公開:2026.08.27

【事業承継】非上場企業で課題となる株式の集約化と事前対策(山田&パートナーズ 宇田川氏、金沢氏、西内氏)

チャット風吹き出し最終決定版(中央寄せ修正版)

ベテランFPや経済の専門家が、FPに関わるさまざまなテーマやトピックスについて、全6回にわたり解説します。

山田&パートナーズ様
山田&パートナーズ
宇田川氏、金沢氏、西内氏

「事業承継」の3回目は、「株式の集約化」です。中小企業の事業承継の議論の中でも頻出する論点ではありますが、実務では「問題が起きてから初めて意識される」ことが多い分野でもあります。

株式の分散は事業承継において大きな問題

非上場企業において、株式が分散している状態は決して珍しいことではありません。むしろ、長い歴史を持つ企業ほど、多くの株主に分かれて持たれているケースは一般的ともいえます。そして、その多くは普段は大きな問題を生じていないのも事実です。

しかしながら、事業承継やM&Aといった重要な局面に差し掛かると、この株式の分散が一気に顕在化し、思わぬ障害となることがあります。
今回は、分散している株式の集約の必要性から、実務上の重要論点について紹介します。

なぜ株式は分散するのか

株式の分散には、いくつか典型的な背景があります。
まず、最も多いのが相続による分散です。世代交代のたびに株式が分割され、経営に関与しない親族が株主として残る構造が自然と生まれます。

また、創業時の事情も見逃せません。創業メンバーに株式を持たせたり、名義株として複数人を株主としていたりするケースも多く、これがそのまま現在に引き継がれている場合があります。
さらに、従業員や役員に対するインセンティブの一環として株式を持たせたり、取引先との関係強化の目的で株式を保有してもらったりするケースもあります。

いずれも、その時点では合理的な意思決定であり、企業運営にとって一定の意味があったものです。しかし、その関係性が将来にわたって維持されるとは限らない点が、後の問題につながります。

株式分散のメリットとデメリット

株式の分散には一定のメリットもあります。従業員や役員のモチベーション向上、取引先との関係維持、さらには経営への一定の牽制機能などが挙げられます。

一方で、非上場企業においては、株式分散のデメリットのほうがより強く顕在化する傾向があります。
意思決定の遅延や機動性の低下、少数株主による権利行使リスク、高額な買い取り請求や配当要求といった問題が実際に起こり得ます。

さらに、関係が悪化した株主がいわゆる「敵対的株主」となることで、経営の自由度が著しく制約されるケースも見受けられます。
こうした点を踏まえると、非上場企業における株式分散は、時間の経過とともにリスクを内包していく構造であるといえるでしょう。

非上場企業における基本的な考え方

上記のデメリットが顕在化することを回避するには、非上場企業においては、「所有と経営が一致している状態」が望ましいのではないかというのが、我々の考えです。
所有と経営が一致することで、意思決定を迅速に行うことができ、経営の安定性が高まり、将来的な資本政策の柔軟性も確保しやすくなるためです。

特に、事業承継やM&Aといった局面では、株主構成がシンプルであることが意思決定のスピードに直結します。したがって、一定程度の株式集約は、将来に向けた「備え」として極めて重要な意味を持ちます。

株式集約の進め方と全体像

それでは、株式集約の検討にあたり、どのようなことが重要になるのでしょうか。
まず重要なのは、現状把握と大きな方針の検討です。

現状の株主名簿を踏まえ、誰がどれくらい株を保有しており、どのような関係性にあるのかを把握することからすべてが始まります。そのうえで、「誰から、いくらで、どれくらい取得できるか」を見極めていきます。

具体的な株式集約の手法としては、任意交渉による買い取りが最も一般的です。他にも、会社による自己株式取得や持株会社による買い取り、従業員持株会の活用なども選択肢として考えられます(図表1)。

図表1■一般的な株式集約先とその特徴など

集約先特徴主な留意事項
①現経営者・所有と経営が一致しやすい
・意思決定が迅速
・交渉相手を選んで、比較的柔軟に取得可能
・経営者個人に多額の買い取り資金が必要
・低廉譲渡時は贈与税リスク
・相続発生時に再度分散する可能性あり
②発行会社(自己株式取得(金庫株))・経営者個人の資金が不要(発行会社の資金等)
・株主との関係が比較的整理しやすい
・分配可能額の範囲内しか取得できない
・既存株主の持株比率が上昇し、経営者個人への集約にはつながらない
・会社資金が流出する
・取得手続(会社法)が必要
③持株会社(HD)による買い取り・経営者個人の資金不要(外部からの借入)
・グループ経営との相性が良い
・会社株式をHDに集約できる
・HD設立・維持コストが発生
・借入返済原資(配当等)の確保が必要
・組織構造が複雑になる
④役員・従業員持株会・役職員に株式を集約できる
・役職員のモチベーションアップに寄与する
・退会時の買い取りルールを規約で定められる
・事務負担が大きい(会員管理・税務等)
・議決権行使のルール整備が必要
・魅力的な持株会にしないと、持株会への参加者が増えない

出所:山田&パートナーズ作成

一方で、スクイーズアウト(少数株主に金銭を交付するなどして会社の株主から締め出し、株式を大株主に集約するための法的手続き)のような強制的手法も制度上は存在しますが、実務上は紛争化リスクが高く、安易に採用すべきものではないと考えられています。どうしても株式の譲渡に応じてくれない敵対的株主を排除するための最終手段と捉えておくべきといえるでしょう。

実務上重要となるのは、任意交渉で円滑に買い取りを進められるかどうかという点です。以下にその交渉における注意点などを紹介します。

ケース①:友好的株主との交渉

従業員株主や旧来の取引先など、良好な関係にある株主であれば、比較的低い価格で保有株式の売却に応じてもらえるケースがあります。買い取る側としては、できるだけ安く株式を取得したいと考えるのが自然でしょう。

ただし、ここには重要な落とし穴があります。時価より著しく低い価格で株式を取得した場合、例えば個人から個人の売買の場合、時価との差額が贈与とみなされ、買い手側に贈与税が課される可能性があります。

場合によっては、贈与税を負担してでも低い価格で購入したほうがトータルの支出が少なくなるという判断もあり得ますが、これは個別の状況に大きく左右されるため、税理士などの専門家と一緒に事前の検討が不可欠です。「安く買えるから有利」と単純に考えるのではなく、税務も含めた総合的な判断が求められます。

ケース②:非友好的株主との交渉

一方で、株主との関係が良好でない場合には、交渉は一気に難易度が上がります。高値での売却要求や売却拒否がなされることもあり、戦略的な対応が不可欠となります。

ここで重要なのは、価格設定や交渉の順序、誰が交渉にあたるかといった点です。無計画に交渉を進めてしまうと、他の株主にも情報が伝わり、要求価格がつり上がるなど、状況が悪化する可能性があります。

いずれのケースにおいても、実務上は、先代経営者が存命の場合は、後継者ではなく、先代経営者が交渉を行ったほうがスムーズに進むケースが多く見られます。後継者自身が交渉する場合、これまで関係性のない株主との調整は容易ではないことが多いです。
また、交渉が難航する場合には、無理に進めるのではなく、一旦中断する判断も重要です。

ここで、我々がサポートさせていただいた事案を紹介いたします。

A社の事例—小売業、株主500名超、神奈川県

A社の現経営者は2代目であり、先代経営者の方針により、従業員を中心に株式が広く分散していました。その結果、株主数は500名超にまで増加しており、株式の分散が経営意思決定や将来的な事業承継における課題となっていました。

また、定款上、相続時に会社が株式を買い取る規定も整備されておらず、さらに資金面から大規模な自己株式取得を実施することも現実的ではない状況でした。これまでは、税務上の評価額を参考に個別対応で株式の買い取りを行っていましたが、抜本的な株主集約には至っていませんでした。

そこで、経営者からの依頼により、将来の事業承継を見据え、株主構成の整理・集約の検討をサポートすることになりました。まずは株主の属性や保有状況を分析し、どの程度の条件であれば譲渡に応じてもらえるかの仮説を整理しました。
その結果、従来の買い取り価格に一株当たり約200円程度の上乗せを行うことで、約8割の株主から同意が得られる可能性が高いとの見通しを立てました。

その後、弁護士とも連携しながら、株主に対して丁寧な文面による案内・交渉を実施し、本件では従業員持株会が、旧株主から株式を譲り受けることになりました。
結果として、想定どおり多くの株主から応諾を得ることができ、株式の大幅な集約を実現しました。

代替戦略として第三者への外部売却もある

近年では、株式の集約ではなく、全株主で外部へ売却するという選択肢も増えています。特に不動産管理会社などでは、相続をきっかけに権利関係が複雑化し、親族間での調整が困難になるケースも多く見られます。

こうした場合、第三者へのM&Aを通じて株式を譲渡し、金銭で清算することで、株主たちの公平性を確保しつつ、将来のトラブルを回避することが可能となります。
株式集約だけが唯一の解決策ではなく、状況に応じた柔軟な判断が求められます。

FPとしての提案視点

最後にひと言。株式が分散していても、現時点で問題が生じていない企業は多く存在します。しかし、その状態を放置することで、次世代へ課題を先送りしてしまう可能性がある点は見逃せません。
FPとして顧客に提案する際には、「今すぐ集約すべき」と断言する必要はありませんが、「一度検討してみる価値がある」という視点を提示することが重要です。

株式分散は、今は問題がなくとも、次の世代に交渉の負担を残す可能性があります。だからこそ、現時点で一度立ち止まり、「株式集約を検討する」という視点を持つことの重要性を、顧客企業や経営者にお伝えしておくことも大切でしょう。

次回の「事業承継」は、事業承継ガイドライン改訂時にも注目された「従業員承継」とFPの役割について紹介します。
アコーディオン目次
【事業承継】 第1回~第6回はコチラ (山田&パートナーズ 宇田川氏、金沢氏、西内氏)
第1回事業承継の基本的考え方と「プレ承継」
第2回親族内承継のポイントと株価評価・特例措置の行方
第3回非上場企業で課題となる株式の集約化と事前対策
第4回公開をお楽しみに!
第5回公開をお楽しみに!
第6回公開をお楽しみに!

お話を伺った方

税理士

宇田川 隆 氏

税理士法人山田&パートナーズ パートナー。2002年入社。2015年アドバイザリー本部創設。現在はM&A・事業承継・資本政策等の資本戦略コンサルティングに従事。

公認会計士・税理士

金沢 伸晃 氏

税理士法人山田&パートナーズ シニアマネージャー。2013年入社。元中小企業庁における事業承継ガイドライン改訂・事業承継税制執行担当官。現在はM&A・事業承継等の資本戦略コンサルティングに従事。

税理士

西内 森吾 氏

税理士法人山田&パートナーズ マネージャー。2019年入社。大手金融機関におけるソリューション部門へ出向、現在はM&A・事業承継・資本政策等の資本戦略コンサルティングに従事。

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