公開:2025.09.09

【経済動向】日本と世界の経済はどう影響しあっている?(武田淳氏)

ベテランのFPや経済の専門家が、FPに関わるさまざまなテーマやトピックスについて、全6回にわたり解説します。「経済動向」第4回目は、日本と世界の経済はどう影響しあっているのかについて教えてもらいます。

世界経済が日本経済に与える影響とは?

世界経済が日本経済に与える影響には、主に2つの経路があります。1つ目は輸出を経由する影響です。世界経済が悪化すると、海外需要の減少によって輸出が減り、製品を輸出する製造業の業績が悪化します。製造業での業績の悪化は、設備投資の抑制のほか、雇用や賃金の抑制につながり、消費にも悪影響を与えます。近年では、インバウンド(訪日外国人旅行)を中心としたサービス輸出の存在感も大きくなっています。世界経済が悪化し、インバウンドが減少すると、日本国内の宿泊や交通、飲食などにマイナスの影響を与えます。

2つ目は市場(マーケット)を経由した影響で、市場にも金融市場と商品(コモディティ)市場があります。金融市場では、世界経済が良くなると海外の金利が上がり、為替は円安に振れやすくなります。円安は輸出企業にプラスの影響がある一方で、国内では輸入品を中心に価格が上がり、物価上昇を招く側面もあります。商品市場では、世界経済が好調だとエネルギーや食料品の価格が上昇します。日本国内に代替品がある場合には価格上昇の影響を抑えることができますが、代替品がない場合には、いま起きているように国内でも物価が上昇することになります。

日本経済に与える影響が大きい国や地域は?

日本からの輸出の地域別シェアを見ると、中国(香港を含む)が約23%で最大です。次いでアメリカが約20%、ASEANが14%強、欧州が12%強となっています(図表1)この4つの地域で全体の約7割を占めており、この地域の景気動向が日本の輸出に大きく影響します。また、各国での日本企業の競争力も輸出に影響します。

例えば、自動車産業は日本の基幹産業ですが、中国のように輸出相手国の自動車産業の競争力が高まると、日本メーカーではなく、その国のメーカーの車を買う消費者が増え、輸出は減るでしょう。その他の製品でも同様のことがいえます。

図表1 日本からの輸出が多い地域

地域輸出額(単位:千ドル)シェア(%)
中国(香港を含む)160,848,84722.7
米国140,948,23819.9
ASEAN101,653,44614.3
欧州88,943,19512.5
出所:ジェトロ「ドル建て貿易概況」2024年(確々報値)

また、サービス輸出では、訪日外国人数の多い韓国や中国、台湾などの経済状況に加えて、その時々の対日感情や対日外交政策も大きく影響します。

日本経済が世界経済に与える影響

一方で、日本経済が世界経済に与える影響ですが、日本は2024年時点で世界第4位の経済大国ですが(図表2)、世界全体のGDPに占める割合は約4%まで低下しており、存在感は以前より小さくなっています。

図表2 世界の名目GDPランキング(1990年と2024年)

出所:IMF 「 World Economic Outlook Databases 」(2025年4月版)

ASEAN諸国のように日本への輸出依存度が高い地域では、依然として日本経済が与える影響は大きいといえます。ですが、中国では輸出に占める日本のシェアが約5%程度と小さく、中国にとっての日本の重要性は低下しています。

◆日本経済に影響を与える地域:中国の経済動向
世界第2位の経済大国になった中国は、市場としての規模が大きく、成長の余地もあります。ただし、かつてのように進出さえすれば高い確率で利益を得られるような簡単な市場ではなくなっています。中国経済の成長段階は、年率10%を超えるような高成長期から年率4~5%程度の中成長期にシフトしています。かつての日本に例えると、戦後から1970年代初頭のオイルショックまでの時代を過ぎ、平成バブル期に続く1980年代のような発展段階にあると考えられます。

日本経済に影響を与える地域:ASEANの経済動向
ASEANは世界の中でも最も成長率の高い地域の1つで、全体では年平均4~5%程度の成長を続けています。1997年に起きたアジア通貨危機以降、ASEAN諸国では外貨準備を充実させ、経常収支を改善したことで通貨が安定し、工業化も進んでいます。国によって発展段階に違いはあるものの、国民1人当たりGDPは平均すると4,000~5,000ドル程度で、消費市場が最も伸び盛りの段階にあります。

そのうえ親日的な国が多く、日本にとっては市場としても生産拠点としても重要な地域です。ただし、近年は中国の進出が著しく、それに対して日本企業の動きがやや鈍いことが懸念されています。

日本経済に影響を与える地域:インドと日本の関係は?
世界第5位の経済大国となったインドですが、現段階ではインドと日本の貿易関係はそれほど深くありません。とはいえ、日本ではいま、「何度目か」のインド進出ブームが来ているようです。前回(2005~2007年頃)のインドブームは期待通りの結果とはなりませんでしたが、中国と同じアプローチでインドに進出しようとする日本企業が多かったためではないかと思います。

ご存知の通り、インドは「世界最大の民主主義国家」であり、人権や土地所有権が重視され、地場産業の政治力が強く、政府の規制緩和も簡単には進みません。しかし、現在はモディ首相の強力なリーダーシップのもとで経済改革が進められており、日本企業のインド市場に関する理解も深まっています。インドを中東やアフリカ向けの輸出拠点として考える企業も増えており、スズキ(自動車)やダイキン(エアコン)などの成功例も出てきています。

世界経済を知るための経済指標

世界の経済情勢を把握するための指標としては、第一にGDPが挙げられます。毎月の景気動向を示す指標は国によって異なりますが、例えば中国ではPMI(購買担当者景気指数)や、より詳しい情勢を知るには小売統計(消費)、固定資産投資(投資)、貿易統計(輸出入)、物価指数(企業物価・消費者物価)を見るといいでしょう。

ASEANも国によって統計の整備状況が異なりますが、生産や消費、貿易動向などの指標で、ある程度詳しい状況を確認できます。統計の整備が遅れているインドについては、インフレ率や金融政策の動向に頼る部分が多くなります。これらの情報は各国が発表する統計のほか、金融機関や研究機関のレポートなどでも確認できます。

金融市場、商品市場の動向はどう把握する?

最後に、金利、為替、商品価格が変動する背景や見るべき経済指標について確認します。

金利の動向
金利については、言うまでもなく金融政策の動きが最重要であり、日本の場合、日本銀行(日銀)が「物価の安定」をマンデート(使命)に掲げていることから、インフレ指標が重要となります。また、現在の政策金利が中立金利(緩和でも引き締めでもない金利水準)と比べてどの位置にあるかを理解することが大切です。つまり、利上げ=引き締めと誤解されがちですが、現在の日本の金利水準は「緩和的」なため、利上げは「緩和の縮小」であって「引き締め」ではない、という点に注意が必要だということです。


また、日銀は将来の物価上昇率の予想である「期待インフレ率」も重視しており、その状況は日銀短観の企業の物価見通しや消費動向調査の「物価の見通し」、インフレ連動債に織り込まれた物価上昇率などで確認できます。

為替相場
為替相場は、通貨の需要である①取引決済、②資産運用、③価値保存(予備的需要)の3つの要素で大方把握できるでしょう。このうち取引決済は貿易収支や経常収支、資産運用は金利差、価値保存は外貨準備に占める通貨の割合などが参考指標になります。

商品価格
原油などの商品価格は需給バランスが大きく影響します。原油の需要は世界経済の動きに連動し、中でも原油の消費量が多い新興国の動向が重要です。供給側は、石油輸出国機構(OPEC)加盟国とロシアなどいくつかの非加盟産油国をメンバーとする「OPECプラス」と、アメリカのシェールオイル企業が主要プレーヤーです。OPECプラスは会合での生産計画、シェールオイルは採算水準(現状は60ドル前後)を超えると出やすい増産の動きを注視するといいでしょう。

■まとめ
・世界経済が日本経済に与える影響には輸出経由と市場経由の2つがある
・日本経済に与える影響が大きい地域は、中国、米国、ASEAN、欧州
・日本経済が世界に与える影響は小さくなっている
・世界経済を知るためには各国のGDPやPMI、消費、投資、貿易統計を確認
・金融市場(金利動向、為替相場)、商品価格の動向も重要
次回の【経済動向】分野は、「米国経済の先行きはどうなる?」について解説します。
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お話を伺った方

伊藤忠総研 代表取締役社長、チーフエコノミスト

武田 淳 氏

1990年第一勧業銀行(現みずほ銀行)に入行し、第一勧銀総合研究所(現みずほリサーチ&テクノロジーズ)、みずほ銀行総合コンサルティング部などを経て、2009年伊藤忠商事入社。マクロ経済総括・チーフエコノミストとして内外政経情勢の調査業務に従事。2019年伊藤忠総研設立に伴って出向。2023年より代表取締役社長を兼務。

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