著名人インタビュー
2026.03.05
【ジャーナリスト/池上彰さん】 時代の転換期だからこそ、FPに必要な「教養」と「伝える力」(後編)
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公開:2026.03.05
更新:2026.03.09
さまざまなフィールドで活躍する方々に、自身を成長させてくれた学びや人生における挑戦、夢や目標の実現について語っていただく本企画。今回は、ジャーナリストの池上彰さんのインタビューを前後編でお届けします。後編では、情報とお金のリテラシーの必要性、FPの知識をさらに深めるための教養や顧客とのコミュニケーション術について、お話をうかがいました。
——テクノロジーの進化によって、私たちの生活は便利になった半面、情報やお金に対するリテラシーの欠如がそのままリスクとなりうる時代に。投資詐欺なども入り口はSNSからといったケースが多く、昨今はAI(人工知能)などの技術を駆使した巧妙なものとなっています。特に中高年をターゲットとした投資詐欺が増えているそうですね。
「○○さんが投資のアドバイスをしてくれます」と有名人の名前を騙り、SNSからLINEグループへと誘導する投資詐欺が、一時ニュースを賑わせましたね。実際に私も自分の名前や写真をこうした犯罪集団の詐欺に使われたことがあります。あるニュース番組で「池上彰」を称する投資詐欺のLINEグループに潜入取材してみたところ、私のアイコンを使ったAIが出てきて「この株に投資すると必ず儲かります」などと言うわけです。
こうした詐欺に引っかかるのは、懐に少々余裕のある中高年の投資ビギナーというパターンが非常に多い。詐欺グループは、老後のお金に不安があるけれども、投資は始めたばかりで自信がない……という人の心の隙をうまく突いてくるのですね。しかし、「うまい話」に飛びつく前に「池上彰が一個人に株をすすめることなんてあるだろうか?」と、立ち止まってほしい。そもそも「いい儲け話があります」と他人が近寄ってきた時点で、「そんなにいい儲け話なら、なぜ自分でやらないのか」と疑う心を持ってほしいですね。また「“必ず”儲かります」という言葉が出たら、それはもうすぐに「詐欺」だと判断したほうがいい。
——SNS全盛の今、誤った情報に振り回されないネットリテラシーも問われます。

物心ついたときからネットが生活の一部であるデジタル・ネイティブ世代よりも、中高年世代のほうに危うさを感じます。定年退職した親に久しぶりに会ったら、ネットで見た陰謀論にどっぷりとはまっていた……なんていう話もありますよね。SNSや動画などで、一度でもそうしたコンテンツをクリックしてしまうと、次々と類似の情報が「おすすめ」されるようになる。そうすると、日常的に触れる情報もどんどん偏ったものになり、誤った知識やデマなどが、いつの間にか植え付けられてしまうことになります。
怪しいリンクやノイズとなりそうな情報などを興味本位でクリックしないことはもちろん、自分がアルゴリズムに振り回されていないか、常に客観的な目を持っておきたいものです。ニュースを読むときも、必要な情報や読みたい記事を普段から取捨選択し、「アルゴリズムは自分で育てる」という意識を持つことで情報の質は大きく変わります。
正しい情報をキャッチするには、情報源をネットだけに限定せず、新聞やテレビ、雑誌、書籍など幅広いメディアから収集することを心がけておくこともポイントです。いち早く情報を得たいときはネット、知識を深めたいときは書籍など、様々な媒体を目的によって使い分けることが必要だと思います。
——「教養とは、知識の運用力」であるとご著書では書かれています。FP資格で得た知識をよりブラッシュアップするために、普段から実践できることはありますか。
資格の勉強では暗記することも重要ですが、覚えた事柄に一体どういう意義があるのか、根本から理解しておくことが大事です。例えば、法律の条文などはただ覚えるだけでなく、その法律が成立するまでの過程についても調べてみる。「なぜ、この法律を制定することになったのか」「いつ、法律をつくる機運が高まったのか」など、歴史や背景などの文脈に目を向けてみることが、「FPとしての教養」だと思うのですよね。これを続けると、それまで「点」として学んでいたことがつながっていき、知識にも厚みが出てきます。
また、これはFPに限らないことですが、教養の幅を広げるためには、いくつになっても知的好奇心を持ち続けること、そのために多様な人間関係をつくることも大事です。会社員であれば、会社と家以外の居場所となる“サードプレイス”をつくる。リタイアした人であっても、地域のボランティア活動などに参加したり、新たな学びに挑戦したり、何かしら社会との関わりを持つことが、教養を深めることにもつながります。
——FPは顧客に各種制度の情報や内容をわかりやすく伝えなければなりません。どのように「伝える力」を磨けばよいでしょうか。
「伝える力」は、「聞く力」でもあります。相談業務であれば、まずは何に対して困っているのか、丁寧に傾聴することに注力する。相手の話をよく聞き、観察するうちに、もしかしたら「真の困りごと」は別のところにあると気付くかもしれない。顧客が持つ迷いや悩みに寄り添いながら課題を整理し、最終的に本人が希望するところに着地できるよう、そっと背中を押してあげるのが、FPの役割ではないでしょうか。ほかにも、複雑な制度はシンプルにかみ砕いて説明すること、一般の人が聞き慣れない金融・経済の専門用語などはイメージが湧くように「翻訳」して伝えることなども意識しておきたいですね。
もう一つ、大切なことは「相手へのリスペクト」です。いくら良いアドバイスでも、上から目線で「教えてやろう」という姿勢では、なかなか相手の心には響きません。私は小学生にニュースを解説することもよくありますが、子どもたちからの質問に答える際には、「なるほど、いい質問ですね」「そういうふうに考えているんですね」など、まず相手の言葉を受け止めてから話すように心がけています。コミュニケーションを取る相手の視点に合わせて聞き、こちらの意見を伝えることが肝心です。
「ファイナンシャル・プランナー」を私なりにわかりやすく言い換えると、「お金との付き合い方を教えてくれる相談員」。社会の変化のスピードが加速する今、FPの皆さんは、貯蓄や投資をはじめ、私たちの暮らしと人生設計に伴走してくれる身近な存在として、知識や経験を磨いてほしいと思っています。
ジャーナリスト
池上彰さん (いけがみ・あきら)
1950年長野県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、1973年にNHK入局。報道記者として、警視庁、気象庁、文部省(現・文部科学省)、宮内庁などを担当する。1994年から11年間にわたってNHK「週刊こどもニュース」のキャスターを務め、そのわかりやすい語り口がお茶の間で人気に。2005年にNHKを退局し、現在はフリーのジャーナリストとして執筆活動やニュースの解説など幅広い分野で活躍。名城大学、東京科学大学、立教大学など、複数の大学で教鞭を執る。『池上彰の未来予測 After 2040』(主婦の友社)、『50歳から何を学ぶか 賢く生きる「教養の身につけ方」』(PHP研究所)、『一気にわかる!池上彰の世界情勢2026 トランプ関税ショック、その先にある世界編』(毎日新聞出版)など著書多数。
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