公開:2026.05.19

【社会保障】障害年金と傷病手当金〜万一のときのセーフティーネット〜(井戸美枝氏)

チャット風吹き出し最終決定版(中央寄せ修正版)

ベテランFPや経済の専門家が、FPに関わるさまざまなテーマやトピックスについて、全6回にわたり解説します。

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井戸美枝氏

「社会保障」の第6回目は、万一病気やけがで働けなくなったときに生活を支える「傷病手当金」と「障害年金」の役割、さらに見落とされがちな受給対象となる疾患や、申請時の注意点、FPとしてのサポートについて解説します。

短期給付の「傷病手当金」から長期給付の「障害年金」へ

会社員などが加入する公的医療保険(健康保険)と公的年金には、それぞれ明確な役割分担があります。健康保険は主に「短期給付」を担っており、短い期間の生活を守るためのものです。一方、年金は「長期給付」であり、いつまでという区切りはなく、障害の状態が続く限り保障が継続するという特徴があります。

病気やけがで休業を余儀なくされた場合、健康保険からは「傷病手当金」が支給されます。会社が手続きを行い、連続して3日間休んだ後の4日目から、通算して1年6カ月間、給与の3分の2が保障されます。

注意点として、傷病手当金を受給している期間中、会社が残りの3分の1を給与として直接支給したとしましょう。傷病手当金の額より少ない給与が支払われた場合、傷病手当金はその分減額されて差額支給となるため、結果として労働者の手取り総額(給与+傷病手当金)は増えません。一部を支給する場合は、傷病手当金以上の給与でないと、従業員の手取りは増えません。会社独自の福利厚生規程による手当や、健康保険組合独自の「付加給付」の有無を確認するとよいでしょう。

1年6カ月が経過した時点で、障害の状態が続いている場合は、基本的にその日が障害年金の「認定日」となります。短期給付である「傷病手当金」から、長期給付である「障害年金」へとバトンタッチされる仕組みになっています。ただし、1年6カ月を待たずに症状が固定(治癒)した場合、例えば手足を切断したり、臓器を摘出したりして、それ以上状態が変わらなくなったケースでは、その時点が認定日となります。

なお、業務上や通勤途中のけがなどの場合は、労働保険(労災保険)が適用されます。労災保険は短期・長期の給付を併せ持つ非常に手厚い補償です。保険料は全額事業主負担であり、被保険者(加入者)という概念はなく、そこで働く人はすべて適用になる制度です。休業補償給付として給与の約8割が非課税で支給されるため、通常の給与とほぼ変わりません。例えば、仕事中に会社の階段で転んでけがをした、といった身近なケースも労災になります。業務をしていることによって被った病気やけがが対象です。また認められた合理的な経路、および方法で通勤している途上でけがをしたといった場合も労災保険の範囲です。

フリーランスや一人親方の方、個人タクシーの運転手や税理士など職種によっては「特別加入」することができます。2021年4月から段階的に対象となる職種も拡大しています。対象となる方は検討する価値があるでしょう。

障害年金の給付は病名で判断するのではなく、仕事や生活上の影響で決まる

年金というと老齢年金や遺族年金を思い浮かべますが、障害を被ったときの「障害年金」があります。実は、がんの新規罹患者(約99万人)に対して障害年金受給者(約209万6000人)と障害年金を受給している人のほうが多いのです。障害年金と聞くと、外見からわかる障害をイメージする方が多いかもしれません。しかし、障害年金は何の病気(疾病)かで決まるわけではありません。がんや人工関節、糖尿病の合併症、脳血管疾患など、あらゆる病気やけがが対象になります。

受給を決定するのは、「その病気やけがによって、生活や就労にどれほどの支障が出ているか」という状態です。例えば、がんの治療による後遺症で常に倦怠感があり働けない状態や、糖尿病の合併症で視力が低下したり腎臓の機能が落ちたりした場合でも、障害等級に該当する可能性があります。ほかには、人工関節を入れた場合は、原則として障害等級3級に認定されます。手術日がはっきりしているため申請しやすいケースですが、3級は「障害厚生年金」の等級であるため、初診日に会社員として厚生年金に加入していたことが条件となります。

こうした該当ケースを知らず、「少ししんどいくらいでは無理だろう」「自分はただの糖尿病だから」と思い込んでいる方が非常に多いのが現状です。もし顧客が病気で長期療養を余儀なくされている場合は、病院に設置されている相談窓口(医療ソーシャルワーカーや看護師など)に「この状態なら障害年金の対象になるでしょうか」と聞いてみるよう促してみてください。かかりつけの街のクリニックの医師の場合、専門範囲によっては制度に詳しくないこともありますが、まずは診断書を書いてもらい、申請してみる価値は十分にあります。診断書代に数千円かかったとしても、障害年金は非課税であり、該当すればその後の生活の大きな助けとなります。

また、「障害年金をもらいながら働くと支給が止まってしまう」と誤解している方も少なくありません。もちろん、以前と全く同じように元気に働ける状態に回復すれば対象外となりますが、短時間勤務などで働きながら障害年金(2級など)を受給することは可能です。こうした正しい知識をお伝えするのも、FPの重要な役割です。

FPができるリスク管理のサポート

近年増えているうつ病や適応障害などの精神疾患でも、もちろん障害年金を受給する可能性もあります。ただし、精神疾患は外から見えにくく、治ることもあるため、年に1回診断書を提出して状態のチェックを受けるなど厳しく管理されています。また、申請に当たっては特有の難しさがあります。

障害年金の受給には、いくつかの要件があります。その中でまず確認が必要なのは「初診日(初めて医師の診療を受けた日)」において、公的年金の被保険者であること。そして、保険料の納付要件です。「初診日の前日」において、「初診日のある月の前々月まで」の被保険者期間のうち、3分の2以上保険料を納付(免除)している、あるいは直近1年間に未納がないこと(※初診日が2036年3月末までの特例) が必要です。

精神疾患の場合、病院を転々としたり、少しずつ仕事をやめてしまったりするケースが多く、「初診日がいつなのか」を特定するのが困難になることがあります。中には、都合のいい初診日を取ろうと不適切な対応をする専門家もいるため注意が必要です。

特に気をつけなければならないのが、退職後の「無保険(未納)期間」です。精神的に辛くて退職した場合、健康保険や国民年金の種別変更の手続きに行く気力すら湧かないことがあります。「役所に行くと保険料を払えと言われそう……」と放置してしまい、その未納の期間中に新しい病院へ行き、そこが初診日と認定されてしまうと、障害年金は一切受け取れません。収入がなければ、特例による免除や猶予の制度があります。ご本人が難しい場合は、ご家族にサポートしてもらい、必ず役所で手続きをするよう伝えてください。

また、初診日や治療の経緯を証明するためには、書面などわかるものが不可欠です。病院の領収書、薬局でもらう薬の名前が書かれた紙、お薬手帳、行政から届いた書類などは、紙でもデジタル(写真やアプリ)でも構いませんので、医療費控除などのためにも捨てずにすべてファイルして保管しておくよう日頃からアドバイスしておきましょう。いざというときに履歴が追えなくては証明が困難になります。

民間保険の就業不能保険についてもよく質問を受けますが、まずは公的な傷病手当金や障害年金という支えがあることを理解したうえで検討しましょう。フリーランスなど、厚生年金や傷病手当金がない人にとっては、就業不能保険は有効な選択肢となります。しかし会社員の場合は、民間の就業不能保険は働き盛りで子どもが小さく、どうしても生活費が不足する期間に限定して加入するのが基本です。また、保険金を受け取っている間も保険料を払い続けなければならない(免除にならない)商品が多いことにも留意する必要があります。すでに医療保険やがん保険に加入していて保険料負担が重い場合は、優先順位を考えるべきでしょう。

私たちFPは、社会保険労務士のように年金の申請手続きそのものを代行することはできません。しかし、さまざまな制度を横断的に把握し、「こういう給付があるかもしれませんよ」「病院や役所に相談してみてはどうですか」と、顧客に気づきを与えることができます。必要に応じて障害年金のガイドブックなどの資料をお渡しし、行政や専門家へとつなぐ架け橋となることが、リスク管理におけるFPの真の価値であると考えています。

図表■病気やケガによる休業・障害を支える公的給付の概要

制度役割対象支給期間支給額の目安保険料負担
傷病手当金短期給付(短い期間の生活を守る)健康保険加入者(業務外の病気・けが)通算して1年6カ月給与の3分の2労使折半(健康保険料)
障害年金長期給付(障害の状態が続く限り保障)公的年金加入者(要件を満たす場合)状態が続く限り(有期認定の場合は更新あり)障害等級や加入年金(国民・厚生)等により異なる労使折半(厚生年金)または全額自己負担(国民年金)
労災保険(休業補償など)短期・長期給付(手厚い保障)労働者(業務上・通勤途中のけが・病気)状態が続く限り(休業補償から年金への移行あり)給与の約8割(非課税) 全額事業主負担 

出所:井戸美枝氏作成

アコーディオン目次

お話を伺った方

CFP®認定者、社会保険労務士、井戸美枝事務所代表

井戸 美枝 氏

関西大学社会学部卒業。社会保険労務士として独立。講演や執筆、メディア出演などを通じ、年金や社会保障、個人の資産形成について、生活者の視点からわかりやすく解説している。社会保障審議会企業年金部会委員などを歴任し、現在は国民年金基金連合会および日本FP協会の理事も務める。

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