FP・専門家に聞く
2026.01.20
【社会保障】公的年金とiDeCoで最強の自分年金を作る(井戸美枝氏)
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公開:2026.01.20
「社会保障」の第2回目は、iDeCoの活用方法と出口戦略について解説します。
iDeCoは、よく「私的年金」と呼ばれますが、私はこれを「形を変えた公的年金」に近いものだと捉えています。法律に基づき国が整備した制度であり、公的年金だけでは不足する部分を、税制優遇を受けながら自分で作っていく年金設計になっているからです。
かつて自営業者などの「第1号被保険者」が公的年金額を上乗せする手段といえば、国民年金基金が主流でした。私自身も国民年金基金に加入しており、現在給付を受けていますが、今の時代にはiDeCoのほうが有利だと感じています。
その理由の一つは「インフレへの対応力」です。国民年金基金は確定給付型であり、物価が上昇しても受給額がスライドして増えるわけではなく、あらかじめ決まった年金額を受け取ります。私が受け取っている額も、加入当時に契約した年金額です。現在のような物価水準からすると実質的な価値は目減りしてしまっています。一方で、確定拠出型のiDeCoは運用成果によって資産が増減するため、インフレに負けない資産形成が可能です。
また、働き方の多様化に対応することができるのも、iDeCoの大きな魅力です。国民年金基金は自営業者など(1号)のみの加入ですが、iDeCoは、転職して会社員(2号)になっても、あるいは専業主婦・主夫(3号)になっても、加入し続けることができます。
iDeCoは原則60歳までやめることはできません。現代は転職が当たり前の時代です。キャリアが変わっても、自分自身の年金制度として資産を作り続けられることは、大きな利点です。
iDeCoを活用するうえで、運用期間中と同じくらい重要なのが「出口戦略」、つまり受け取り方です。iDeCoの受け取りには「年金」「一時金」「併用」の選択肢がありますが、実は受給者の93%が「一時金」を選択しています。
この圧倒的な数字には明確な理由があります。それは「退職所得控除」という大きな非課税枠が使えるからです。一時金として受け取れば、勤続年数(加入期間)に応じた控除枠の範囲内なら税金がかかりません。
分離課税なので、一時金で受け取ってしまえば、それ以降の社会保険料や税負担に影響を与えないという点もわかりやすく、一時金受け取りを選ぶ人が多いです。
もしこれを「年金」形式で受け取るとどうなるでしょうか。公的年金等控除は使えますが、毎年の所得として計算されるため、受給額によっては「雑所得」が増え、結果として翌年の国民健康保険料や介護保険料が上がる可能性があります。また、所得が増えることで医療費の窓口負担割合が1割から2割に上がってしまうケースもあるかもしれません。
また、年金で受け取る期間は運用し続けることになるので、口座管理手数料がかかります。
iDeCoの受け取り方法を検討するにあたっては、いつまで、どのように働くのか、いつから公的年金を受け取るのかなど、世帯でこれからの生活設計をたててみましょう。
年金形式での受け取りでも、所得の高かった現役時代に税制優遇を受け、年金生活の所得が低くなったときに税がかかる、いわゆる税の繰延しているため、優遇されていることには間違いありません。
一方、一時金で受け取り、税金関係を清算してしまい、NISAなどで運用を続けるという選択肢もあるでしょう。
もちろん、積み立て額が退職所得控除の枠を大幅に超えてしまう場合は、枠内分を一時金で受け取り、超過分だけを年金形式にする「併用」も有効です。
しかし、年金受け取りは金融機関によって計算方法(口数指定、定額指定など)が異なり管理が複雑になることが多いです。年金で受け取る場合は、スイッチングなどで、商品を一つにするなどの工夫をすることも選択肢の一つです。
まとまった一時金を手にしたとき、多くの人が陥りやすいことがあります。それは「住宅関連の支出」です。退職金やiDeCoの一時金で住宅ローンを一括返済したり、大規模なリフォームを行ったりする人がいますが、これには慎重になったほうが良いでしょう。
「借金がない状態で老後を迎えたい」「きれいな家で暮らしたい」という気持ちはわかりますが、その家にあと何年住むのでしょうか。70代、80代になり、体調によっては、施設に入る可能性もあるでしょう。より利便性の高い場所へ住み替える可能性もゼロではありません。数百万、数千万円単位の現金を「動かない資産」である家に固定してしまうと、いざというときの流動性が失われます。老後資金は、一度大きく使うと元に戻すのが困難です。あまり大きなお金を動かさず、手元に現金を残しておくことが心の安定にもつながります。
運用に関しても、退職後は「頑張りすぎない」ことが大切です。iDeCoで受け取った資金を、NISAなどを活用して運用し続けるのは良いことですが、商品は3本程度(例えば株式、債券、リートなど)で、シンプルに管理しましょう。商品数が多すぎると管理が煩雑になり、高齢になったときの判断能力低下リスクにも対応しきれません。分配金が出るETFなどで、日々の生活に彩りを添える程度のお楽しみとして運用するのがちょうど良い距離感かもしれません。
最後に、現役世代の方へお伝えしたいのは、「とにかく早く始める」ことの重要性です。 iDeCoは現役時代の所得控除が大きな魅力です。それは時間を味方につける制度ともいえます。まずは、少額でも構いません。生活設計に合わせて掛け金を増やしていけばいいのです。iDeCoの加入期間は退職金の「勤続年数」と同じで、退職所得控除額の計算に使われます。長く加入するほうが有利ですね。
人生100年時代、公的年金とiDeCoで、老後の選択肢と自由度を大きく左右することになるでしょう。
| 第1回 | 人生100年時代、公的年金を賢く増やすために |
|---|---|
| 第2回 | 公的年金とiDeCoで最強の自分年金を作る |
| 第3回 | 公開をお楽しみに! |
| 第4回 | 公開をお楽しみに! |
| 第5回 | 公開をお楽しみに! |
| 第6回 | 公開をお楽しみに! |
CFP®認定者、社会保険労務士、井戸美枝事務所代表
井戸 美枝 氏
関西大学社会学部卒業。社会保険労務士として独立。講演や執筆、メディア出演などを通じ、年金や社会保障、個人の資産形成について、生活者の視点からわかりやすく解説している。社会保障審議会企業年金部会委員などを歴任し、現在は国民年金基金連合会および日本FP協会の理事も務める。
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