公開:2025.11.11

【経済動向】2026年の世界経済は回復に向かうのか? 日米中の経済予測を解説(武田淳氏)

ベテランのFPや経済の専門家が、FPに関わるさまざまなテーマやトピックスについて、全6回にわたり解説します。「経済動向」第6回目は、2026年の世界経済見通しについて解説してもらいます。

米国、中国、日本を中心とした2026年の世界経済見通しは?

最近の株価動向を見る限りでは、世界経済について楽観的な見方が優勢です。ただし、今後はトランプ関税の影響が本格化するため、年度末にかけて景気が減速、停滞する可能性があります。とはいえ、2026年度に入ると関税の影響が一巡することに加えて、米政権下におけるトランプ減税の効果もあり、回復に向かうと考えられます。

[米国]
〇米国経済の見通し
米国では、景気の好不調を見極める重要な指標である「非農業部門雇用者数」の増加ペースが急速に鈍化しているところにトランプ関税による物価上昇が加わり、景気が減速しています。ですが、2026年の春頃にはトランプ関税の影響が一巡することに加えて、トランプ減税や金融緩和の効果もあり、景気は持ち直すでしょう。

〇注目ポイント
当面の景気減速の主な要因は、これまでの金融引き締めの影響による米国内の雇用の鈍化と、トランプ関税の価格転嫁によって物価が上昇することです。そのため、今後の経済動向を見通すには、トランプ関税によって消費者物価がどの程度押し上げられるのかと、雇用の停滞がいつまで続くのかに注目する必要があります。

トランプ減税の効果も注視すべきでしょう。今回のトランプ減税は、残業代や飲食店従業員などが受け取るチップに対する課税の免除(高額所得者除く)など低所得者向けの施策が追加されています。追加減税の規模は3年間で4,000億ドル強あり、2026年のGDPを0.2~0.5%程度押し上げると見込まれています。

金融政策の動向も要注目です。2025年10月31日時点で政策金利(フェデラル・ファンド金利:FF金利)は4.0%まで下がっていますが、FF金利の中立水準(緩和でも引き締めでもない金利水準)は3%程度とされ、それよりもまだ1%程度高い状態ですから、今後どこまで、どのようなペースで利下げを進めるのか注目されます。利下げによって株価がどの程度押し上げられ、資産効果によって消費がどれだけ増えるのかも見逃せないポイントです。

[中国]
〇中国経済の見通し
米中間のトランプ関税の交渉は、双方が追加関税の一部停止措置を1年延長、さらに中国のレアアース輸出継続と引き換えに米国がいわゆる「フェンタニル関税」20%を10%に引き下げることで合意しましたので(10月31日時点)、ひとまず懸念は後退しました。

ただ、中国では地方政府による過度な産業誘致競争もあって「内巻式競争」が過剰生産を引き起こし、企業間の低価格競争がデフレ圧力につながっています。中国政府は過剰生産を是正し、価格競争を抑制するための政策(「反内巻き」)を打ち出したものの、まだ着手したばかりです。

不動産市場では、不動産開発投資額、不動産販売面積とも約半年に渡りマイナス幅が拡大傾向にあるなど、調整が続いています。内需を中心に景気が減速しており、2026年も成長鈍化が続くと見込まれるため、追加の景気対策を期待する根強い声が聞かれます。

〇注目ポイント
米中のトランプ関税を巡る交渉の行方は、未だ予断を許さない状況です。先日、韓国で開催された米中首脳会談では、上記の通り対立が緩和される方向となりましたが、2026年4月にトランプ大統領の訪中が予定されており、交渉がどちらの方向に向かうのか、どのような内容になるのか注目されます。

中国国内では、過剰生産によるデフレ圧力を弱めるための「反内巻き」政策もあり、製造業投資やインフラ投資の伸びが鈍化しつつあります。「反内巻き」政策は、短期的には設備投資を抑制するため景気にマイナスですが、長期的には経済の健全化につながる部分が大きいという観点で、今後の動向を注視すべきでしょう。

不動産市場の調整について、当社では2024年末時点で「全治3年」つまり、完了までに3年はかかると試算していました。今はまだ道半ばですが、中国国内の住宅価格が下げ止まれば調整の峠を越えたサインと見ることができますので、今後の住宅価格動向は要注目です。

また、10月20日~23日には中国共産党の重要会議である「第20期中央委員会第4回全体会議(4中全会)」が開催されました。ここで決定された2026〜2030年の経済政策の運営方針を定める第15次5カ年計画を実現するために、どのような具体策が打ち出されていくのかも要注目です。その中で、追加の景気対策についても検討される可能性があります。

[日本]
〇日本経済の見通し
今後の景気見通しは新政権の経済政策によって大きく左右されますが、年内には補正予算が編成され、順次、実行に移されていく予定です。最優先課題とされる物価上昇が落ち着けば個人消費が回復し、2026年の景気を支えることになるでしょう。

〇注目ポイント
そのため、注目ポイントは新政権の経済政策です。特に物価高対策のメニューとその効果が重要ですが、来年度予算において、財政支出の規模と財政健全化のバランスをどう取るのかも要注目です。金融政策では、利上げのペースがどうなるのか、それを受けて為替相場がどう動くのかが注目されます。円安が進み、物価高が続くのか、それが個人消費にどう影響するのかは、経済の先行きを見通すうえでの重要なポイントです。個人消費のカギを握る、2026年度春闘の行方も要注目です。

日本では、経済全体の総需要と供給力の差である「需給ギャップ」はほぼ解消しています。そのため、今後の経済成長は需要動向よりも供給力がカギを握り、供給サイドの動きを知るためには、供給力に働きかける政策や企業の設備投資計画などに注目する必要があるでしょう。

2026年の世界経済を知るキーワード

2026年の世界経済を知るためのキーワードを5つ紹介します。

【米国・中間選挙】

2026年は中間選挙(4年ごとの大統領選挙と重複しない年に行われる選挙)が行われる年です。トランプ政権は、中間選挙で勝利するためにも景気拡大に執着すると見られ、好景気が期待される一方で、想定外の強引な政策を打ち出す懸念もあります。

【中国・5カ年計画】

「5カ年計画」は今後5年間の経済・社会発展の具体的な目標と戦略を定めた国家の最重要政策であり、今回の「第15次5カ年計画」では2026年以降の5年間の長期計画が示されます。米国との対立が続く中で、中国が新しい経済成長の姿をどう実現するのか要注目です。

【日本・経済正常化】

2%の「物価安定の目標」達成が確実となり、安定した物価上昇の環境下で、物価上昇を常識とした正常なインフレ経済を取り戻せるかどうかが重要になってきます。

【中立金利】

中立金利は緩和でも引き締めでもない水準の金利です。特に日米において、市場が中立金利をどの程度だと想定し、政策金利がどこまで中立金利に近づくのか、それがドル円相場にどう影響するのか、注目されます。

【資産バブル】

米国株は、行き過ぎた期待を織り込んだバブルの可能性も指摘されています。日本株も期待先行で割高ゾーンに入りつつある中、日米の金融政策次第では不動産も含めた資産バブルのリスクが一段と高まるおそれがあります。今後の金融政策と資産価格の動向を注視することが大切です。

私たちの暮らしにどんな影響があるのか?

ここまで見てきた今後の経済情勢は、私たちの暮らしにどのような影響を与える可能性があるのでしょうか。

〇為替を通じた影響
日本の金融緩和が過度に長期化した場合、円安が進んで物価高が収まらず、家計を圧迫する可能性があります。一方、米国の大幅な金利低下などから為替相場が円高に振れた場合には、物価上昇が抑制され、実質所得の増加が期待されます。

〇インフレの定着
インフレが定着すれば、人々の消費行動は変わります。「今後は価格がもっと上がる」と考えるようになり、買いだめのメリットは大きくなり、高額商品や住宅購入は先送りより前倒しするほうが有利となり、インフレに負けない資産運用のニーズが強まるでしょう。

〇人手不足が継続
景気拡大の一方で、労働力の拡大余地は限定的です。外国人労働者が増えなければ、労働力はますます不足するでしょう。労働者にとっては基本的に売り手市場が続きますが、企業の生産性向上への意識も強まることから、スキルの有無が賃金などの労働条件を大きく左右する可能性があります。

■まとめ
・2026年度に入ると世界経済は回復に向かう
・米国経済は消費者物価、雇用統計、トランプ減税の影響に注目
・中国経済は関税交渉、住宅価格、「第15次5カ年計画」を注視
・日本経済は金融政策、為替動向、春闘、企業の設備投資計画をチェック
・資産バブルのリスクにも要注意

※2025年10月31日時点の情報

次回の【経済動向】分野は、「2025年の世界と日本経済の振り返り・2026年の世界経済の見通し」について解説します。
アコーディオン目次

お話を伺った方

伊藤忠総研 代表取締役社長、チーフエコノミスト

武田 淳 氏

1990年第一勧業銀行(現みずほ銀行)に入行し、第一勧銀総合研究所(現みずほリサーチ&テクノロジーズ)、みずほ銀行総合コンサルティング部などを経て、2009年伊藤忠商事入社。マクロ経済総括・チーフエコノミストとして内外政経情勢の調査業務に従事。2019年伊藤忠総研設立に伴って出向。2023年より代表取締役社長を兼務。

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