公開:2026.04.21

【社会保障】退職や転職のときの社会保険と税金の手続き(井戸美枝氏)

チャット風吹き出し最終決定版(中央寄せ修正版)

ベテランFPや経済の専門家が、FPに関わるさまざまなテーマやトピックスについて、全6回にわたり解説します。

井戸美枝氏のアイコン
井戸美枝氏

「社会保障」の第5回目は、定年退職や早期退職など、退職前後に発生する社会保険や税金の手続きについて、見落としがちなポイントやFPとしてのサポートの要点を解説します。

最優先は健康保険の切り替え手続き

退職が決まった際、最初に行わなければならないのが健康保険の切り替え手続きです。退職は定年だけでなく、60歳未満の早期退職など様々ですが、いずれにせよ退職によってそれまでの健康保険の資格を喪失するため、次の健康保険の手続きや、年金の被保険者種別の変更手続きなどが必要になります。

健康保険は、退職の翌日から20日以内に手続きをしなければ、「任意継続被保険者」になることができません。もしこの期限を過ぎてしまうと国民健康保険に加入することになりますが、退職した前年の所得で計算します。退職した年は高い所得である場合は多いもの。その高い所得に対して保険料が計算されるため、負担が非常に重くのしかかってきます。

転職先が決まっていない場合、健康保険の選択肢には「任意継続」「国民健康保険への加入」「家族の扶養に入る」の3つがあります。多くの方にとって、「任意継続」を選択するほうが有利になるケースが一般的ではないでしょうか。任意継続の場合、会社負担分がなくなるため保険料は在職中の倍になりますが、標準報酬月額に上限(協会けんぽは32万円)が設けられています。国民健康保険にはそのような上限がなく、退職前の給与が高かった方ほど、前年所得がまるまる反映されるため、結果的に任意継続のほうが保険料を低く抑えられることが多いのです。さらに、任意継続であれば組合健保などの「付加給付」を引き続き2年間受けられます。扶養も引き続き、加入することができます。国民健康保険にはない大きなメリットもあります。
国民健康保険は扶養であっても、所得に関わらず加入人数に応じて計算される「均等割」もかかってきます。支払う保険料と付加給付は、早めに確認しておきましょう。

また、家族の扶養に入る場合の手続きは「5日以内」とさらに期限が短いため、特に急ぐ必要があります。ここでFPから顧客にお伝えしておきたい注意点は、失業保険を受給している期間は原則として扶養に入れないケースが多い、ということです。扶養に入るには年収130万円(60歳以上は180万円)未満という要件がありますが、失業手当の受給額がこの基準を超えてしまうためです。

したがって、失業保険を受給している間は国民健康保険を利用し、受給が終わった段階で扶養に移動する、といった柔軟な対応もアドバイスの選択肢になります。昔は一度任意継続を選ぶと2年間はやめられなかったのですが、今の制度では途中でやめることができるようになっていますので、このメリットをしっかり活用したいところです。

図表1■転職先が決まっていない場合の健康保険の選択肢と期限

選択肢手続きの期限特徴・留意点
①これまでの保険の任意継続退職日翌日から20日以内在職中は半額を会社が負担していたため保険料は全額自己負担(倍)になるが、上限がある
②国民健康保険に加入する退職日翌日から14日以内世帯主が納付義務者となる。手続きが遅れた場合でも遡って加入し、保険料も支払う
③家族の扶養に入る退職日翌日から5日以内年間収入が130万円未満で、扶養する人の年収の2分の1未満であることが条件(失業手当受給中は入れないことが多い)

出所:井戸美枝氏作成

年金・税金の手続きも「隙間」を作らないことが鉄則

健康保険に続いて行うべきなのが、国民年金への切り替えです。60歳未満で退職し、転職先が決まっていない場合は、国民年金の第1号または第3号被保険者への種別変更手続きを年金事務所で行う必要があります。

もし手続きをせずにいると「被保険者期間の隙間」ができてしまい、その間に交通事故などで障害を負ってしまった場合、初診日において被保険者でないと障害年金が受け取れなくなるおそれがあります。顧客へは万が一のリスクに備え、早めに行動するよう促しましょう。また、「手元のお金が不安だから」と年金事務所へ行くのをためらう方もいらっしゃいますが、失業による特例免除(退職から一定期間の保険料免除)を利用できる場合もあるため、まずは相談に必ず足を運ぶようお伝えしてください。

図表2■退職後の国民年金への種別変更

退職後の状況加入する年金手続き・支払いのポイント
転職先が決まっている第2号被保険者転職先の会社が手続きをしてくれる
転職先が決まっていない第1号被保険者退職の翌日から14日以内にご自身で市区町村へ手続きが必要。無職の間は保険料の免除申請も可能
配偶者の扶養に入る第3号被保険者配偶者の勤務先が手続きをしてくれる。自身の保険料の支払い義務はなし

出所:井戸美枝氏作成

さらに、退職後の生活資金を圧迫しやすいのが住民税です。在職中は給与から特別徴収されていますが、退職後は一括徴収、あるいは自宅に届く納付書を使って自分で支払う普通徴収に切り替わります。住民税は前年の所得に対して一律10%が課税されるため、退職して収入が減った状態で住民税が請求され驚かれる方が多いようです。春頃に届く納付書を見て慌てないよう、あらかじめ市区町村のウェブサイトなどで概算を把握し、納税資金を準備しておくようアドバイスすることも大切です。

退職した年の確定申告も見落としがちなポイントです。年の途中で退職して再就職しない場合、年末調整が行われません。在職中の給与からは所得税が概算で多めに源泉徴収されていることが多いため、自分で確定申告を行うことでほとんどのケースで税金が戻ってきます。また、iDeCo(個人型確定拠出年金)や、生命保険料控除などの適用を受けるためにも、自ら申告を行う必要があります。還付申告自体は該当年の翌年1月1日から5年間行うことができるため、比較的期限にゆとりがありますが、手続きを忘れないためにも早めの申告をおすすめします。

図表3■転職のタイミングで変わる所得税の申告手続き

転職のタイミング必要な手続き手続きをする人
退職した同じ年内に転職する前職と転職先の所得を合わせて「年末調整」を行う転職先の会社
退職後、年をまたいで転職する
(または再就職しない)
翌年の2月中旬〜3月中旬に前年分の「確定申告」を行う退職者自身

※退職した会社からもらう「源泉徴収票」が必ず必要

出所:井戸美枝氏作成

退職時のチェックリストと65歳退職の「裏技」

退職前後の手続き漏れや選択ミスを防ぐため、私たちFPは「手続きチェックリスト」を用意して顧客に提供することが非常に有効です。

退職時の手続きチェックリスト例

  • 離職票:ハローワークでの失業手当(基本手当)の申請に必要(※退職後10日〜2週間程度で届く)
  • 源泉徴収票:年またぎで転職する場合の「確定申告」や、年内転職の場合の転職先への提出に必要
  • 健康保険資格喪失証明書:国民健康保険への切り替えや、家族の扶養に入る場合の手続きに必要
  • 雇用保険被保険者証:雇用保険の加入証明。転職先が決まっている場合は転職先に提出

チェックリストにぜひ加えていただきたいのが、マイナ保険証です。退職して健康保険が変わった場合、自動的にマイナンバーカードの情報が書き換えられると誤解している方が少なくありません。昔のように古い保険証を返して新しいものをもらうという物理的なやり取りがないため、勝手に更新されると思いがちですが、次の就職予定がない退職の場合はご自身で切り替え(紐付け)の手続きを行わないと切れたままになってしまいます。急に医療機関にかかった際に保険証が使えず、いったん10割を負担しなければならない事態になりかねませんので、この点には十分な注意が必要ですね。

また、ハローワークでの手続きについてもアドバイスが必要です。失業保険の求職申し込みを行うと、指定された失業認定日に原則として4週間に1回通う必要があります。職業訓練を受講することで給付期間が延長されるケースもあるため、ハローワークで制度の詳細を確認するよう促すことも大切です。

最後に、60代の退職において知っておきたい「年齢計算の特例」に関するポイントをお伝えします。雇用保険の失業手当は、65歳以降に退職した場合「高年齢求職者給付金」という一時金での支給となり、65歳未満で退職して受け取れる「基本手当」と比べて給付日数が100日分ほど少なくなってしまいます。

年齢に関する法律では「誕生日の前日」にその年齢に達するとされています。つまり、65歳の誕生日の前日にはすでに65歳として扱われるのです。そのため、手厚い基本手当を受け取るためには、遅くとも「65歳の誕生日の前々日」(実質64歳)までに退職日を設定する必要があります。わずか数日の違いでもらえる金額に大きな差が出るため、退職時期を検討している顧客には必ずお伝えしたいポイントとなります。

退職前後の社会保険や税金の手続きは、知っているか知らないかでその後の生活設計に大きな影響を与えます。顧客の人生の転換期において、不利益を被ることなくスムーズに次のステップへ進めるよう、的確なアドバイスとサポートを提供していきましょう。

次回の【社会保障】分野は、「障害年金と傷病手当金〜万一の時のセーフティーネット〜」について解説します。
アコーディオン目次

お話を伺った方

CFP®認定者、社会保険労務士、井戸美枝事務所代表

井戸 美枝 氏

関西大学社会学部卒業。社会保険労務士として独立。講演や執筆、メディア出演などを通じ、年金や社会保障、個人の資産形成について、生活者の視点からわかりやすく解説している。社会保障審議会企業年金部会委員などを歴任し、現在は国民年金基金連合会および日本FP協会の理事も務める。

あわせて読みたい

関連コンテンツ 4x2 レイアウト

ランキング

  • デイリー
  • 週間
  • いいね数
  • コメント数