公開:2025.11.27

更新:2025.11.28

【資産運用】運用資産を取り崩す際の注意点(目黒政明氏)

チャット風吹き出し最終決定版(中央寄せ修正版)

ベテランFPや経済の専門家が、FPに関わるさまざまなテーマやトピックスについて、全6回にわたり解説します。

目黒政明氏

「資産運用」の6回目は、資産運用のゴールが近づいてきたときの対応や、実際に取り崩しを始めるときの考え方や注意点について紹介します。

目標のゴールが近づいたら投資リスクを低減させる

資産運用の最終的な目標は、老後の生活資金のためという人が多いでしょう。 老後資金を確保する代表的な手段として確定拠出年金(DC)がありますが、DCでは60歳か65歳くらいまで掛け金の拠出(積み立て)を続け、それ以降に積み立てた資金を受け取るプランを立てていると思います。まずは、このケースで考えてみましょう。

一般的には、目標とする年齢や受け取り時期が近づいたら、数年前から運用商品を見直して、投資のリスクを低減させたほうが安心です。今は順調に利益が出ていても、受け取る時期の直前に相場が急落し、大きな値下がりに見舞われたら、老後の生活設計は大きな影響を受けてしまいます。そうしたリスクを避けるための見直し方は、いくつかあります。

1つは運用商品を変更することです。例えば、株式100%の投資信託で運用していたら、債券も組み込んだ安定運用型のバランス型投資信託への預け替え(スイッチング)を実行します。併せて、毎月の掛け金で購入する商品も見直します。例えば、投資信託への拠出割合を50%にして、残り50%を元本確保型の商品にするなどで、リスクを低減させることができます。

また、リスク商品を少しずつ売却して、資産全体でのリスクを低減させる方法もあります。
例えば、DCからの資金は65歳で一時金で受け取ると考えていた場合、60歳から毎年、投資信託を5分の1ずつ売却して定期預金などに移していけば、65歳時には投資信託の比率はゼロになり、価格変動の影響は受けなくなります。売却が完了するまでの間は投資信託を保有し続けるので、取り崩し中に価格が上昇した場合の値上がり益も、ある程度は確保できます。

なお、60歳以降も会社員・公務員等として働き続ける場合、個人型確定拠出年金(iDeCo)については、65歳になるまで掛け金の拠出ができます。企業型DCの掛け金の拠出が60歳までの人なら、60歳以降はiDeCoで拠出を続け、運用口座もiDeCoに一本化することができます。さらに、2027年1月以降は70歳になるまでiDeCoの掛け金拠出が可能になる予定です。運用そのものは、企業型DC、iDeCoとも、最長75歳になるまで非課税で継続でき、老齢給付金の受取時期は本人が決められます。こうした点も踏まえて、企業型DC、iDeCoからの受取予定時期を検討することをお勧めします。

NISAを利用している人は、年齢の上限なく無期限で投資や運用を続けることができますが、ある程度の年齢になったら、資産全体に占めるリスク商品の割合をチェックし、リスク商品での運用はいつまで続けるかを考えて、その数年前から価格変動リスクをどのように抑えていくかを検討し、実行していくことが大事でしょう。

年金だけで足りないときの運用資産の取り崩し方

これからの時代、長生きリスク、インフレリスクを考慮すれば、長期投資で高いリターンが期待でき、かつインフレリスクにも強い株式等での運用をリタイア後も継続することが必要な人が多くなっていきます。と同時に、リタイア後は公的年金だけでは不足する資金を補うために、蓄えた資産を取り崩していく必要もあります。

そのため、運用を続けながらも、その資産の一部を取り崩していく「引き出し運用」を継続する場合の取り崩し方を考えてみましょう。
資産の取り崩し方の代表的な手法として、毎回一定額を引き出す「定額引き出し」と、その時の資産の一定割合を引き出す「定率引き出し」という2つの方法があります。

定額引き出しであれば、毎年○万円ずつとシンプルでわかりやすく、生活設計も立てやすいというメリットがあります。しかし、投資信託などの価格変動商品を定額で引き出す場合、価格が高いときは少ない量(口数)を売り、価格が安いときは多い量(口数)を売ることになるため、平均売却価格を引き下げてしまうという問題があります。

資産形成時における定額投資では、ドルコスト平均法によって平均購入価格を低くできるというプラスの効果がありますが、取り崩し段階における定額引き出しでは、その効果は逆に作用し、マイナスに働いてしまうのです。
特に、取り崩し初期の段階で相場が大幅に下落すると、急速に資産が目減りしてしまい、その後に上昇したとしても資産の回復力が弱いという点に注意が必要です。

そうした問題を避けるためには「定率引き出し」の手法が有効となります。
具体的な例で、取り崩し初期段階で収益率が大きくマイナスになり、その後にプラスとなった場合の定額引き出しと定率引き出しの違いを下の表で見てみましょう。

図表■取り崩し初期段階で相場が下落した場合の「定額引き出し」と「定率引き出し」の比較
~運用元本1,000万円の例~

年間収益率定額引き出し(毎年40万円ずつ)定率引き出し(毎年4%ずつ)
引き出し額期末の資産額引き出し額期末の資産額
1年後▲20%40万円760万円32万円768万円
2年後▲30%40万円492万円22万円516万円
3年後▲10%40万円403万円19万円446万円
4年後10%40万円403万円20万円471万円
5年後30%40万円484万円24万円588万円
6年後20%40万円541万円28万円677万円
7年後20%40万円609万円32万円780万円
引き出し額の累計280万円177万円
引き出し額累計+7年後の資産額889万円957万円

出所:目黒氏が試算して作成

この表は、元本1,000万円を運用しながら、1年ごとに取り崩していく場合の計算例です。 定額引き出しでは毎年40万円ずつ、定率引き出しでは期末の評価額の4%を引き出しています。1年目の収益率は▲20%なので、期末の評価額は800万円です。定額引き出しではそこから40万円引き出すので、残りの資産は760万円になり、これが2年目の運用に回ります。定率引き出しでは、期末の800万円の4%は32万円になるため、これを引き出して残りの768万円が2年目の運用に回ります。

このようにして計算していくと、この例では、累計の引き出し額は定額引き出しが280万円、定率引き出しは177万円となり、定額引き出しのほうが多くなります。一方、7年後の期末の資産額は定額引き出しが609万円、定率引き出しは780万円と、定率引き出しのほうが残金は多くなります。引き出し額の累計に7年後の資産額を加えた合計も、定額引き出しが889万円、定率引き出しは957万円となり、定率引き出しのほうが大きく、それだけ資産の寿命を延ばすことになります。

定率引き出しの弱点をカバーするには

運用効率を高め、資産寿命を延ばすという点から考えれば、定額引き出しよりも定率引き出しが良いことになりますが、定率引き出しは毎回の引き出し額が変わり、あらかじめいくら受け取れるかわからないため、生活設計が立てづらいという難点があります。

そうした問題を回避するためには、資金を目的別・期間別に管理する、次のような方法も有効です。
① 今後2~3年程度の生活費補填等の金額は、値動きのない普通預金や定期預金などに入れ、必要なお金はそのつどそこから取り崩していく。
② 残りは株式、外国債券等で積極的に運用し、定率で引き出したお金は①の口座に入れておく。あるいは値上がり局面で一部を売却し、①の口座に移しておく。
③ 市況の長期低迷時に、①の生活費等の補填目的のために、②の株式等を取り崩さなくてすむように、②の資金の一部は値動きの小さい国内債券型ファンドなどで運用し、市況低迷時に取り崩しが必要なときはそれから先に取り崩す。

毎月、あるいは年に一度など、自分なりのルールで運用商品を売却し、引き出していくのは面倒なこともありますが、ネット証券などの一部では、投資信託の定期売却サービスを行っている場合もあります。定額引き出しのみの会社や、定額・定率のどちらにも対応している会社もあるので、そうしたサービスを利用すれば引き出し時の手間も省けます。

高齢期での運用も10年程度は続けられる資金で行う

現在はかつてに比べ、インフレリスクが顕在化しています。預金金利も少しずつ上昇しているとはいえ、物価の上昇には追いつけない状況です。リタイア後の生活に向け、保有する資産価値を保全するためには、ある程度の利回りで運用せざるを得ないため、株式等を組み込んだ投資信託などでの運用を継続する必要も出てきます。

リタイア前にはキャッシュフロー表を作成し、年金収入や生活費、旅行・趣味などのゆとり資金、家のリフォーム代なども確認して、今後10年くらいの必要資金(年金収入などでは不足する赤字分)を計算し、それに予備費として300万~500万円程度を加えた金額を、預貯金や個人向け国債などに入れて準備しておきます。それ以外の資金を投資に回し、運用していくというのも1つの方法です。

60代半ばくらいでリタイアする場合でも、75歳以降の生活に向けて10年くらいは運用を継続できる可能性があります。その間に一時的に相場が下落するときがあっても、次の上昇を待てば、資金はプラスに転じる可能性が高くなります。5年程度の運用では資金の回復を待つのは難しいこともあるため、10年くらいは運用するつもりで、充当できる資金を考えましょう。運用途中で資金が大きく増えたら、一部を利益確定して売却し、預貯金などに移していけば、リスクも抑えられます。そのときに前述のような定率引き出しを行うのもいいでしょう。

会社員の場合、60代で退職金に加え、積み立てていた企業型DCも一時金で受け取ることを考えていた人は、税制の改正で2026年1月以降は一時金の受け取り時期によって、退職所得控除で使える控除額が減少するケースもあることに注意しましょう。退職金も、企業型DCの老齢給付金も、一部を一時金で受け取り、残りを年金で受け取る方法が選べるケースも多いので、引かれる税金なども確認して、受け取り方法を検討することが大切です。

「資産運用のゴールはまだまだ先」と考えている人も、退職時にはそれまでに準備した企業型DCやiDeCo、退職金も含めて、受け取り時期や引き出し方法をいくつかの選択肢から指定することが求められます。その際には同時に、NISAなどのほかの運用資産や保有する預貯金なども確認し、資産全体の中で必要な資金の取り崩し方を考え、リタイア後も継続していく運用資金と運用方法を見直していきましょう。

※本記事にて記載した情報は、取材対象者と執筆者の見解を掲載したものであり、当協会の意見・方針等を示すものではありません。本記事に掲載されている内容に関して、資格・認可が必要となる業務が含まれている場合があります。そのような業務を行う場合、当該資格や認可を得るか、もしくはそれらを有する専門家と協働して実行することが必要になります。

アコーディオン目次

お話を伺った方

CFP®認定者、株式会社生活設計塾クルー 代表取締役/MMIライフ&マネープランニング 代表取締役

目黒 政明 氏

大手証券会社を経て、1987年に日本初の独立系FP会社に入社。個人を対象とした資産運用アドバイスを中心に、原稿執筆、セミナー講師などで幅広く活動中。FP資格取得者向けのテキスト執筆や講師、確定拠出年金の導入・継続教育の講師なども務める。

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