FP・専門家に聞く
2025.12.11
【資産運用】ファイナンシャル・ウェルビーイングを実現するための資産形成(横田健一氏)
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公開:2025.12.11
【資産運用】第1回目は、「ファイナンシャル・ウェルビーイング」とは何か、幸せな人生を送るためにお金とはどのような付き合い方をすればよいのかについて解説します。
「ウェルビーイング(Well-being)」という言葉は、世界保健機関(WHO)の設立に先駆けて1946年に加盟国が署名した憲章前文で、「健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた(Well-being)状態にあることをいいます。」と定義したのが始まりといわれています。近年においても、SDGs(持続可能な開発目標)の中にウェルビーイングと関連が深い目標が設定されたり、デジタル庁が地域幸福度(Well-Being)指標を公表するなど、さまざまな視点から注目を集めている言葉です。
個人のウェルビーイングを構成する重要な要素として、アメリカ・ギャラップ社が調査結果のレポートの中で挙げた5つの観点の一つが「ファイナンシャル・ウェルビーイング」です。一般的に、当面の支払いを確実に履行でき、将来のお金についても安心で、人生を楽しむためにお金のことを気にせずに幅広い選択ができる状態を指すとされています。
より具体的に「安心感」と「選択の自由度」、「現在」と「将来」という4つの視点でマトリックス図にしたのが図表1です。
「安心感」の「現在」は毎日や毎月の支払いがきちんと管理でき、「将来」についても貯蓄や保険、もしくは頼れる親族や友人などで金銭的なショック(出来事)に対して備えてある状態です。「選択の自由度」の「現在」は家族で旅行へ行ったり、記念日には少し豪華なディナーを楽しむといったことができ、「将来」に向けてはマイホームや車の購入、老後資金などの準備が計画的に進んでいる状態をファイナンシャル・ウェルビーイングとしています。ただ、選択の自由度において現在と将来はトレードオフの関係にあるため、現在を充実させようとすると将来は厳しくなる可能性があり、将来に向けて保守的になり過ぎると現在が節約傾向になることがあるためバランスが大切になります。 この4つの観点で自身を見たとき、自分なりに実現できているかをチェックすることで、ファイナンシャル・ウェルビーイングに近づいているかを確認することができます。
| 現在 | 将来 | |
|---|---|---|
| 安心感 | 毎日や毎月の支払いを管理できる | 金銭的なショックを吸収できる能力 (サポートの仕組み:親族・友人、 貯蓄、保険など) |
| 選択の自由度 | 人生を楽しむためにお金の面で 幅広い選択ができること (ニーズに加えてウォンツ。 友人・家族、コミュニティに対して寛容など。 学び直しや働く時間を少なくするなど) | 金銭的な面での目標に向けて 軌道に乗っていること (車やマイホーム、奨学金の返済、 老後資金など) |
一般的に年収が増えると満たされた状態(=満足度)は上がると思われがちですが、ある程度増えていくとそこからは同じようなペースで上昇するわけではありません。例えば、年収300万円の人が100万円アップして400万円になったときと、2,000万円の人が2,100万円に上がったときを比べると、おそらく300万円が400万円になった人のほうが満足度の上がり方は大きいはずです。ただ具体的な目標がなければ、どれだけ年収が増えても満足度にゴールはありません。
また、民間金融機関の調査(※1)を見ると、経済的満足度は金融リテラシーとも密接な関係があることがわかります。同額の金融資産を持っていても、金融リテラシーが低い人は金融リテラシーが高い人に比べて満足度が低く、金融リテラシーが高い人は金融資産が少なくても満足度は維持されるというデータがあります。
これらのことからわかるのは、お金がたくさんあればあるほど比例して満足度が大きくなるわけではなく、満足度を得るためには金融リテラシーを高めることも必要だということです。具体的には、自分の人生において、いつ、どんなことのために、いくら必要かを把握し、等身大のライフプランやファイナンシャルプランをシミュレーションし、足るを知ることがファイナンシャル・ウェルビーイングを実現するためには欠かせないといえそうです。
※1 MUFG資産形成研究所「ファイナンシャル・ウェルビーイングと金融リテラシーとの関係」2023年9月
お金に関する各種調査を見ると、多くの場合は年代を問わず最大の不安要因が「老後資金」です。ところが不安に感じていながら、自身の公的年金や企業年金、退職金などの水準を認知していない人が多いのも事実です。現実を把握しない中で感じている漠然とした不安を解消するためには、長期的なお金の流れの見える化=ライフプラン・シミュレーションがとても重要です。
いまや人生の選択肢が増え、キャリアプランやライフプランにはさまざまなものがありますが、人生におけるお金の収支を大きくわけると、社会人になり働いて収入を得ながら資産を増やす「資産形成期」、定年から完全リタイアまでの「移行期」、公的年金を中心に生活する「資産活用期」となります(図表2)。

収入には「勤労収入」「資産収入」「年金収入」があり、ベースは働くことで得る勤労収入です。その一部を資産形成に充てて資産収入を作り、公的年金に加入して将来の年金収入の受給権を得ます。人生の前半は勤労収入を得ながら資産収入を増やし、後半は年金収入を受け取りながら、資産を取り崩しつつ資産収入で補っていくのです。
これを実現するために欠かせないのが手取り収入と支出を把握し、資産形成期は家計を黒字化することです。会社員の場合、源泉徴収票の給与所得控除後の金額や勤務先から自身の銀行口座へ振り込まれる金額を手取り収入と誤解している人も多いようです。正しくは、源泉徴収票の支払金額から所得税、住民税、社会保険料を引いた金額が手取り収入です。ライフプランにもよりますが、支出を手取り収入の8~9割に抑え、残りの1~2割を資産形成に充てるのが一つの目安といえます。
資産形成というと高い運用利回りをイメージする人も多いようですが、資産を増やすためのポイントはそれだけではありません。
まずは、家計の管理です。支出の見直しと最適化で支出を減らすことは、資産形成においても基本です。日常の支出をコントロールすることはもちろん、住宅ローンの管理、各種の節税制度の活用など、節約一辺倒になるのではなく支出全体の最適化を意識しましょう。というのも、支出を減らして収支の黒字幅が増えれば、その分を資産形成に回すことができ、将来の資産収入を増やすことにつながるからです。
次に考えたいのが、現在の資産の運用利回りを高めることです。ゼロ金利時代が長く続いたことから、普通預金に預けたままという人も少なくないようです。定期預金や個人向け国債といった元本割れの心配がない商品も金利が上昇していますし、できればNISAやiDeCoも活用すると運用利回りを高めることができます。
さらに、キャリアアップをして昇格や転職を目指す、可能であれば副業や兼業をして手取り収入を増やすという方法もあります。
アメリカの経済学者、ロバート・フランクが提唱した、マイホームや自動車、社会的地位など他人と比較することで価値が生まれるものを地位財、健康や愛情、良質な環境といった他人が何を持っているかとは関係なく、それ自体に価値があり満足を得られるものを非地位財という考え方があります。地位財による幸福は一時的で、非地位財による幸福は長続きしやすいといわれています。
これは消費行動をあらわす言葉として使われる「モノ消費、コト消費、トキ消費」にも通じる考え方です。モノよりも経験、さらには、そのとき、その場でしか味わえない体験に対してお金を使うほうが有意義で幸せなのではないかというものです。ファイナンシャル・ウェルビーイングは、お金の使い方まで含めて考える時代になってきているといえそうです。
| 第1回 | ファイナンシャル・ウェルビーイングを実現するための資産形成 |
|---|---|
| 第2回 | 公開をお楽しみに! |
| 第3回 | 公開をお楽しみに! |
| 第4回 | 公開をお楽しみに! |
| 第5回 | 公開をお楽しみに! |
| 第6回 | 公開をお楽しみに! |
CFP®認定者 株式会社ウェルスペント 代表取締役
横田 健一 氏
野村證券株式会社勤務を経て、2018年1月に独立。「フツーの人にフツーの資産形成を!」というコンセプトで情報サイト「資産形成ハンドブック」を運営。家計相談やライフプラン・シミュレーションの提供を行い、個人の資産形成をサポート。ウェルビーイング学会会員(ファイナンシャル・ウェルビーイング分科会所属)。「ファイナンシャル・ウェルビーイング検定」全面監修。近著「増やしながらしっかり使う 60歳からの賢い「お金の回し方」」(KADOKAWA)
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