公開:2026.08.06

【年金】“年金相談のリアル” 「扶養を外れて社会保険料を払うのは損?」パートタイマーの悩みに答える(菅野美和子氏)

チャット風吹き出し最終決定版(中央寄せ修正版)

ベテランFPや経済の専門家が、FPに関わるさまざまなテーマやトピックスについて、全6回にわたり解説します。

菅野美和子氏

本シリーズでは、3,000件を超える年金相談に向き合ってきた経験から、現場でよくある質問や誤解をテーマ別に紐解いていきます。法改正で多くのパートタイマー、アルバイトなど、短時間労働者が社会保険の加入対象者になっています。その中で悩んでいる人、とにかく「壁」を超えずに働こうと思っている人、さまざまです。第3回目はそうした「社会保険の壁」を確認しながら、よりよい選択を考えていきましょう。

ある日の相談で

相談者:今まで夫の扶養から外れたくないので、調整して働いてきました。会社からもう少しシフトに入る時間を増やせないかと言われています。でもそうすると、年収が130万円を超えるので、社会保険料が引かれ、手取りが大きく減ってしまいます。それでも入ったほうが得ですか?

菅野:「130万円の壁」(配偶者の社会保険の「被扶養者」でいられる年収上限の基準)については年金法の改正もあり、変更点がいくつかあります。夫婦の場合、配偶者が自営業か、会社員か、または年金生活なのかでも大きく状況が異なります。誤解も多いので、自分のケースをよく検討していきましょう。

誤解の多い「社保加入」

企業や自治体の女性向けセミナーなどでは「年収の壁」をテーマにしてほしい、という要望が多くあります。そこでお話をすると、後で必ず「夫の扶養内で働いている自分の場合、社保加入は得か損か」という質問を受けます。個人差が大きく一言では答えられないので、私からはまず「ご主人は会社員ですか、自営業ですか。あるいは年金生活でしょうか」といった質問をします。質問者の「立場」を確認するのです。

例えば夫が自営業で、妻も国民年金、国民健康保険に加入しているケース。この場合は会社の健康保険に入ったほうが保険料は安くなることが多いでしょう。また、厚生年金に加入することで将来の年金額が増えます。つまり、メリットが大きいと伝えると、安心して社会保険に加入する働き方を選ぶようです。夫がすでに定年退職をして年金生活の場合は、税法上・社会保険上の扶養の考え方が現役世代とは異なるため、過度に「扶養内」にこだわる必要がないケースもあります。

たまにシングルマザーからの相談もあります。ひとり親家庭等医療費助成制度を理由に社会保険加入を避けようとする相談もありますが、制度は別であり、助成が受けられなくなるわけではありません。また国民年金の納付が免除中、という人もいますが、その場合、将来の年金額が減りますので、なおのこと、社会保険加入を勧めます。

損得ではなく家計全体で考えよう

もう1つの社会保険の壁である「106万円の壁」(パート先などで、健康保険や厚生年金保険に加入することになる基準)も賃金が高いエリアは週20時間働けばゆうに超えてしまうレベルです(図表1)。ちなみにこの収入要件はすべての都道府県で令和7年度地域別最低賃金が時給1,016円を超えたことにより、法令に基づき撤廃される予定です。

企業規模要件は現在、51人以上の企業となっていますが、今後段階的に拡大されるため(図表2)、「週20時間以上働く」ことが主な判断基準になっていく方向です。 実際には「20時間を超えないよう契約する」という選択をする人もいます。

しかし、時給上昇局面では、勤務時間を抑えることが家計全体で必ずしもプラスになるとは限りません。会社がもう少し働いて社会保険に加入しては、と勧めているのなら、「思い切って、もう少し働くことを選択してもいいのではないですか」とお話しします。

図表1 社会保険に加入する対象となる条件(現行)

出所:厚生労働省ホームページ「社会保険の加入対象の拡大について」より抜粋

図表2 企業規模要件の撤廃スケジュール

出所:厚生労働省ホームページ「『年収の壁』への対応」より抜粋

一方、いわゆる「夫の壁」も存在します。妻の収入増で税負担や社会保険料が増えると考え、「扶養内にとどめたほうが得なのでは」と思っている夫が少なくありません。確かに一時的には負担は増えるかもしれませんが、夫婦2人でしっかり働けば、世帯全体としては手取りも将来の年金も増える。それをライフプランとしてシミュレーションで確認すれば、納得のできる働き方が見えてくるのではないでしょうか。

以前、社会保険の加入基準が緩和された際、私はある企業でパートタイマーを対象にした勉強会を数回行いました。その結果、新たに社会保険の加入対象となったパートの方には納得して入ってもらい、加入したくないからと勤務時間を減らす人は皆無でした。

社会保険加入のメリットは年金だけではありません。出産手当金傷病手当金などが支給され、雇用保険からの給付も受けられます。保障が手厚くなることも見逃せないメリットなので、これらを総合的に判断して結論を出してはどうでしょうか。

「130万円」という数字だけにとらわれていますが、扶養の判定基準は一律ではありません。19歳以上23歳未満は150万円未満、60歳以上や一定の障害がある人は180万円未満が基準です。また、2026年4月の改正により、判定も前年の実績収入ではなく、雇用契約書労働条件通知書の内容が基準になりました。年末だけ勤務調整をしても扶養判定には影響しないため、扶養内で働きたい場合は契約内容をしっかり確認することが大切です。

正確な情報でそれぞれベストな結論を

最終的には本人が選択することなので、仕組みを理解したうえで、やはり扶養内の働き方がいいと考えるのなら、それでいいと考えています。

年金事務所からの調査があり、強制的に社会保険に加入させられることになった会社がありました。この場合、対象になった時点まで遡り、保険料を納めなければなりません。会社との折半とはいえ、最長で2年間まで遡りますから、20万円、30万円というまとまった額になることもあります。納付が難しい場合はいったん会社が立て替えて、後で従業員に分割で払ってもらう、といった分割案を示して対応します。私はその対応にあたりました。

該当者は納得できない人が多く、説明をする私にも怒りをぶつけてきます。ある人の場合、最初はやはり怒っていました。説明するうち「夫が定年退職して年金をもらっているのですが、私の扶養に入れられますか?」という質問がありました。結局、年金もそれほど多くなかったため、夫をその人の扶養に入れることになりました。

後日、「これからもっと働く時間を増やして、しっかり働いていこうと思います。社会保険に入ってよかったです」と言ってもらえました。こうして納得して加入することが何より大切です。

この「130万円の壁」を巡っては、今後さらに対象者の裾野が広がり、悩む人が増えてくるのではないでしょうか。相談に応じる際はまず制度を理解したうえで、どんなことで本人は悩んでいるのか、本心ではどうしたいのかを話の中から整理していく。本人は解決の糸口を何かしら持っているでしょう。後はその選択ができるように、背中を押してあげることを心がけています。

例えば子どもがまだ小さく病気がちで、十分に働けない場合。「それでしたらもうしばらく様子を見てもいいと思いますよ。働けるときが来たらまた働いて、自分がやりたかったことを実現していってもいいですよ」と話します。その人の気持ちに寄り添いながら、メリットのある情報提供をすると、最後には「相談してよかったです」、と言っていただけます。

アコーディオン目次

お話を伺った方

CFP®認定者、社会保険労務士、すがのみわこコンサルティングオフィス代表

菅野美和子 氏

2002年独立開業以来、企業顧問のほか、セミナー講師、年金相談員等を務める。西日本新聞連載コラム「やりくり家計術」を担当中。著書に『ねんきん定期便がよくわかる本』『年金1年生』等がある。福岡市在住

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