公開:2026.08.18

【金融経済教育】若手社員向けセミナーで伝えたい 「早く始めて長く続ける」コツコツ投資と「人生を楽しむ」メリハリ消費(安藤宏和氏)

チャット風吹き出し最終決定版(中央寄せ修正版)

ベテランFPや経済の専門家が、FPに関わるさまざまなテーマやトピックスについて、全6回にわたり解説します。

安藤宏和氏のアイコン
安藤宏和氏

「金融経済教育」第3回は、企業の従業員に向けたマネーセミナーについて、新入社員や若手社員に向けたポイントと注意点を解説します。

従業員向けセミナーを金融リテラシー向上の機会に

第1回でもお伝えしましたが、私が金融経済教育の中でも特に力を入れているのが、企業が主催する従業員向けのセミナーです。自治体や金融機関などのセミナーに自発的に参加する方々に比べ、会社のセミナー受講者は、興味・関心の度合いや金融リテラシーのレベルに大きな差があります。自社の福利厚生や企業年金などの制度を使いこなしている人もいれば、まったく興味がないという人も。多様な人が働く「会社」という場で、金融経済教育の機会を提供することこそが、社会全体の金融リテラシーの底上げにつながると考えています。

企業からセミナーの依頼を受けた際に重要なことは、①新入社員や50代など、どのような年齢層の社員が対象か ②どのようなテーマを取り上げるか ③セミナーのレベルはどのあたりに設定するか、といった点を明確にしておくこと。そして、人事・総務担当者との打ち合わせの段階で、セミナーのゴールを共有しておくことです。

では、新入社員向けセミナーの場合、どのようなトピックを取り上げ、どのような点に注意すればいいのでしょうか。実際に、ある企業で実施したセミナーを例に、ポイントを順番に見ていきましょう。

新社会人必須の知識をベースに長期投資の基本を伝える

以前、講師をした新入社員対象の「社会人向け金融教育セミナー」のテーマは、「新社会人のときこそ、知っておきたいお金のこと」。私は、「税金・社会保険やDC・NISAを使った資産形成など、生活に直結するお金の基礎知識と考え方を学び、皆様の人生に役立てていただきます!」というように、必ず「本日のセミナーのゴール」を受講者に示すところからスタートします。

受講者には知識のインプットだけでなく、セミナー終了後、すぐに学んだことを「実践」できるようになっていただきたいからです。講師が先にセミナーのゴールを提示しておくことで、「この時間で自分は何を得られるのか」を具体的にイメージでき、受講のモチベーションがぐっと上がります。

では、20代向けセミナーで取り上げるトピックはどのようなものがいいのか。一例として、以下のような構成で考えてみましょう。

新入社員向けセミナーのトピックと構成の事例

第1部 私たちを取り巻くお金のこと
第2部 DC・NISAの基礎知識
第3部 投資・運用の基礎知識
第4部 運用商品の選び方
第5部 豊かな人生を送るために知っておきたい「考え方」

出所:安藤宏和氏が作成したセミナー資料より一部抜粋

受講者はつい先日まで大学生だったということを念頭に、まずは社会保険や健康保険の基本的な仕組みをはじめ、給与明細の読み方などについて説明します。会社員の公的年金は「2階建て」の構造となっており、その上に企業年金や個人型確定拠出年金(iDeCo)が上乗せされる仕組みであることなどを一通り解説した後、「資産形成」について詳しく伝えていきます。

今の若者世代は一昔前と比べて、投資に関する興味・関心が比較的高いと感じていますが、皆が皆、投資を始めているかというと、そうでもありません。ですから、なぜ、若いうちから投資を始めたほうがいいのかというところから、しっかりと説明していきます。

物価上昇によって、預貯金だけではお金(資産価値)が目減りしていくという背景を踏まえて、将来の資産形成のために投資・運用や節税という選択肢があること。長期投資で資産を増やすには、「早く始めて、長く続ける」ことが秘訣となること。企業型DCやiDeCo、NISAなどの制度を賢く活用して、少額でもよいので若いうちから投資をスタートすることが重要であることを強調しています。

人生の充実度がアップする「お金の使い方」指南も

若い世代だけでなく、どの世代に向けたものでも共通することですが、私がセミナーで心がけていることは以下の3つです。

  • 専門的な用語は言い換えてわかりやすく伝える
  • お金や将来に対する不安を過度にあおらない
  • ファイナンシャル・ウェルビーイングの視点を持ってもらう

若年層や投資ビギナー層に対しては特に、①の「わかりやすく伝える」ことに心を砕いています。例えば、NISAの説明をする際に「配当金や値上がり益に対して無期限で非課税となり、引き出し制限もありません」と言われてもピンと来ない受講者がいるかもしれません。そういうときは、「増えた部分に対する税金がずっとゼロになり、いつでも引き出せます」などとしたほうが、よりわかりやすくなります。

専門用語の羅列のせいで、セミナーを聞くモチベーションが最初から下がっては元も子もないので、難しい言葉はなるべく言い換えるようにしています。漢字やカタカナを「ひらがな」に変換して話すようなイメージでしょうか。プロフェッショナルとしての信頼感は大切にしつつも、「上から目線」の押しつけにならないよう、受講者に対して一定の敬意を保った話し方をすることも心がけています。

②の「不安を過度にあおらない」ことは、私のFPとしてのポリシーでもあります。若い世代には「このままでは老後にお金が足りないかもしれない」という不安よりも、もっと明るい未来を思い描いてライフプランを立ててほしいからです。

「ファイナンシャル・ウェルビーイング」にもつながることですが、20代のうちから「老後のために」と生活費を切り詰めて投資し、“NISA貧乏”のような状態に陥ってしまうのは、本末転倒です。自分が目指す夢や未来に向けたプランを立て、資産形成だけでなく自らの中長期的なウェルビーイング向上につながる自己投資にも励んでいただくことを推奨しています。

③の「ファイナンシャル・ウェルビーイングの視点」は、どのセミナーでも必ずお話しすることです。ファイナンシャル・ウェルビーイングとは「お金について不安がなく、管理できていて、“気持ち良く使う”ことができている状態」であることを解説し、そのためには投資や貯蓄だけでなく、「お金の使い方」が重要であると伝えています。

特に若い世代に覚えていただきたいのは、「コツコツ投資とメリハリ消費」。漠然とした将来への不安からお金を貯めるのではなく、いつまでにどれくらいの金額が必要なのか、使う目的とゴールを決めてから、コツコツと貯蓄や投資を始める。一方で、人生が豊かになることや今しかできない経験、キャリアアップのための自己投資には惜しみなくお金を使う。セミナーを通じて、「お金に縛られない生き方」を後押しできるようなメッセージを発信していきたいと思っています。

次回の【金融経済教育】分野は、年代別・生活者向けセミナーのポイント②<30〜40代編>について解説します。
アコーディオン目次

お話を伺った方

CFP®認定者、株式会社あしたば代表取締役社長

安藤 宏和 氏

三井住友海上での勤務を経て、FPオフィス「あしたば」を開業。幅広い業種・規模の企業で「従業員向け金融教育研修」の講師を務め、中学・高校等の教育機関でも「学生・生徒向け金融教育講座」を受け持つなど、生活者が金融リテラシーを高め「ファイナンシャル・ウェルビーイング(FWB)」を実現するための金融経済教育に力を入れている。

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