FP・専門家に聞く
2026.03.12
【資産運用】アセット・アロケーションよりも大切!?手取り額を最大化する「アセット・ロケーション」(横田健一氏)
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公開:2026.03.12
【資産運用】第4回目は、資産運用の基本として重視されるアセット・アロケーションと、手取り額を最大化する「アセット・ロケーション」について解説します。
資産運用の成果を決める大きな要因とされるのが「アセット・アロケーション(Asset Allocation、資産配分)」です。この重要性に初めて注目した論文が1986年に発表された『Determinants of Portfolio Performance(ポートフォリオ・パフォーマンスの決定要因)』で、結論は「ポートフォリオのパフォーマンスの93.6%はアセット・アロケーションで決定される」というものでした。その後、アセットクラスの定義や銘柄選択、マーケットタイミングなども含めてさまざまな分析が行われましたが、いまや長期的なパフォーマンスは概ねアセット・アロケーションで決まるということは、機関投資家の間では常識となりました。
例えば、安定運用を至上命題とするGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は、5年ごとに基本ポートフォリオを定めアセット・アロケーションの見直しを行っています。最新のアセット・アロケーションは国内債券、外国債券、国内株式、外国株式の4資産を均等に25%ずつ保有することとしており、時価が上がった資産を売却し、下がっている資産を買い戻すことで乖離許容幅に収まるようリバランスしています。
資産をどのような割合で保有するかを決めるアセット・アロケーションとよく似た言葉ですが、資産配分ではなく、どの口座へ置くかを決める「アセット・ロケーション(Asset Location、資産の置き場所)」という考え方があります。資産=すべて運用資金である機関投資家にとってアセット・アロケーションは最も重要ですが、生活者にとって運用資金は資産の一部です。また、NISAやiDeCoなどの制度も利用できます。
リターンが高い資産は非課税口座や税制優遇口座を優先的に利用しながら運用し、リターンが低い資産は課税口座で保有することで税引き後の手取り額を大きくすることが可能になりますから、長期になるほど大きなリターンの差を生むことになります。ですから、私は生活者が資産形成をするうえでは、アセット・ロケーションは、アセット・アロケーションと同等か、それ以上に重要だと考えています。
世代などライフステージごとにポートフォリオやアセット・アロケーションを変えるという考え方もありますが、これはあくまで資産運用についての話です。生活者の場合、お金の管理は資産運用だけでなく家計の資産全体で見ていくことが重要です。
資産形成世代は家計全体を「ふだん使うお金」「とっておくお金」「もうすぐ使うお金」「当面使わないお金」の4つに分けて管理するのがよいと考えています(図表1)。目安となる金額は家族構成や職業によっても異なりますが、一般的にはふだん使うお金は生活費の1.5カ月分程度を現金や普通預金で、とっておくお金は6カ月~1年程度の生活費を普通預金や定期預金で、5年以内に必要となるもうすぐ使うお金は定期預金や個人向け国債などの元本保証商品で確保しつつ、これらに当てはまらない当面使わないお金が運用に回してもいいお金と整理すると管理しやすいと考えています。

セカンドライフ世代も「ふだん使うお金」については同じ考え方ですが、「とっておくお金」は「使っていくお金」となり「生活費-年金」(年金収入のみでは賄えない支出分)の5年分程度を“ダム資金”として、マーケットが急落した場合に運用資産を取り崩さなくても生活を維持できるようにプールしておきます。
資産形成世代の「もうすぐ使うお金」は、セカンドライフ世代では「使うかもしれないお金」として病気・けが・介護などに備えるお金を1人300万~600万円程度(家のリフォームや車の買い替えなどがある場合はさらにその分も)、この2つは預貯金など元本保証商品で取り分けておきます。これら3つにあてはまらない残りが「運用し続けるお金」です。このお金を運用しながら、定額や定率で定期的に取り崩して「使っていくお金」へ移動させます。5年分は多すぎると思うかもしれませんが、相場が大きく下落した際に安値で売却すると資産寿命が短くなってしまうため、そういう時期はいったん取り崩しを停止するための余裕期間として、過去の暴落時のデータを参考に5年分としています(図表2)。

これらのことからわかるとおり、生活者が投資に回せるお金は資産の一部です。その中で細かく精緻にアセット・アロケーションを組み立てる必要性は必ずしも高くないのではないか、というのが私の考え方です。
では、リスクの取り方や収益性、安全性、流動性はどのように考えたらいいのでしょう。例えば、運用資産の全額を低リスク資産で運用すると安全性はある程度確保されますが、収益性が低く、リスクは低くても運用商品ですから流動性が確保しづらくなります。ところが、「運用し続けるお金」であっても大半をリスクのない安全資産で保有し、全体としては、全額を低リスク資産で運用したときと同程度の収益が期待できるよう、高リスク資産で運用するとどうでしょう。大半を安全資産で保有しているため流動性や安全性が確保でき、比較的少額の高リスク資産ならば相場の暴落時も波を乗り越えるまで待つことも可能でしょう。
第2回の『「全世界株式インデックスファンド」がシンプルで手間のかからない資産形成に最適な理由』で紹介したとおり、生活者にとって資産運用はシンプルで手間がかからないことが重要だと考えています。「全世界株式インデックスファンド」は高リスク資産に分類されますが、資産形成世代は当面使わないお金の一部を、セカンドライフ世代は運用し続けるお金を振り分けるならば、1本の投資信託であったとしても、投資対象は数千銘柄に分散されていますから問題ないと考えています。
投資家が手にする金融商品の実質的なリターンは、投資資産のリターンから手数料や税金といったコストを引いたものとなります。投資資産そのもののリターンは投資する側でコントロールすることはできませんが、手数料は金融機関や商品を選ぶことで、税金についてはNISAやiDeCo、企業型DCといった税制優遇のある口座を選択して優先的に使っていくことで、自身でコントロールすることが可能です。
例えば、100万円を一括投資して利回り4%で30年間運用した場合、コストが年率0.2%だと306万円になりますが、年率2%では181万円です。毎月1万円を利回り4%で30年間積み立てた場合は、コストが年率0.2%だと696万円、年率2%では492万円と、いずれも見過ごせない差が生じます。
図表3は、金融商品のリターン(横軸)と口座の種類(縦軸)をマトリックスにしたもので、課税口座で優先的に持つべきアセット、非課税(税制優遇)口座で優先的に保有すべきアセットをそれぞれ示しています。ローリターンの預金は、そもそもあまり利益が出ないので課税口座、株式やREIT(不動産)といったハイリターンのアセットは利益が大きくなる可能性があるので非課税口座を優先的に利用するのが基本的な考え方になります。

この組み合わせの違いによるリターンの差を、具体的に示したのが図表4です。 預金と株式を100万円ずつ保有し、預金は0.1%、株式は5%の利回り(年率)を想定します。ケース1は預金を課税口座、株式を非課税口座で保有した場合、ケース2は預金を非課税口座、株式を課税口座へ置いた場合の試算です。この場合、アセット・アロケーションはいずれも同じで預金50%、株式50%となります。このことからもわかるとおり、アセット・アロケーションというのはどのようなマーケットのリスクをとるかということで、課税方法とは関係ありません。この2つのケースの場合、たった1年で0.5%の差が生じます。期間が長くなり複利運用をすれば、その差がもっと大きくなることは明らかでしょう。

また、非課税(税制優遇)口座内でアセット・アロケーションを考える人もいるようですが、これも意味がありません。ハイリターンの資産はできるだけ非課税口座や税制優遇口座を優先し、上限金額を超えた場合のみ課税口座で持つことが税引き後のリターンを最大化する方法だからです。
生活者の資産形成においては細かいアセット・アロケーションの重要性はそれほど高くないとも考えられます。ライフプラン・シミュレーションに沿って手元に必要な流動資金が確保できていれば、自身のリスク許容度に応じて全世界株式インデックスファンド1本を長期保有することも十分選択肢になるのではないでしょうか。
※本記事にて記載した情報は、取材対象者の見解を掲載したものであり、当協会の意見・方針等を示すものではありません。本記事に掲載されている内容に関して、資格・認可が必要となる業務が含まれている場合があります。そのような業務を行う場合、当該資格や認可を得るか、もしくはそれらを有する専門家と協働して実行することが必要になります。
CFP®認定者 株式会社ウェルスペント 代表取締役
横田 健一 氏
野村證券株式会社勤務を経て、2018年1月に独立。「フツーの人にフツーの資産形成を!」というコンセプトで情報サイト「資産形成ハンドブック」を運営。家計相談やライフプラン・シミュレーションの提供を行い、個人の資産形成をサポート。ウェルビーイング学会会員(ファイナンシャル・ウェルビーイング分科会所属)。「ファイナンシャル・ウェルビーイング検定」全面監修。近著「増やしながらしっかり使う 60歳からの賢い「お金の回し方」」(KADOKAWA)
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