FP・専門家に聞く
2026.08.12
【経済動向】おひとりさま経済の拡大と家計消費への影響(久我尚子氏)
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公開:2026.08.12
今回の「経済動向」では、おひとりさま経済の拡大と家計消費への影響について解説します。
国立社会保障・人口問題研究所の「人口統計資料集(2025年版)」によると、おひとりさま世帯(単身世帯)は1990年には939万世帯で全世帯の23.1%を占めていましたが、2020年には2,115万世帯で全世帯の38.0%にまで増加し、30年前の2.3倍になっています。この背景には未婚化や晩婚化の進行に加えて、核家族化の進展、配偶者と死別した高齢単身世帯の増加といった要因もあげられます。
おひとりさま世帯と、複数人で暮らす家族世帯とでは、消費生活に違いが生じることは言うまでもありません。日本では、今後もおひとりさま世帯の増加が見込まれており、その動向は消費市場に大きな影響を及ぼすと考えられています。
おひとりさま世帯の内訳も変化しています。性・年齢区分別に単身世帯の構成を見ると、1980年には35歳未満の若年男性世帯が41.1%と圧倒的に多く、次いで若年女性世帯が17.8%で、若年世帯がおひとりさま世帯の約6割を占めていました(図表1)。
その後、おひとりさま世帯に占める若年世帯の割合は低下し、代わりに60歳以上の高年齢世帯や、35~59歳の壮年男性世帯が増加しています。2020年では高年齢女性世帯が26.2%と最も多く、次いで壮年男性世帯(19.8%)、高年齢男性世帯(15.8%)、若年男性世帯(15.6%)と続いています。
今後は壮年男性世帯の増加に歯止めがかかる一方で、高年齢世帯はさらに増える見込みです。おひとりさま世帯に占める60歳以上の割合は、2040年には半数を超え、2050年には53.0%になると予想されています。
総務省「家計調査」によると、2024年の段階では、おひとりさま世帯のうち勤労者世帯の割合は全体で49.1%となっています。また、二人以上世帯のうち勤労者世帯の割合は、全体で55%となっています。
話は少しそれますが、18歳未満の子どもがいる子育て世帯は全世帯の約16%あり、そのうち専業主婦世帯は2割弱であることから、妻が専業主婦で子どもが2人いる、昔ながらの国の年金制度におけるいわゆる“モデル世帯”は、全体の約3.5%程度であると考えられます。
2000年以降の勤労者世帯における1カ月間の可処分所得を見ると、若年女性で増加する傾向にあります(図表2)。
2000年と2024年を比較すると、1カ月間の可処分所得は名目値で6万8,510円の増加、実質増減率でも13.0%の増加となっています。
この背景には、2015年に制定された「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(女性活躍推進法)」などによる就労環境の整備や、人手不足を背景とした若年層の雇用改善があげられます。その結果、若年世帯では男女の可処分所得差が大幅に縮小しています。2000年には、若年女性の1カ月間の可処分所得は若年男性よりも4万6,277円少なかったものの、2024年には3,065円差にまで縮まりました。
2024年のおひとりさま勤労者世帯の1カ月間の可処分所得を性・年齢階級別に見ると、壮年男性が最も多く35万9,002円、次いで若年男性(30万8,376円)、若年女性(30万5,311円)、壮年女性(26万8,831円)となっています。
注目すべきは、2019年までは壮年女性の可処分所得が若年女性の可処分所得を上回っていたものの、その後逆転していることです。これは若年女性の就労環境改善が、おひとりさま世帯の収入構造に変化をもたらしていることを示唆しています。
一方、壮年女性は就職氷河期世代でもあり、非正規雇用など雇用環境悪化時の影響を受けやすい人たちも少なくありません。将来、社会的危機や景気後退が生じた際には、壮年女性のおひとりさま世帯は、深刻な所得減少や雇用喪失に直面する可能性が高く、高齢期の貧困リスクにもつながりかねません。
こうした脆弱性を踏まえ、雇用の安定性確保やスキル向上支援に加え、就労継続・再就職の後押し、老後の生活基盤強化を含む、きめ細やかな支援策の検討が求められるでしょう。
消費支出については、総務省「家計調査」を用いて、ほぼ全員が勤労者である若年世帯と8割前後が勤労者である壮年世帯は勤労者世帯の数値を、全体と60歳以上については勤労者と勤労者以外を含めた全体の数値を用いて分析を行いました。
上記の分析を性・年齢階級別に2020年と2024年とで比較すると、若年男性はマイナス1,206円、壮年女性はマイナス1,412円と、2020年をやや下回っています。この要因の1つに2020年に対する2024年の可処分所得の増加率が、若年男性はプラス7,999円、壮年女性はプラス7,279円と、他層に比べて小さいことがあります(その他は2万円前後、最大は若年女性でプラス2万5,689円)。
これは、壮年女性の家計に余裕が少なく、収入変動に対して消費が敏感に反応することを示しています。雇用面での脆弱性が消費行動にも影響しているといえるでしょう。
おひとりさま世帯の消費構造は、二人以上世帯に比べて「住居」や「教養娯楽」の割合が高く、かつ年齢や性別によって異なる消費パターンを持つ傾向があります。
食費に占める「外食」の割合が高いこともおひとりさま世帯の特徴です。2024年の勤労者世帯のデータを見ると、食費全体に占める外食の比率は、二人以上世帯が20.1%であるのに対し、おひとりさま世帯では若年男性で48.3%、若年女性37.7%、壮年男性33.2%と二人以上世帯を大幅に上回ります。「外食」と「調理食品」を合わせると、若年男性で68.4%、若年女性54.1%、壮年男性54.0%と過半数を占めています。
ただし、「外食」については、物価高の影響を受けて控える傾向も強まっています。外食比率の2019年に対する2024年の実質増減率は、二人以上世帯ではマイナス4.1%にとどまる一方で、おひとりさま世帯では若年男性でマイナス32.6%、若年女性マイナス27.7%、壮年女性マイナス25.0%、壮年男性マイナス12.0%、高齢女性マイナス10.0%、高齢男性マイナス7.1%と、若年層を中心に減少しています。
おひとりさま世帯の食生活は外食志向の高さを維持しつつも、2019年から2024年の5年間で、中食や内食(自炊)の比率が高まる方向にシフトしているといえそうです。背景には、デリバリーサービスの普及やコンビニ食品の高品質化、冷凍食品の技術革新などに加えて、物価上昇による家計の負担感が外食の抑制につながっていることがあると考えられるでしょう。
おひとりさま世帯と二人以上世帯では、住生活に大きな違いがあります。二人以上世帯の持ち家比率が82.5%なのに対し、おひとりさま世帯では「家賃・地代」を負担する賃貸住宅で暮らす世帯が圧倒的に多くなっています(図表3)。
若年男性では88.5%、若年女性は91.8%、壮年男性は53.2%、壮年女性は48.3%が賃貸住宅住まいです。若年・壮年おひとりさま世帯で持ち家比率が低い背景には、住宅購入が結婚や家族形成のタイミングで検討されやすいこと、一人では住宅ローンの負担が重くなりやすいこと、さらには将来の転居や介護への備えとして流動性を重視することなどがあげられます。特に若年・壮年層では、キャリア形成や転職に伴う地域移動の可能性も高く、賃貸住宅の柔軟性が選好されていると考えられます。
なお、高齢世帯については持ち家比率が8割前後に上り、特に高齢女性では86.8%と高くなっています。高齢のおひとりさま世帯は、以前は二人以上世帯だったものの、配偶者との死別などによっておひとりさま世帯になったケースが少なくないためと考えられます。
ここまで見てきたように、おひとりさま世帯の消費行動は一様ではなく、性別や年代によって異なる多層的な構造を持つことが示されています。また、二人以上世帯と比較すると、おひとりさま世帯は物価高や社会変化の影響をより敏感に受けやすいことも特徴的といえるでしょう。
前述の通り、物価上昇を背景とした外食から中食・内食へのシフトは、おひとりさま世帯で特に顕著に表れるなど、おひとりさま世帯は社会変化や経済環境の影響を先行的に映し出す存在ともいえます。
国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計(全国推計)」(令和6年推計)によると、2050年にはおひとりさま世帯が44.3%に達する見込みです。そのような社会では、おひとりさま世帯の多様性を理解した政策立案や商品・サービス開発が一層重要になると考えられます。FPにも、例えば経済環境の変化が生活に直結しやすいおひとりさま壮年女性に対して、早い段階から老後の生活基盤強化につながるアドバイスをすることなどが求められるのではないでしょうか。
おひとりさま世帯の消費実態を丁寧に把握することは、消費市場の将来像を描き、持続可能な社会の形成につなげるうえでも不可欠だといえます。
ニッセイ基礎研究所 生活研究部 上席研究員
久我 尚子 氏
2001年早稲田大学大学院理工学研究科修了(工学修士)。2001年株式会社NTTドコモ入社、2007年独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用、2010年ニッセイ基礎研究所入社。2021年7月より現職。総務省「統計委員会」委員。専門分野は消費者行動、心理統計、マーケティング。著書に集英社新書「選ばない消費―AI時代の暮らしと価値観」(2026年6月)など。
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