FP・専門家に聞く
2026.08.13
【損害保険】被災後の生活再建を助ける「地震保険」。なぜ加入が必要なのか? (竹下さくら氏)
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公開:2026.08.13
日本各地で地震が頻発しています。建物の耐震化、非常用品の備蓄など地震への備えとしてやるべきことはいろいろありますが、【損害保険】第3回は生活再建のための資金となる地震保険について紹介します。
地震保険の内容について理解する前に、まず地震保険が創設された背景や経緯、その位置づけについて整理しておきましょう。
日本は世界有数の地震国ということもあり、明治以降大きな地震が発生するたびに損害を補償する地震保険制度の必要性が議論されてきました。その大きな理由は、火災保険では地震による火災や倒壊は補償されないからです。しかし、大規模な地震は巨額の損害をもたらすことが予想される、地震リスクの発生頻度や規模を統計的に把握するのは難しい、といった理由から民間の保険会社の商品として実現することはありませんでした。
地震保険制度の創設のきっかけとなったのは、1964年6月に発生した新潟地震です。地震による倒壊はもちろん、火災や津波、液状化現象など、被害は新潟県を中心に9県にも及ぶ甚大なものでした。当時の田中角栄大蔵大臣が新潟県の選出だったこともあり、1966年に「地震保険に関する法律(地震保険法)」が制定されました。
地震保険はこの法律に基づいた制度のため、その他の損害保険とは仕組みが異なります。契約者が支払った保険料は、民間の保険会社の利潤が盛り込まれないノーロス・ノープロフィット原則に基づいて、損害保険会社が共同で設立した日本地震再保険株式会社へすべて集められます。さらに、その純保険料の一部は政府へ再保険として支払われ、政府も災害時に備えて準備金として積み立てるのです。このように保険金支払い責任の一部を政府も負うことで、大災害が発生しても保険金を支払うことを可能にしました。
もちろん政府であっても無限に責任を負うことはできないため、支払われる保険金には限度額を設定しています。これは関東大震災規模の地震が再来しても保険金の支払いに支障がないよう適時見直され、2026年4月現在の総支払限度額は12兆円です。ちなみに、東日本大震災の支払再保険金は約1兆2,897億円(2025年3月31日現在)ですから、想定外の大地震が発生しない限り総支払限度額を超え、保険金が減額される可能性は低そうです。
前項で説明したとおり、地震保険は地震保険法に基づいて官民一体となって運営する制度のため仕組みについても法令で定めがあり、いずれの損害保険会社で加入しても補償内容、保険料は同じです。
補償されるのは、地震によって発生した倒壊や火災、地滑り、洪水、地震・噴火によって発生した津波、噴火によって流出した溶岩や火山灰などによる損害で、対象となるのは、居住用建物と生活に必要な動産(家財)です。ただし、1個または1組の価額が30万円を超える貴金属や宝石、美術品などは家財に含まれません。
地震保険は単独で契約することはできず、必ず火災保険と合わせて契約します。強制加入ではありませんが、現在の火災保険契約は地震保険へも加入することを前提としているため、「地震保険を外す」という意思を示さない限り地震保険へも加入することになります。ただし火災保険の契約時に地震保険へ加入しなかった場合でも、保険期間中に地震保険を契約することは可能です。
支払われる保険金額の設定条件や上限額も、地震保険法によって定められています。保険金額は火災保険の保険金額の30~50%の範囲内、建物は5,000万円、家財は1,000万円が限度額です。損害保険は実際に被った被害を補償する実損填補が基本ですが、地震保険は条文に「地震等による被災者の生活の安定に寄与することを目的とする」と明記されているように、被害を補償するのではなく被災後の当面の生活を支えるお金と位置づけられています。
保険料は、まず地震の発生リスクなどによって全国を3つの地域に区分します(図表1)。
(保険期間の始期が2022年10月1日以降の契約の場合)
出所:損害保険料率算出機構「地震保険基準料率のあらまし」
さらに建物の構造によって、主に鉄骨やコンクリート造の耐火・準耐火性能を有する「イ構造」、木造などイ構造以外の建物を「ロ構造」とし、損害保険料率算出機構が算出した保険料率(保険金額1,000円に対して、1年間に保険契約者が負担する保険料の割合)を乗じて計算します(図表2)。
(契約金額100万円あたり。保険期間の始期が2022年10月1日以降の契約の場合)
※1 2010年1月の改定に伴い、構造区分が変更となり保険料が引き上げとなる場合には、経過措置が適用されて保険料負担が軽減される場合がある
※2 主として鉄骨・コンクリート造の建物
※3 主として木造の建物
※4 過去の料率改定において、一部の県では引き上げ率に上限を設ける激変緩和措置をとっているため、同じ等地であっても料率が異なる県がある
出所:(一社)日本損害保険協会「備えて安心 地震保険の話」
政府が関与することで低廉な保険料を実現していますが、より加入を促進するために割引制度や控除制度があります。
保険料の割引制度は建物の耐震性能に応じて設定され、「免震建築物割引」は50%、「耐震等級割引」は等級に応じて10・30・50%、耐震診断・改修によって現行耐震基準を満たす「耐震診断割引」は10%、1981年6月1日以後に新築された「建築年割引」は10%が割り引かれます。これらは重複して利用することはできず、いずれか1つを適用できます。
また、地震保険料は所得税から全額(最高5万円)、住民税は半額(最高2万5,000円)を総所得金額等から控除することができます。
では、実際に地震が起きたとき、保険金はいくら支払われるのでしょう。
地震保険は2017年以降、損害の状況に応じて「全損」「大半損」「小半損」「一部損」の4つの区分を設け、区分ごとに保険金額の一定割合を支払う仕組みになっています(図表3)。
出所:(一社)日本損害保険協会「備えて安心 地震保険の話」
これは、大規模な地震災害の際も短期間に損害調査を行い、迅速な保険金支払いを目指しているからです。東日本大震災の際も、航空写真や衛星写真を活用して津波により大きな被害が生じた地域は、個別の現場調査なしで地域全体を全損として一括認定するなど、震災後の約3カ月間で約50万件、約1兆円の保険金を被災者へ支払ったと日本地震再保険株式会社は公表しています。
地震保険は、住宅を再建築することを目的とした保険ではなく「生活再建のための保険」とわかっていても、地震リスクの高い地域に住んでいる、住宅ローンの残債が多いなど、保険金額に不安を感じる場合はどうすればいいのでしょう。
まず、建物の地震保険のみに加入している場合は、家財も地震保険に加入してプラスオンするという方法があります。そのほか民間の保険会社の商品として、単独で加入できる少額短期保険の「地震補償保険」を契約したり、火災保険に「地震上乗せ特約」を付加するという方法があります。ただし、取り扱っている保険会社は限られますし、加入要件や支払い基準は地震保険と異なりますから、商品内容については詳しく確認する必要があります。
保険料が高い、補償が実損填補ではない、自分の居住地域は大地震のリスクが低いなどといった理由から、地震保険への加入については疑問を感じる人もいるようです。確かに、創設時(1966年)は火災保険の契約金額に対する地震保険の契約金額の割合は30%、補償は全損のみでした。しかし、各地で大きな地震災害が発生していること、改定を繰り返し補償が拡大されたことなどから、2024年度に契約された火災保険への付帯率は70.4%でした。
ただ、住まいによって加入の必要度は異なります。マンションの場合は建物の補償対象は専有部分のみ(内装や造作)ですから、物件価格から見ると保険金額はかなり低くなりますし、免震構造などであれば被害は大きくない可能性があります。ですから、専有部よりも躯体やエレベーター、付属設備といった、共用部分の地震保険への加入の有無を確認したほうがよさそうです。というのは、東日本大震災の際に共用部分に対する地震保険金受け取りの有無や金額が、修繕に向けての住民の合意形成に大きな影響があったといわれているからです。
公助として「被災者生活再建支援制度」がありますが、災害救助法が適用されるような被害が大きい自然災害でないと対象にならないことも多く、基礎支援金(50万円、または100万円)は罹災証明書で大規模半壊以上と判定されなければ支給されません。住宅の再建方法によっては中規模半壊以上で加算支援金(上限200万円)が支給されますが、住宅の再建方法が決まらないと申請できないため時間がかかりますし、金額は全壊の場合で基礎支援金と加算支援金との合計で上限300万円です。足りない資金を預貯金などで準備するのが難しく、持ち家が一戸建ての場合はぜひ地震保険を活用してほしいと私は考えます。
せっかく加入した保険は、いざというときに活用しなくては意味がありません。しかし地震などの大規模自然災害の際は、保険証券が見つからない、家計を管理している家族が行方不明で詳細がわからない、ということが起こらないとも限りません。そんなとき役に立つのが、日本損害保険協会の「自然災害等損保契約照会センター」です。災害救助法が適用された地域に限られますが、日本損害保険協会の会員会社全社に問い合わせて契約の有無に関する調査をしてくれます。もちろん、手掛かりとなる情報が多いほど照会はスムーズです。保険の契約内容についても、平時から家族で情報共有をしておくといいでしょう。
| 第1回 | 海外旅行時の保険は必須?補償される費用とは |
|---|---|
| 第2回 | 大規模な自然災害が頻発する時代。火災保険料の値上がりは続く!? |
| 第3回 | 被災後の生活再建を助ける「地震保険」。なぜ加入が必要なのか? |
| 第4回 | 公開をお楽しみに! |
| 第5回 | 公開をお楽しみに! |
| 第6回 | 公開をお楽しみに! |
CFP®認定者
竹下 さくら 氏
独立系のなごみFP事務所を運営。個人のコンサルティングを柱に、セミナー講師や執筆活動も行う。千葉商科大学 基盤教育機構 特任教授。『1 時間でわかる やれば得する! 保険の見直し 100の鉄則』(技術評論社)など著書多数。
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