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2025.12.09
【経済動向】2026年の世界経済を知る重要ポイントを解説(永濱利廣氏)
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公開:2025.12.09
今回の「経済動向」は、2026年の世界経済展望について解説します。
〇2025年の振り返り
2025年の世界経済はトランプ関税の影響を大きく受けました。世界経済は減速し、日本経済は景気後退の瀬戸際でした。日本では2025年7-9月期はマイナス成長が確定しており、状況次第では年内に景気後退に入る可能性もありました。生産活動の低下に加えて、物価が高止まりし、実質賃金はマイナスで推移する厳しい状況でした。中でも食料品の値上がりが大きく、生活者にとって苦しい1年だったといえるでしょう。
〇2026年の世界経済見通し
2026年度以降は景気が回復し、世界経済は良くなると見ています。この背景には、世界のGDPの4分の1を占める米国経済の動向があります。
[米国経済]中間選挙に向けた景気刺激策で回復に向かう
米国では2026年11月に、米連邦議会の上下両院を改選する中間選挙が行われます。現在は上院・下院ともトランプ大統領が率いる共和党が多数派を占めているものの、同氏の支持率が低下しているとの報道もあります。第2次トランプ政権として初の大型選挙ですから、なんとしてでも景気を引き上げて支持率を高めようとするでしょう。
例えば、トランプ政権では、2025~2028年の期間、飲食店などの店員が受け取るチップや残業代に対する課税免除などの減税政策を実施しており、消費意欲の向上につながりそうです。
また、トランプ関税の影響で世界経済が減速したことで、原油をはじめとするコモディティ価格が下がったことは、物価高に苦しむ生活者にとっての追い風となります。景気減速によって利下げ観測が強まれば、株価が上昇する可能性もあります。米国では金融資産の約4割を株式で保有しているため、株価上昇は家計にもプラスの影響があるでしょう。
設備投資費用の即時償却を復活・拡充するなど、企業の設備投資を促進する効果が期待される政策も打ち出されています。突発的な金融システム不安などが起きない限り、2026年の米国経済は2025年よりは良くなると考えられます。
[中国経済]不動産バブル崩壊で構造的な需要不足に
中国経済については、引き続き厳しい状況が予想されます。中国では不動産バブルが崩壊し、構造的な需要不足が起きています。これは1990年代のバブル崩壊によって経済が長期に停滞した30年前の日本と、同じ道をたどっているといえるでしょう。
このような環境下では、本来ならば金融財政政策を拡大し、資産価格を引き上げてデフレを回避する必要があります。ですが、中国では思い切った金融緩和政策を打ち出しづらい状況にあります。米国を中心に、中国に依存しないサプライチェーンの再構築が進められているため、中国から資本が流出する傾向にあるからです。
思い切った金融緩和政策を実施すれば、資本流出に拍車をかけかねません。金融緩和をしたくても、できない状況だといえるでしょう。なお、中国の若年失業率は10%を超えており、かつての日本のように「就職氷河期世代」を生み出す懸念もあります。
[日本経済]2026年度は実質賃金がプラスになる可能性も
日本は2026年度以降、米国を中心とする世界経済の好調に引っ張られるかたちで景気が回復するでしょう。生産活動が回復し、企業業績が好転することに加えて、2026年度には実質賃金がプラスになる可能性もあると見ています。
日本銀行が10月31日に公表した「経済・物価情勢の展望(展望レポート)」では、「消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、米などの食料品価格上昇の影響が減衰していくもとで、来年度前半にかけて、2%を下回る水準までプラス幅を縮小していくと考えられる」とされ、エコノミストの予想を取りまとめたコンセンサス調査でも同様の見方をされています。
2026年の春闘での賃上げ率が、2025年の5.26%より若干低い程度になるとすれば、2026年度は実質賃金がプラスになる可能性がありそうです(図表1)。
米国で緩やかに利下げが行われれば、為替相場では円高ドル安が進むでしょうし、商品市況も落ち着くでしょう。ガソリンの暫定税率廃止も控えています。インフレが落ち着き、実質賃金が増えれば消費意欲が向上し、中小企業を中心とした内需関連企業の業績も上向くと考えられます。
2026年度については、日経平均株価は4万5,000円-5万5,000円のレンジ、ドル円レートは1ドル=135円-155円のレンジで推移すると見ています。ただし、米国がリセッション(景気後退局面)に近い状況になった場合には、さらなる円高の可能性もありえます。
[政治・経済イベント]
| 米国の中間選挙 |
2026年の最大の政治・経済イベントは、11月に行われる米連邦議会の中間選挙です。中間選挙の結果はトランプ政権の任期後半の政策運営や、2028年に行われる大統領選挙にも影響します。トランプ関税や、日本と世界の経済、安全保障への影響も注視する必要があるでしょう。
| 日米欧の金融政策決定会合 |
日本銀行、FRB(米連邦準備制度理事会)、ECB(欧州中央銀行)の金融政策の動向は要注目です。
[チェックすべき経済指標]
| 米国 |
米国の経済・金融政策を見るうえでは、米国の労働省が原則として毎月第1金曜日に公表する雇用統計(非農業部門雇用者数)の確認は必須です。景気の方向性を把握するには、S&P グローバルが発表するグローバル製造業PMI(購買担当者景気指数)、ISM(全米供給管理協会)が発表するISM製造業景気指数などが重要です。
米国は消費主導の経済ですから、民間調査機関のコンファレンスボードが発表する消費者信頼感指数や、ミシガン大学消費者信頼感指数などの消費関連の指標も要注目です。
| 中国 |
中国経済の先行きを知るには、製造業PMI(購買担当者景気指数)をチェックします。製造業PMIには中国の国家統計局が発表する指数と、財新とS&Pグローバルが共同で発表する指数があるので両方を確認します。国家統計局からGDPと同時に発表される鉱工業生産、小売売上高、固定資産投資なども重要です。
| 日本 |
金融政策の先行きを知るためには消費者物価指数と賃金動向が大切です。景気の方向性を見るための日銀短観(全国企業短期経済観測調査)や鉱工業生産指数なども注目されます。
| 半導体出荷・在庫バランス |
私が個人的に注目している指標に、台湾と韓国と日本の半導体の出荷・在庫バランスがあります(図表2)。これは半導体産業の在庫調整の状況を示す経済指標の1つで、「出荷の前年同月比増減」から「在庫の前年同月比増減」を差し引いて計算されます。半導体サイクルを把握するのに役立ち、景気の先行指標であるともされます。
| 第1回 | 2026年の世界経済を知る重要ポイントを解説 |
|---|---|
| 第2回 | 公開をお楽しみに! |
| 第3回 | 公開をお楽しみに! |
| 第4回 | 公開をお楽しみに! |
| 第5回 | 公開をお楽しみに! |
| 第6回 | 公開をお楽しみに! |
第一生命経済研究所 経済調査部 首席エコノミスト
永濱 利廣 氏
早稲田大学理工学部工業経営学科卒業、東京大学大学院経済学研究科修士課程修了。1995年第一生命保険入社、日本経済研究センターを経て、2016年より現職。内閣府経済財政諮問会議民間議員、景気循環学会常務理事、衆議院調査局内閣調査室客員調査員、跡見学園女子大学非常勤講師。国際公認投資アナリスト(CIIA)、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)。景気循環学会中原奨励賞(2015年)。
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