FP・専門家に聞く
2025.09.25
【家計管理】家計見直しは、お金の価値観の再確認から!(前野彩氏)

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公開:2025.09.25
ベテランのFPや経済の専門家が、FPに関わるさまざまなテーマやトピックスについて、全6回にわたり解説します。「家計管理」第4回目は、個人や夫婦でお金に対する価値観を見える化する『幸せ温度計』ワークを紹介します。
家計管理を頑張っていて、多くの人がぶつかる壁が「支出を見直したいのに、これ以上何を減らしたらいいかわからない」ということです。特に既婚者の場合、「パートナーと意見が合わず、家計見直しがなかなか進まない」と悩む方は少なくありません。そこで私は、個人や夫婦でお金に対する価値観や「どこにお金をかけたいか」という優先順位を整理するためのワークを考案しました。名付けて『幸せ温度計』ワークです。
やり方は、とても簡単。付箋1枚に1つの支出項目を書き出し、それを並べるだけです。ぜひ一度、ご夫婦で一緒に挑戦してみてください。
このワークを実践するときのポイントは、2つです。
1つ目は、付箋を貼るとき、「大切にしたい支出=自分が幸せを感じる支出」の順序で上から下に貼ることです。幸せを感じることの順に貼るからこそ『幸せ温度計』なのですが、迷い始めると、「子どもの教育費は高いから上のほうに並べよう」と金額の多い・少ないで並べたり、「家賃や水道光熱費は毎月の固定費だから上のほう」と、実生活に必要かどうかで並べ始めたりする人が出てきます。
でも、順番に迷ったときこそ「この支出は減らしたくない」「この支出にはお金をかけたい」「この支出があるから私は頑張れる!」というように、自分が幸せを感じられる支出に向き合ってみてください。
2つ目は、実際に手を動かして、付箋を並べ替えながら考えること。FPの継続教育の研修会などで私がこのワークを伝えると、「支出項目を書き出した紙を渡して、1、2、3と番号を振ったほうが、時間がかからないのでは?」と意見をいただくことがあります。
でも、その方法では頭の中で表面的な優先順位を考えてしまい、心の奥底にある気持ちにまで考えが至らないことが多いのです。一方、付箋を並べ替える動作には、過去を振り返りながら、時間をかけて真剣に順番を決める必要があり、このプロセスにも意味があるのです。
夫婦でワークをするときは、それぞれが付箋を並べ終えた後で同時に見せ合いましょう。最初からお互いに見える状態で並べるよりも、それぞれの順位が完成した後で見せ合うほうが、ゲーム感覚で夫婦の「違い」が楽しめますよ。
夫婦でこのワークに取り組んだ場合、よくあるパターンの1つとして、妻は食費や教育費、住居費などの家族に関する項目が上位にきて、夫はレジャー費やお小遣いなどの項目が上位にくる傾向があります。
図表は、あるご夫婦のワークの結果を図示したもので、左が夫、右が妻の付箋となります。
妻が夫の順位を見たとき、「自分のことばかりで、子どもの教育や家族のことを考えていないじゃない!」となりましたが、ここはグッと我慢です。相手を責めると「自分が正しい」「相手が間違っている」となってしまいます。だからこそ、ここで一度心を落ち着けて「どうしてレジャー費は上なの?」と理由を尋ねてほしいのです。
改めて理由を聞くと、夫から「親子で一緒に遊べるのは子どもが小さいうちだけだから、今のうちにキャンプやレジャーなど、できるだけ家族で遊ぶ時間を取りたい」や、「休日に妻が休めるように、自分と子どもだけで外出するときがある。そのときの昼食代やジュース代は、家計ではなく自分の小遣いから出しているから、小遣いが足りなくなる。だから増やしてほしい」という声が挙がってきました。
単に項目を見比べてもらうだけでなく、そこに込められた想いを尋ねたからこそ、「家族を大切に思う気持ちは同じで、表現方法が違うだけ」ということに妻も夫も気づいてくださいました。
それでは、このワークの結果を実際の家計改善に反映させるには、どうすればいいのでしょうか。基本的には優先順位が低い項目から見直していくと、ストレスが少なく改善できます。でも、夫婦であまりにも優先順位の低い項目が違う場合は、お互いの付箋の並び順の真ん中あたりにある項目の見直し策から、話し合ってみてください。
実際にこのワークをやってみるとよくわかるのですが、皆さん、支出項目の上位と下位の項目はわりとすぐに決まります。いちばん悩まれるのが、その真ん中あたりの支出です。真ん中あたりの支出項目は、こだわりが少なくて順位付けに悩む人が多いのです。
だからこそ支出の削減を考えるときも抵抗感が少なく、実現しやすいというメリットがあります。図表のご夫婦のように、同じくらいの位置に保険料や通信費などの固定費があるなら、そうした支出から見直しをしていくのも一案です。
また見直しをする支出項目も、「いくら削る」という金額だけでなく、「幸福度を下げずに、どうやってコストを抑えるか」についてアイデアを出し合ってほしいと思います。
あるご夫婦は、家計改善案として、妻から「夫が通勤時にスマホで動画を視聴していて通信費が高い。動画をやめてほしい」という意見が上がりました。一方で夫は「家では子ども中心の生活で、ゆっくり動画を見る時間もない。通勤時間に映画を見るのが自分の唯一の息抜きだから、その習慣は変えられない」という主張です。
そこで、私から「スマホでインターネット接続をしながら動画を視聴するとデータ通信料が高くなりますが、自宅のWi-Fiを使ってスマホにダウンロードしたものを通勤中に見れば通信料はかかりません。それなら使い方は今のまま、安いプランに変更できますよ」と提案すると、とても喜んでその見直し案を採用してくださいました。
家計管理をするうえで夫婦の協力は不可欠ですが、実際には「お金のことを話し合いたいのに、うまく話し合えない」ご夫婦は珍しくありません。私のところに相談に来られる方にも「夫には相談に来ることを話していないんです」という方や、「夫婦でお金の話をするとケンカになるので、話したくない」とおっしゃる方もいます。
ケンカにならないご夫婦でも、日常生活の買い物などで財布を開く機会が多い妻は「もっと支出を抑えたいのに、夫が協力してくれない」と不満を抱き、一方で夫は「ふだんから協力しているつもりだし、使い過ぎているのは妻のほうじゃないか」と思っていることもあります(妻と夫が逆の場合もあります)。
このとき、「どちらが正しいか」を2人だけで話し始めると、自分の考え方や正しさを伝えたいばかりに、お互いが意地を張り合い、険悪になってしまいます。そして結局、夫婦でお金の話をすることをあきらめてしまいます。
しかし、それでは家計改善が進まないだけでなく、夫婦間のお金にまつわるストレスが長く続いてしまうことになります。そこが、私は一番の問題だと思っています。
夫婦でこのワークをする目的は、それぞれのお金の価値観や優先順位を知り、その根底にある想いを知ることです。普段は慌ただしく生活していて意識していなかった「どこにお金をかけたいか」という思いや優先順位を整理し、「自分と相手は違う」「相手はこんなふうに考えていたんだ」と気づくことが大切です。そして「それならどうしようか」と夫婦で家計について話し合える土台をつくり、お金のストレスを減らすことが重要なのです。
お金のストレスから解放されると、家計のムダを減らしつつ、夫婦それぞれが納得できる幸せなお金の使い方ができるようになりますよ。
CFP®認定者、株式会社Cras代表
前野 彩 氏
J-FLEC認定アドバイザー、MBTI認定ユーザー。中学校・高校の養護教諭から2001年FPに転身。2008年にFPオフィスwillとして独立、2014年に株式会社Crasを設立。金融商品を扱わない独立系FPとして個人相談を中心に活動。近著『本気で家計を変えたいあなたへ〈第6版〉~書き込む“お金のワークブック”~』(日経BP日本経済新聞出版)をはじめ、著書は全21冊。
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