公開:2026.02.17

更新:2026.02.18

【社会保障】知っておきたい、雇用保険の最新情報と育児休業給付(井戸美枝氏)

チャット風吹き出し最終決定版(中央寄せ修正版)

ベテランFPや経済の専門家が、FPに関わるさまざまなテーマやトピックスについて、全6回にわたり解説します。

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井戸美枝氏

「社会保障」の第3回目は、法改正が相次ぐ「雇用保険」、特に「育児休業給付」の最新事情とFPが顧客に行うべきアドバイスについて解説します。

「実質手取り10割」の恩恵は誰でも受けられる?

少子高齢化による人口減少が加速する中、私たちの社会は「共働き」を前提とした構造へと大きく舵を切っています。国も「こども家庭庁」を中心に、出産・育児・介護と就労を両立できる環境整備を国家プロジェクトとして推進しており、雇用保険法の改正もその一環です。 2025年4月から順次施行されている改正育児・介護休業法の中で、最も注目を集めているのが「出生後休業支援給付金」の新設でしょう。これまでの育児休業給付金の給付率は原則67%(休業開始から6カ月間)でしたが、新制度(出生後休業支援給付金)で13%上乗せされ、合計で給付率が80%になりました。これにより、実質休業前の手取りの10割が支給されます。

ここで重要なのが、「実質手取り10割」という言葉のロジックです。育児休業中は社会保険料(健康保険・厚生年金保険料)が免除されます(詳細は後述)。この免除分は給与の約15%に相当します。さらに、雇用保険の給付金は非課税です。つまり、「給付率80% + 社会保険料免除(約15%) + 税負担なし」を合わせると、手取り賃金と比較して実質100%近い金額が受け取れるという計算になります。

図表■出生後休業支援給付金等の支給額のイメージ

出所:厚生労働省「2025年4月から「出生後休業支援給付金」を創設しました」より抜粋

しかし、FPとして顧客に説明する際、手放しで「10割もらえますよ」と伝えるのは早計です。この給付金には、「夫婦ともに14日以上の育児休業を取得すること」という、極めて重要な要件があるからです。

この『夫婦ともに取得』という条件は、共働き世帯を強く意識したものです。ただし、配偶者が自営業やフリーランス、専業主婦(夫)などにより育児休業を取得できない場合は、この育児休業を要件としないケースもあります。

FPとしては、単に『共働きでなければダメ』と即断せず、顧客の配偶者の就業状況を確認したうえで、正確な適用条件をハローワーク等の資料で確認するよう促すのが賢明です。

さらに、対象となる期間も「産後パパ育休(出生時育児休業)」の期間、つまり最大28日間に限定されています。それ以降の育児休業期間については、従来の給付率(67%)に戻ります。ニュース記事などの見出しだけで「育休中はずっと給料が満額出る」と誤解している顧客もいる可能性があるため、まず顧客の世帯状況(配偶者の職業など)を確認し、この制度が適用できるケースなのかどうかを判断する必要があります。

社会保険料免除と「時短給付」の損得

育児休業中の経済的支援において、さらに重要なのが「社会保険料の免除」です。この免除制度は、メリットのみです。

通常、国民年金の「免除」であれば、免除の期間分、老齢年金を受け取る際の年金額は2分の1(全額免除の場合)になりますが、育児休業中の厚生年金保険料免除は異なります。保険料を納めていなくても、将来の年金額計算においては「納付した」とみなされるのです。また、万が一の際の障害年金や遺族年金の保障も継続されます(国民年金の免除期間も、障害年金、遺族年金は保障される)。
この制度は、手取り収入を確保するうえで非常に大きな意味を持ち、安心につながります。

そして今回、職場復帰後の支援として新設されたのが「育児時短就業給付」です。これは、子が2歳未満の期間に時短勤務を選択した場合、時短勤務中に支払われた賃金の10%が支給される制度です。
時短勤務を選べば、当然ながら給与は労働時間に比例して減少してしまいます。「フルタイムで働きたいが、育児との両立でやむを得ず時短にする」という層にとって、10%の補填は収入減少を緩和する一助にはなるでしょう。しかし、冷静に計算すれば、時短による減収分を完全にカバーできるわけではありません。

私が提案したい視点は、「時短勤務だけが正解ではない」ということです。
法改正により、企業には「柔軟な働き方を実現するための措置」が義務付けられました(努力義務含む)。その選択肢には、時短勤務だけでなく「テレワーク(在宅勤務)」も含まれています。
もし、通勤時間がなくなることでフルタイム勤務が可能になるのであれば、給与を減らして10%の給付を受け取るよりも、テレワークを活用してフルタイム給与を維持できれば、経済的メリットは大きい場合もあります。

「育児=時短」という固定観念にとらわれず、顧客の会社の制度にテレワークの選択肢がないか、あるいは交渉の余地がないかを確認するようアドバイスすることも、FPならではの視点でしょう。

また、意外と知られていないのが、制度上の「休暇」と「給与」の関係です。子の看護休暇など、法改正で取得しやすくなった制度は多々ありますが、これらは「休む権利(欠勤扱いにならない権利)」を保障しているだけであり、多くの企業では「無給」です。有給休暇を温存したいからと安易にこれらの休暇を使うと、その月の給与が減ってしまうこともあります。制度を利用する際の「収入への影響」については、しっかりシミュレーションする必要があります。

FPが確認すべきは申請書ではなく「就業規則」

最後に、こうした複雑な制度を前に、FPがどのようなアクションを取るべきかについてお話しします。
雇用保険の給付手続きは非常に煩雑です。申請書にはマイナンバーの記載や事業主の証明が必要であり、基本的には会社(総務・人事担当者)や、会社が契約している社会保険労務士が行う業務です。私たちFPが顧客に代わって申請書を作成することはありませんし、その必要もありません。

FPが注力すべきは、手続きの代行ではなく、顧客が「自分の会社のルール」を正しく把握できているかの確認です。

今回の法改正に伴い、企業は就業規則の改定や、従業員への制度周知を求められています。また、従業員数が300人を超える企業には、育児休業の取得状況を公表する義務も課されました。しかし、現実には企業規模による格差が大きく、中小企業などでは制度の整備や周知が追いついていないケースも散見されます。

顧客に対し、まずは「会社の就業規則を見せてもらう」あるいは「総務担当者に確認してもらう」よう促してください。

「うちの会社にはそんな制度はない」と顧客が思い込んでいても、法律上は利用できる権利がある場合が多いでしょう。また、会社側が制度をよく理解しておらず、本来申請すればもらえるはずの給付金の手続きが漏れてしまうリスクもゼロではありません。FPとしての助言が、顧客のキャリアと収入を守るきっかけになります。制度を知らなければ、仕事と育児の両立に悩み、「辞めるしかない」と離職を選んでしまうかもしれません。それは個人の経済的損失であるだけでなく、社会にとっても大きな損失です。

顧客が会社と対等に話し合い、利用できる権利をフル活用できるよう努めることもFPの役割であると考えています。

次回の【社会保障】分野は、「雇用保険と介護保険の合わせ技」について解説します。
アコーディオン目次
【社会保障】 第1回~第6回はコチラ (井戸美枝氏)
第1回人生100年時代、公的年金を賢く増やすために
第2回公的年金とiDeCoで最強の自分年金を作る
第3回知っておきたい、雇用保険の最新情報と育児休業給付
第4回公開をお楽しみに!
第5回公開をお楽しみに!
第6回公開をお楽しみに!

お話を伺った方

CFP®認定者、社会保険労務士、井戸美枝事務所代表

井戸 美枝 氏

関西大学社会学部卒業。社会保険労務士として独立。講演や執筆、メディア出演などを通じ、年金や社会保障、個人の資産形成について、生活者の視点からわかりやすく解説している。社会保障審議会企業年金部会委員などを歴任し、現在は国民年金基金連合会および日本FP協会の理事も務める。

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