FP・専門家に聞く
2025.07.24
【住まい】35年超の住宅ローン、その選択は本当に「アリ」?(有田美津子氏)

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公開:2025.07.24
ベテランのFPや経済の専門家が、FPに関わるさまざまなテーマやトピックスについて、全6回にわたり解説します。「住まい」第2回目は、35年超の住宅ローンについて解説します。
近年、マンションをはじめとする住宅価格の高騰が続き、マイホームの取得がますます難しくなっています。このような状況下で、返済期間を35年超、中には50年とする住宅ローンが選択肢として注目されています。返済期間を超長期とすることで、月々の返済額を抑えることが可能となり、希望の物件に手が届きやすくなるというメリットがあるからです。
一見メリットがあるように感じる超長期ローンは、将来のライフプランにどのような影響を及ぼすのでしょうか。安易な選択が、長期にわたって家計を縛る足かせとならないよう、その仕組みとリスクを正しく理解することが不可欠です。ここでは、超長期ローンの実態と、賢く付き合うためのコツについて解説します。
35年を超える住宅ローンを選ぶ人が増えている背景には、購入者側と金融機関側の双方の事情が複雑に絡み合っていることがあります。
まず購入者側の立場では、何よりも物件価格の高騰が挙げられます。特に都市部では、従来の35年ローンでは希望の物件の審査基準を満たせないケースが増えており、返済期間を延ばすことで毎月の返済額を下げ、借入可能額を増やす必要に迫られているのが実情です。また、特に若い世代においては、「低金利の今は返済額をできるだけ抑え、手元資金を投資などに活用したい」という考え方も見られます。
一方で、金融機関側にも長期ローンを積極的に推奨する事情があります。返済期間が長くなれば、それだけ多くの利息収入が見込めます。購入者が若く、長期にわたって返済能力があると判断されれば、金融機関側から40~50年ローンを提案されるケースもあるほどです。これは、NISA口座の開設などをセットにすることで金利を優遇し、住宅ローンをきっかけにほかの金融商品の取引を拡大したいという狙いもあるでしょう。
さらに、金融機関は保証会社を利用するため、万が一返済が滞っても、保証会社が代位弁済を行うので損失を被るリスクは限定的です。不動産会社にとっても、顧客の借入可能額が増えれば、より高額な物件を販売しやすくなるというメリットがあります。
このように、物件を高値でも「買いたい」購入者、そして融資額を増やして「貸したい」金融機関や「買ってもらいたい」不動産会社、それぞれの利害が一致した結果として、35年超の住宅ローンが広がっているといえるでしょう。
超長期ローンを組む人の中には、「将来、物件価格が上がったタイミングで売却すればよい」と考える人もいるため、必ずしも完済を前提としないケースも少なくありません。確かに、ライフステージの変化、例えば子どもの成長などに合わせて住み替えを行うことは選択肢の1つになります。地価が上昇すれば、売却益でローンを完済し、次の住まいの頭金を捻出することも可能かもしれません。
しかし、この戦略は不動産市況という不確定要素に大きく依存する、非常にリスクの高いものだと認識したほうがよいでしょう。値上がり益が期待できるのは、都心の一等地などごく一部のエリアに限られるという見方もあるくらいです。誰もが購入時より高く売れるわけではなく、価格が高騰している今でさえ、「購入時とトントンだった」、あるいは「少し足が出てしまった」というケースも決して珍しくありません。
ここで立ち止まって考えたいのが、「半分住まい、半分投資」という考え方です。私は、住まいと投資は明確に分けるべきという考え方です。投資物件の価値は利回りで決まりますから、リフォームなどについてもコストを抑えることが優先されます。一方で、自宅には、家族が安心して快適に暮らせる「住み心地」が求められます。将来の売却価格を気にするあまり、「柱に傷をつけないで」と子どもを叱るような暮らしは、本来の住まいの目的から逸脱してしまうのではないかと考えています。
また、もし、値上がりを期待して無理なローンを組んだ結果、住宅価格が下落してしまったらどうなるでしょう。ローン残高が売却価格を上回る「オーバーローン」の状態では、家を売却する際に自己資金で差額を補填する必要があり、事実上、住み替えが不可能になってしまいます。月々の高額なローン返済で貯蓄もままならなければ、計画は完全に破綻しかねません。住まいを得るという本来の目的が、いつの間にか投機的な目的にすり替わってしまうことの危うさを認識する必要があります。
では、35年超という長期のローンと、どのように向き合えばよいのでしょうか。リスクを軽減し、賢く活用するためには、以下の3つのコツが重要になります。
1つ目は、借入額に余裕を持ち、手元資金を十分に確保することです。特に小さなお子さんがいるご家庭では、最低でも1年分の生活費に相当する貯蓄は残したうえで借入計画を立てるべきです。ギリギリの資金計画で高額なローンを組むのは絶対に避けましょう。
2つ目は、長期的な視点で資金計画をシミュレーションすることです。金利が将来上昇する可能性を考慮し、例えば金利が2〜3%上がった場合でも返済を続けられるかを事前に試算しておくことが不可欠です。資金計画は住宅金融支援機構などが提供するライフプランシミュレーションツールを活用するのもよいでしょう。
そして最も重要なのが3つ目、人生の三大資金(住宅・教育・老後)を総合的に捉え、ライフプラン全体を見通すことです。ローン返済が80歳まで続くのであれば、年金生活の中でどう返済していくのかを具体的にイメージしなければなりません。そのために「ねんきんネット」などで自身の年金受給見込額を確認し、老後のキャッシュフローを現実的に把握することが第一歩です。多くの方がご自身の年金について意外と知らないものですが、これは将来設計の根幹となる重要な情報です。
住宅ローンという大きな決断は、ご自身の40年、50年先までの人生を見つめ直す絶好の機会でもあります。目先の返済額の低さだけにとらわれず、長期的な視点でご自身のライフプランと向き合うこと。それこそが、超長期ローンという選択肢を「アリ」にするための、最も確実な方法といえるでしょう。
CFP®認定者 相続診断士、住宅ローンアドバイザー、住まいのお金相談室 代表
有田 美津子 氏
大学卒業後、地方銀行にて法人・個人向け融資業務に従事。その後、子育て専業主婦を経て、不動産販売会社、損害保険会社、メガバンクでの住宅ローン相談窓口業務を経験。実務経験と生活体験を活かし、FPとして独立。現在は、住宅購入、住み替え、リフォームの資金計画から実行支援、介護や相続を見据えた世代をまたぐ相談など、住まいのお金に関するコンサルティングを中心に活動。特に、中立の立場から顧客に寄り添ったアドバイスに定評があり、各種セミナー講師や雑誌等への執筆も多数。
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