公開:2026.08.26

50代男性。海外在住で両親の介護ができない。財産管理は? 施設選びは?

※この画像はイメージです。

会員が実際に対応した相談事例を取り上げるこのコーナー。今回は、高齢で要介護・要支援の両親が気になるものの、海外在住で細かなケアが難しい長男からの相談です。他県に住む長女(相談者の妹)も同じように不安を抱えています。CFP®認定者で、終活支援に注力している山田静江さんはどのようにアドバイスしたでしょうか。

ヒアリングシート

相談内容・プロフィール

Aさんの両親の家計データ

年間収支

115万円

収入

535万円

父親の老齢年金(手取り)

240万円

父親の個人年金(手取り) ※1

210万円

母親の老齢年金(手取り)

85万円

支出

420万円

日常生活費

300万円

住居費(自宅の固定資産税等)

20万円

医療・介護費

50万円

その他費用(予備費など)

50万円

金融資産合計

7,122万円

預貯金 ※2

2,122万円

株式・投資信託

5,000万円

終身保険(払済) ※3

3,000万円

※1 84歳まで210万円、以降60万円。88歳で終了
※2 これとは別に母親名義の預金500万円があるが、家計には含めない
※3 父親を契約者・被保険者とする終身保険1,000万円×3本(受取人は母親・Aさん・妹)あり

相談者プロフィール

Aさん(50代・会社員・海外在住)。Aさんの父(78歳・要介護)と母(74歳・要支援)が実家で2人暮らし。Aさんの妹(40代)は実家から離れた他県に家族と居住。

相談内容

両親が高齢になり、父は要介護認定、母は要支援の認定を受けた。介護サービスを利用しながら母が父の介護をしているが、いずれ2人で暮らすのは難しくなると思う。長男の自分は海外、長女(妹)は他県で暮らしており、頻繁に実家に帰ることはできないし、急なことにも対応しにくい。両親に高齢者施設に入居することを勧めたら拒否はされなかったが、施設はどう探せばいいか。また今後のためにどんな対策をしておけばいいか、お金の問題がないかも知りたい。


■図表1 Aさんの家族関係

アドバイスのポイント

  • 家族の希望と状況を整理し、まずは両親の資産を把握
  • 銀行の代理人登録や任意後見契約について助言
  • 高齢者施設探しをサポート。CF表作成で資金に余裕があることを確認

1.家族の希望と状況を整理し、まずは両親の資産を把握

海外在住のAさん。両親を入居させる高齢者施設選びや、今後の対策について相談を依頼されました。Aさんの知人が執筆記事などを通じて山田さんを知り、終活支援を行っているFPとして教えてくれたそうです。両親が住んでいる地域と山田さんの活動拠点が近いこともあり、遠方に住む自分にとっても心強いと感じ、相談を依頼されたそうです。

相談には妹さんも参加され、おもにオンラインで進められました。

まず行ったのは、両親の状況確認です。
父は要介護1で日常的な動作のほとんどは自分でできますが、排泄や入浴時などに見守りや介助が必要な状態といいます。母親は要支援1で立ち上がりや歩行に不安があるものの、身の回りのことはほぼできる状態です。

母親が父親のお世話をしていますが、2人とも今後の生活に不安を感じているよう。また母親は父親の介護負担もあり、精神的にやや不安定な様子も見受けられるといいます。Aさんも、妹さんも、「家が遠くて日常生活の支援も難しいし、急病の際などですぐに駆けつけられないのが不安。近くに頼れる親戚もいない」と話します。そのため、「両親を同じ高齢者施設に入居させたい」というのが、Aさんと妹の意見です。

 「Aさんが帰国した際、両親にそれとなく施設入居を勧めたところ、そのほうが安心かもしれないと口にされたそう。しかしAさん、妹とも施設探しの時間をつくるのが難しく、知識もないため、相談したいということでした」

「施設選びの際に重要なポイントのひとつとなるのが、予算です。そこで、相談を申し込まれた際、Aさんにはご両親の資産状況(自宅、金融資産、保険など)を確認していただくよう、お願いしました。子どもからは聞きにくいことではありますが、そこが把握できないと具体的なプランを立てるのが困難です。Aさんは、施設の予算も考えたいなどと話され、ご両親に確認したそうです。Aさんが想像していたより資産が多く、安心したといいます」

2.銀行の代理人登録や任意後見契約について助言

さらに山田さんが行ったのが、財産管理についてのアドバイスです。
「認知症になった場合に備え、預貯金など金融資産のほか、ご自宅の管理についても対策しておく必要があります」

山田さんは、両親が利用する銀行で代理人カードをつくるか代理人登録をしておくことを提案しました。あらかじめ代理人として登録しておくと、預金について手続きができるものです。また株式や投資信託も保有されているので、証券会社に問い合わせ、必要な手続きをとるよう、促しました。

もうひとつは、父、母それぞれの任意後見契約です。認知症になると、自宅を修繕する、売却するなどの契約行為ができなくなることがあります。せっかく準備している老後資金を両親のために使えるようにするための対策のひとつです。山田さんは、Aさんの要請に応じて、提携している司法書士事務所を紹介しました。司法書士との対面では、父と母、Aさん、Aさんの妹さん、山田さんも同席し、任意後見契約の必要性や、締結しておけば安心であることなどを理解してもらったそうです。

検討の末、父、母それぞれと、日本在住の妹を任意後見人として、後日、公証役場で任意後見契約を締結しました。父、母が認知症等により判断能力が不十分になった場合には、妹さんが後見人として財産管理、生活・療養看護を行うことができます。

3.高齢者施設探しをサポート。CF表作成で資金に余裕があることを確認

任意後見契約等の財産管理の準備が終わってから、約半年後、Aさんの再来日に合わせて、高齢者施設の見学を行いました。父親の状況が悪化しつつあり、ひとりで介護を行うことに、母親が不安を口にするようになり、そろそろ限界と判断しました。

「夫婦で同じ施設への入居を希望していること、またAさん、妹さんの状況をふまえると通院サポートをしてくれる、看護師さんが24時間常駐で医療ケアが手厚いなどの施設が望ましいといえます。お母様は元気なうちは一人で外出したいという希望もありました。このケースでは、選択肢は介護付有料老人ホームになります」

山田さんは終活支援に注力していることもあって施設選びの相談も多く、司法書士事務所のほか、高齢者施設の紹介会社とも提携しています。Aさんの意向を受けて紹介会社を紹介しました。

紹介会社から条件に合った施設の候補が提案され、父・母・Aさん・Aさんの妹さんは、山田さんにも同行を依頼して施設を見学。条件に合うことと、自宅から近いこと、部屋が明るくて安心して暮らせそうなことから、B介護付有料老人ホームへの入居を決めました。

「Aさんの帰国中に決めたいということだったため、候補となった複数の施設の資料や情報は、あらかじめ紹介会社からAさん、妹さんに送ってもらいました。私からも説明したり、質問に回答したりしました」

ご自宅は、Aさんが帰国する際に滞在するほか、万が一、施設になじめない場合などに備え、当面残すことにしました。「固定資産税などの維持コストはかかりますが、すぐに片付けなくていいのも、お忙しいAさんと妹さんにとってはメリットでした」

Aさんは両親ともに施設入居するにあたり、今後、お金が不足しないかも気になるといいます。「施設選びでは、CF表を作成して収入や資産にあったものを選びます。Aさんや妹さんにもCF表で説明して、安心していただきました」

なお、有料老人ホームでは入居一時金を払う「一時金タイプ」と、入居一時金は払わない「月払いタイプ」があります。候補になった施設は、一時金タイプの場合、入居一時金が900万円、月額が17.7万円(年間212.4万円)です。対して月払いタイプでは、月額26.2万円(年間314.4万円)です(図表2)

図表2 タイプ別 施設費用の比較(1人当たり、単位:万円)

※山田氏の資料を基に日本FP協会作成。なお、正確には「全額月払いタイプ」、「一時金・月払い併用タイプ」の2種類だが、それぞれ月払いタイプ、一時金タイプと表記した

入居一時金を含めた金額の累計では、9年目に月払いタイプの累計(約2,887万円)が、一時金タイプの累計(約2,850万円)を上回ります。つまり、9年以上暮らした場合は、一時金タイプの方が負担は少ないわけです。「何年暮らすかは予想できないため、平均余命や健康状態などによって選択するのが一般的です。Aさんは、両親とも相談し、長生きしても不安が生じないよう、一時金タイプを選択されました銀行預金には余裕を持った金額を残しておきたいので、一時金は株や投資信託を売却して準備されました」

図表3は、一時金タイプで入居した場合のCF表です。父100歳、母96歳時点でも、1,200万円以上の金融資産が残る見込みです。

図表3 一時金タイプで介護付き有料老人ホームに入居した場合のキャッシュフロー表

※山田氏への取材を基に日本FP協会作成

CF表条件

【収入】
● 父の公的年金(手取り):~終身/240万円
● 父の個人年金(手取り):~84歳/210万円、85~88歳/60万円
● 母の公的年金(手取り):~終身/85万円
【支出】
● 日常生活費:父78歳時/夫婦で300万円(施設入居前)
● 住居関連費:~終身/20万円(自宅の固定資産税・維持費等)
● その他費用:~終身/50万円(予備費等)
● 介護施設入居一時金:父79歳/900万円、母75歳/900万円
● 介護施設代:父79歳~終身/212万円、母75歳~終身/212万円 ※変動率0.5%
● 夫婦の医療・介護費:父78歳/50万円、79歳~終身/67万円(高額介護合算療養費制度の年限度額を計上)
【金融資産】
● 父78歳時年末残高/7,122万円 ※変動率0.1%

「医療・介護費は、高額介護合算療養費制度による年間の上限額を想定しています。Aさんのご両親の場合、現役並みⅠの所得区分に該当し、年間の限度額は67万円です。ご相談者は、高額療養費制度や高額介護サービス費は知っていても、この制度は知らない人が多いようです。高度な医療ケアが必要になる可能性などを考えると、さらに別の施設に転居ということもあり得ますが、資金には余裕がありますし、万一不足することがあれば、自宅を売却して代金を施設費用に充てることもできます。現状では余裕のあるプランといえるでしょう」

ほかに母名義の預金がありますが、「自宅と施設とを行き来したり、外出や買い物も楽しんだりしたいとのことなので、Aさんとも話し、自由に使っていいお金としてCF表から除外しました。そのほか、父は1,000万円の終身保険3本に加入しており、母、Aさん、妹が受取人となっています。Aさんや妹さんが何かしら費用を立て替えたりした場合も、将来ここから補完でき、安心です」

相談の申込みから2年程度経過しましたが、施設への入居前後から、父親に軽微な認知症の症状が出てきたそう。「高齢者の方は急に体調を崩されたり、認知機能が悪化したりすることもあるので、ご相談があった際にはスピード感をもって対応することも大切です」

お話を伺った方

CFP®認定者

山田 静江 氏

株式会社WINKS 代表取締役。終活アドバイザー、宅地建物取引士。早稲田大学商学部卒業後、東海銀行(現三菱UFJ銀行)に入行。その後、会計事務所、独立系FP会社を経て、2001年にFPとして独立。セミナー講師、執筆・監修、個人相談、FP 関連業務の企画等を行う。得意分野は、様々な世代のライフプランニング、医療・介護、相続・エンディングノート、退職金・企業年金など。

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