)。

図表3■事業承継に向けたステップとプレ承継

出所:中小企業庁「事業承継ガイドライン」(第3版)

経営資料の整理、業務の属人化の見直し、財務や株主関係の整理などは、後継者が誰であっても必要になる準備です。こうした準備を進める中で、「先の話」だった事業承継が、自身の経営課題として具体化していく場面も少なくありません。

実際に、この段階で自社の課題に気づき、問題解決へと動いた企業の例を紹介しましょう。

A社の事例—―建設業、従業員数40名、東京都

A社の現経営者(72歳)は創業経営者であり、創業時に創業メンバー5名へ株式の40%を保有させていました。しかし、次世代経営者へのバトンタッチを見据えた際、株式が分散したままでは、将来的な経営の自由度が損なわれる可能性があることに気づかれました。

そこで事業承継の前段階として、創業メンバーから株式を集約していく道筋を整理するお手伝いを行いました。

具体的には、現経営者が株式を買い取るための譲渡株価の相談、関連する税金の整理、創業メンバーとの面談の段取りのサポートなどを行いました。

その後、無事に後継者へバトンが渡され、後日その後継者からは「自分が創業メンバーの方々と直接交渉するのは容易ではなかったので、先代が事前に道筋をつけてくれて本当に助かった」という言葉をいただきました。

FPを含めた専門家の伴走支援が意思決定を支えます

事業承継は、ある時点で一気に完結するものではありません。プレ承継から本格的な承継に至るまで、長い時間軸の中で、経営者はさまざまな論点について何度も悩み、意思決定を重ねることになります。

その過程で重要になるのが、「1人で考え続けない環境」です。事業承継は、後継者、株式、組織、家族といった複数のテーマが絡み合うため、表面的な制度説明やチェックリストだけでは整理しきれません。

実際には、
「何を大切にして会社を残したいのか」
「どこに本当の不安や迷いがあるのか」
といった、経営者自身の思考や感情の整理が必要になる場面が多くあります。こうした部分は、丁寧に話を聞き、言葉にしていくプロセスを通じて、徐々に見えてくるものです。

近年、中小企業庁が提唱している「経営力再構築伴走支援モデル」は、経営者と対話を重ねながら課題を整理し、意思決定を支えるという考え方に基づいています。支援する専門家は答えを示すのではなく、考える過程に寄り添う姿勢です。

経営者の話に丁寧に耳を傾け、承継時の株価などの数字だけでなく、価値観や人生設計も含めて全体像を整理していくというFPが実践する顧客との関わり方は、事業承継というテーマとも非常に相性が良いと感じています。

事業承継における伴走支援とは、決断を急がせることではありません。経営者自身が納得できる形で次の一歩を選べる状態をつくること。その積み重ねが、結果として円滑で持続的な承継につながっていくのではないかと考えられます。

次回の「事業承継」は、事業承継の中でも選択されることの多い「親族内承継」を取り上げ、そのポイントと株価評価・事業承継税制の特例措置の行方について解説します。
アコーディオン目次
【事業承継】 第1回~第6回はコチラ (山田&パートナーズ 宇田川氏、金沢氏、西内氏)
第1回事業承継の基本的考え方と「プレ承継」
第2回公開をお楽しみに!
第3回公開をお楽しみに!
第4回公開をお楽しみに!
第5回公開をお楽しみに!
第6回公開をお楽しみに!

お話を伺った方

税理士

宇田川 隆 氏

税理士法人山田&パートナーズ パートナー。2002年入社。2015年アドバイザリー本部創設。現在はM&A・事業承継・資本政策等の資本戦略コンサルティングに従事。

公認会計士・税理士

金沢 伸晃 氏

税理士法人山田&パートナーズ シニアマネージャー。2013年入社。元中小企業庁における事業承継ガイドライン改訂・事業承継税制執行担当官。現在はM&A・事業承継等の資本戦略コンサルティングに従事。

税理士

西内 森吾 氏

税理士法人山田&パートナーズ マネージャー。2019年入社。大手金融機関におけるソリューション部門へ出向、現在はM&A・事業承継・資本政策等の資本戦略コンサルティングに従事。

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