公開:2026.07.21

更新:2026.07.22

【金融経済教育】知識から広がる「社会とのつながり」。学校と家庭で育む子どもの金融リテラシー(安藤宏和氏)

チャット風吹き出し最終決定版(中央寄せ修正版)

ベテランFPや経済の専門家が、FPに関わるさまざまなテーマやトピックスについて、全6回にわたり解説します。

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安藤宏和氏

「金融経済教育」第2回は、若年層への取り組みについて、これまでの変遷と英米との比較、FPとして感じる課題や子どもたちへの関わり方について解説します。

日本における学校での「お金の教育」はどう変化してきたのか

若年層への金融経済教育への重要性や注目度がますます高まる現代。日本の教育現場ではこれまでどのようなことが行われてきたのか、節目となる出来事とともに「お金の教育」の変遷をざっくりと振り返ってみましょう。

戦後の復興期は「勤労と貯蓄の奨励」が第一の目的だった金融経済教育。1948年より全国の小中学校に設置されたという「こども銀行」は、国による「貯蓄奨励策」としての取り組みでした。金融機関と連携して校内に銀行窓口を設け、実際に集金するなど児童自身が銀行業務を体験することで“貯蓄の大切さ”を学んだそうです。その後、高度経済成長期から2000年ごろにかけては、大量消費社会の進展により、トラブルから身を守るための「消費者教育」という側面がクローズアップされていきます。

日本の金融経済教育の大きな転換点となったのが、ペイオフの全面解禁や、年金不安などのニュースが注目された2005年。金融広報中央委員会はこの年を「金融教育元年」と位置付け、その内容を家計管理や長期的な資産形成といった、より実践的なものへとシフトさせていきます。2012年には金融庁主導のもと、「金融経済教育研究会」が設置され、国民が「最低限身に付けるべき金融リテラシー」に対する議論を開始。金融リテラシーを「家計管理」「生活設計」「金融知識及び金融経済事情の理解と適切な金融商品の利用選択」「外部の知見の適切な活用」の4分野に分け、必要とされる知識を年齢層やライフステージ別に体系化しました。2014年にはこの内容を「金融リテラシーマップ」として公表しています(図表1)。

図表1■「最低限身に付けるべき金融リテラシー」の項目別・年齢層別スタンダード

 

出所:金融経済教育推進機構(J-FLEC)「金融リテラシー・マップ」(2023年6月改訂版)
より一部抜粋、赤枠は日本FP協会

さらに、2022年度は学習指導要領改訂により、小・中・高校での金融経済教育が拡充されました。特に高校では、家計管理やライフプランニングなどに加え、金融商品の特徴や資産形成についても学ぶようになっています。その背景の一つが、同年度に施行された成年年齢の引き下げです。高校在学中にローンなどの契約トラブルに巻き込まれるリスクが高まったことや、自助努力による資産形成の重要性が増したことが、金融経済教育の高校必修化を後押ししたといえるでしょう。

英米では「消費と投資のより良い意思決定」がゴール

英国や米国など、海外の事例は日本の金融経済教育とはどのように違うのでしょうか。

どちらの国も日本と同様、国家戦略として金融経済教育を推進しており、米国の場合は、非営利団体の「ジャンプスタート個人金融教育連盟(Jamp$tart)」などが、パーソナルファイナンス教育に関する「ナショナルスタンダード」をお金の知識の教育基準として策定しています。

2021年版では、「収入を得る」「支出」「預金」「投資」「クレジット管理」「リスクマネジメント」の6分野において、第4学年(小学生:9〜10歳)、第8学年(中学生:13〜14歳)、第12学年(高校生:17〜18歳)の3つの段階で、到達しておきたい知識と意思決定のスキルを示しています。州によって異なるようですが、小学校低学年のうちから利息や保険の概念、投資やローンの基本について学ぶのが特徴です。

英国では、日本の学習指導要領にあたる「ナショナル・カリキュラム」で5〜16歳までを4つのキー・ステージに分けて教育プログラムを作成し、シチズンシップ(市民教育)、数学、PSHE(Personal,Social, Health and Economic education)といった教科で金融経済教育を扱っています。米国と同様、小学校から「お金の価値」「貯蓄の重要性」「社会におけるお金の流れ」を学ぶことに重点が置かれ、例えば「シチズンシップ」のキー・ステージ3(11〜14歳)では、お金の概念と社会的な意味をまず学んでから、支払いや借り入れ、お金の管理、節約といった順に学習を進めていきます。

「お金と社会との関わり」が基本となっていること、消費や投資の意思決定ができるよう、低学年からのカリキュラムが組み立てられていること、ディスカッションやゲームなどを通して「自分ごと」として学習できるアプローチが積極的に取り入れられていること——などが英米の教育の特徴であり、日本の取り組みとの違いだといえるでしょう。

「金融経済教育」を子どもが社会につながる第一歩に

学習指導要領の改訂により、一歩進んだ日本の金融経済教育ですが、実際に使われている高校生向けの授業動画や学習資料を見ていると、まだまだ改善の余地があることを実感しています。

私が気になるのは、「お金を通して学ぶ、自分と社会とのつながり」という本質的な視点が、金融経済教育の中では伝えきれていないのではないか、という点です。現在の教材は制度や仕組みの解説にとどまり、その根底にある経済やお金の循環といった部分までは、あまり踏み込めていないものが多いように感じます。

ライフプランのモデルが「会社員」に偏る傾向にある点も違和感を覚えます。高校生にとって「住宅・教育・老後」といった人生の三大費用は遠い未来の話であり、実感を伴うのは困難です。金融リテラシーマップでも言及されている「起業」の選択肢を視野に入れられるよう、授業でもしっかり取り扱うなど、子どもたちの夢やキャリアプランと連動した多様な生き方を示すこと。そうした自立を支える手段として、お金の管理や投資、リスクマネジメントを学ぶことが、本来の金融経済教育のあり方だと思います。

教員へのサポートが追いついていないという構造的な問題もあります。家庭科や社会科の教員が金融経済教育を担うケースが多いですが、知識に自信がないという人も多く、現場の負担は増すばかりです。自助努力だけに任せるのには限界があり、教員の金融リテラシー向上を目的とした育成プログラムの確立が急務といえます。

J-FLECや日本FP協会など、様々な団体による外部講師派遣もありますが、うまく活用できているのはまだ一部の学校にとどまっている印象です。FPを中心に、起業経験者や個人事業主など多様なバックグラウンドを持つ外部人材を、積極的に活用するよう、学校側により一層促す仕組みづくりが必要ではないでしょうか

家庭では「お金の話」をタブー視しない

子どもたちの金融リテラシーを底上げするためには、学校の取り組みだけでなく、家庭での金融経済教育も必要です。金融広報中央委員会の「金融リテラシー調査2025年」によると「家庭で金融経済教育を受けた」と認識している人は全体の15.2%にすぎません。自分たちが家庭でお金の教育を受けてこなかったのだから、「何から始めればいいかわからない」という保護者たちの悩みも当たり前なのです。

FPとしてこれまでさまざまな家庭のご相談を受けてきましたが、「お金の話は社会人になってから」と、家庭内でなんとなくタブー視してしまう傾向はいまだに根強く残っています。家庭での金融経済教育では、いきなり投資や社会保障、税金といった難しいテーマに挑戦する必要はありません。「子どもが小さなうちから、もっと家庭でお金の話をカジュアルにしよう」というのが、私からお伝えしたいアドバイスです。

例えば、わが家には小学生の子どもが2人いますが、日常のちょっとした会話もお金の教育のきっかけにしています。スーパーで買ったお菓子を見せて「これ、いくらだったと思う?」と聞いてみたり、回転寿司店で外食したときに「今日のお会計、いくらだったでしょう?」とクイズにしてみたり。未就学児や小学生であれば、こうした対話からのスタートで十分です。

また、子ども名義の証券口座(未成年口座)を開設し、子どもたちがよく知っている食品メーカーや外食企業の株を買って、送られてくる株主優待を一緒に楽しむのも個人的にはおすすめです。「株を買うことは、その会社を応援すること。株価が上がったり、優待が届いたりするのは、その会社がいろんな人にとって必要なものや喜ばれる商品をつくってお金がもうかったという証拠なんだよ」と伝えると、子どもなりに投資の意味を理解してくれます。

これは戸惑う人が多いかもしれませんが、保護者である私がどのような仕事をして、どれくらいの報酬を得ているのかについて、「昨日の大阪出張で講師をして〇〇万円」というように一部をオープンにしています。労働とその対価についての感覚を自然に養ってほしいからです。生活に根ざしたお金の話を普段からどんどんして、自分たちのお金が社会をどう巡っているのか、経済とのつながりを感じてもらうこと。それこそが、今日から家庭で実践できる金融経済教育ではないかと考えています。

参考資料:日本証券業協会「海外における金融経済教育の実態調査報告書」(2023年3月)
https://www.jsda.or.jp/about/kaigi/chousa/kenkyukai/files/01_kaigai_houkoku_all202303.pdf

次回の【金融経済教育】分野は、年代別・生活者向けセミナーのポイント①<新入社員編>ついて解説します。
アコーディオン目次
【金融経済教育】 第1回~第6回はコチラ (安藤宏和氏)
第1回目指すゴールは「ファイナンシャル・ウェルビーイング」
第2回知識から広がる「社会とのつながり」。学校と家庭で育む子どもの金融リテラシー
第3回公開をお楽しみに!
第4回公開をお楽しみに!
第5回公開をお楽しみに!
第6回公開をお楽しみに!

お話を伺った方

CFP®認定者、株式会社あしたば代表取締役社長

安藤 宏和 氏

三井住友海上での勤務を経て、FPオフィス「あしたば」を開業。幅広い業種・規模の企業で「従業員向け金融教育研修」の講師を務め、中学・高校等の教育機関でも「学生・生徒向け金融教育講座」を受け持つなど、生活者が金融リテラシーを高め「ファイナンシャル・ウェルビーイング(FWB)」を実現するための金融経済教育に力を入れている。

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