FP・専門家に聞く
2025.09.25
【家計管理】家計見直しは、お金の価値観の再確認から!(前野彩氏)

Share
公開:2025.09.18
ベテランのFPや経済の専門家が、FPに関わるさまざまなテーマやトピックスについて、全6回にわたり解説します。「住まい」パート第4回目は、近年相談が増えている「親の家の二世帯住宅リフォーム」をテーマに、資金計画のポイントと注意点を解説します。
「親の家をリフォームして、二世帯で住みたい」。最近、このようなご相談が増えています。背景には、新築マンション価格の高騰や賃料の上昇といった、子育て世代にとって厳しい経済状況があります。また、「いずれは実家に戻るなら、高い家賃を払い続けるよりも、早めに同居したい」と考える方も増えているのです。共働き世帯にとっては、親に子どもの面倒を見てもらえるという期待も大きな動機でしょう。親世代にとっても、将来の介護への安心感や、経済的負担の軽減といったメリットがあります。一軒の家で二世帯が暮らすことは、光熱費やメンテナンスコストを抑えられる、理に適った選択肢に見えます。
しかし、この選択には大きな落とし穴が潜んでいます。それは、親名義の実家を、子の資金でリフォームする場合に発生する「贈与税」の問題です。リフォーム費用が2,000万円~3,000万円と高額化する中、これを子の資金で支払うと、子から親への高額な贈与とみなされ、多額の贈与税が課される可能性があるのです。親世代はすでにリタイアし、年金収入のみで新たにローンを組むのが難しいケースも少なくありません。「親子リレーローン」という選択肢もありますが、親がリタイアしていると安定収入の要件から借入額が大幅に制限されるなど、活用が難しいのが実情です。結果的に子が資金を負担する構図になりがちですが、税務上のリスクを理解しないまま進めると、後で思わぬ負担に直面しかねません。
贈与税のリスクを回避し、円満にリフォームを進めるにはどうすればよいのでしょうか。具体的な方法として以下の3つが挙げられます。
最も現実的でわかりやすい解決策は、リフォーム前に「建物の名義」を親から子へ変更することです。土地は高額なため名義変更のハードルが高いですが、建物は経年で減価償却が進み、固定資産税評価額がかなり低くなっている場合があります。この評価額ベースで贈与を行えば、リフォーム資金として現金を贈与するよりも、はるかに低い贈与税で済むか、あるいは非課税で名義変更が可能です。こうして「子の所有物となった家を、子がローンを組んでリフォームする」といった形が最もすっきりとした方法と言えるでしょう。
もう1つの選択肢として「相続時精算課税制度」の活用も考えられます。これは親から子への贈与について、累計2,500万円まで非課税で贈与できる制度ですが、制度を利用する際には注意が必要です。この制度で贈与された財産は、将来親が亡くなった際に相続財産に持ち戻して相続税を計算するため、納税を先送りにする効果はあっても、直接的な節税効果は限定的です。名義変更、または制度活用のどちらを使えば有利となるかは、各家庭の資産状況によって全く異なるため、必ず税理士などの専門家に相談し、将来の相続税まで含めたシミュレーションを行うことが不可欠です。
加えて、リフォーム費用そのものを抑える工夫として、国の補助金制度の活用も候補に挙がります。例えば「住宅省エネ2025キャンペーン」には「先進的窓リノベ事業」「給湯省エネ事業」のほか、「子育てエコホーム支援事業」などがあり、断熱窓への改修や高効率給湯器の設置といった省エネリフォームに対して補助金が交付されます。これらの制度は、補助対象となる製品や工事内容が細かく定められており、登録事業者による施工が必須です。補助金申請の手続きも事業者が行うため、まずは依頼先に利用の可否を確認しましょう。公式サイトで登録事業者を検索することも可能です。なお、これらの制度は年度によって変更されたり、予算上限に達して早期に終了してしまうこともあるので、活用を検討する際は、必ず最新の情報を確認しましょう。
税金や補助金といった制度の話以上に、FPとして最も重要だとお伝えしたいのは、家族間の事前の「話し合い」です。特に、同居しない兄弟姉妹がいる場合は、計画の初期段階で必ず全員の同意を得ておく必要があります。親が元気なうちは問題なくても、相続が発生した途端、「同居していた長男だけが有利なのはおかしい」といったトラブルに発展するケースは後を絶ちません。家族間でよく話し合い、リフォームに資金を投じた子が安心して住み続けられるよう、親に「リフォームした家と土地は、同居する子に相続させる」という内容の公正証書遺言を作成してもらうことも、将来の争いを防ぐために極めて有効です。
また、「小規模宅地等の特例」(同居している子などが相続する場合、居住用宅地の評価額を最大80%減額できる制度)を使えば相続税が大幅に軽減されるから、といった損得勘定だけで二世帯住宅を決めると、大きな失敗を招きかねません。実際に、いざ同居を始めたものの、生活スタイルの違いから1年も経たずに「家を出たい」と相談に来られる方もいます。経済的なメリットの前に、まずはお互いがどのような暮らしをしたいのか、将来の介護をどう考えているのか、それぞれのライフプランを突き合わせて十分に話し合うことが、資金計画を成功させるうえでも大前提となります。
リフォームの設計段階では、将来の活用法まで見据えることも必要です。例えば、親の居住スペースが将来空き家となってしまうのは非常にもったいない話です。完全に生活空間を分離できる「完全分離型」にしておけば、将来的に賃貸に出して家賃収入を得るという選択肢も生まれます。これは子の老後資金を支える貴重な資産にもなり得ます。一方で、完全分離型の二世帯住宅は、需要が限定されるため、一般的な住宅に比べて売却しにくい傾向があります。将来の活用法を考える場合の注意点として知っておきましょう。
二世帯住宅での暮らしは、お互いへの「思いやり」がなければ成り立ちません。親は子のためを思う、子は親を大切に思う気持ちがあってこそ、経済的な計画も、その後の生活も円満に進みます。住宅の購入やリフォームはゴールではなく、豊かな暮らしを守り続けるためのスタート地点です。長期的な視点と、家族としての当事者意識を持つことが何よりも大切なのです。
CFP®認定者 相続診断士、住宅ローンアドバイザー、住まいのお金相談室 代表
有田 美津子 氏
大学卒業後、地方銀行にて法人・個人向け融資業務に従事。その後、子育て専業主婦を経て、不動産販売会社、損害保険会社、メガバンクでの住宅ローン相談窓口業務を経験。実務経験と生活体験を活かし、FPとして独立。現在は、住宅購入、住み替え、リフォームの資金計画から実行支援、介護や相続を見据えた世代をまたぐ相談など、住まいのお金に関するコンサルティングを中心に活動。特に、中立の立場から顧客に寄り添ったアドバイスに定評があり、各種セミナー講師や雑誌等への執筆も多数。
あわせて読みたい
この記事の閲覧は
日本FP協会会員限定です。
ログインすると下記の機能が利用できます。
24時間中にアクセスが多かった記事です。
1週間中にアクセスが多かった記事です
先週1週間中にいいね数が多かった記事です
1週間中にコメント数が多かった記事です
FP・専門家に聞く
2025.09.25
【家計管理】家計見直しは、お金の価値観の再確認から!(前野彩氏)
FPトレンドウォッチ
2025.09.19
持ち家?賃貸?ライフスタイル別「住まいの選択」(上)
FPトレンドウォッチ
2025.09.17
サブスクと上手に付き合うためのテクニック(下)
FPトレンドウォッチ
2025.09.19
中国株の推移とAI隆盛時代の分散投資【トレンド+plus】
FPトレンドウォッチ
2025.09.22
「認知」の土台には何があるのか?【トレンド+plus】
FPトレンドウォッチ
2025.09.24
持ち家?賃貸?ライフスタイル別「住まいの選択」(下)
FP・専門家に聞く
2025.09.24
【資産運用】金利上昇傾向の預貯金・債券、運用のポイント(目黒政明氏)