FP・専門家に聞く
2025.11.13
【生命保険】“働けない”は“死”よりも怖い!?関心が高まる就業不能保険(平野敦之氏)
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公開:2025.10.01
更新:2025.11.11
ベテランのFPや経済の専門家が、FPに関わるさまざまなテーマやトピックスについて、全6回にわたり解説します。「リタイアメントプラン」の第5回目は、個人年金保険の年金額を増やす方法や受け取り方について考えます。
老後資金の準備として、保険会社の「個人年金保険」に加入している人も少なくありません。
個人年金保険(以下、個人年金)は60歳頃までに保険料を支払い、老後に年金を受け取る保険です。契約時の予定利率によって有利性が異なり、予定利率が高いほど、貯蓄性が高くなります。いま契約した場合の予定利率は1%程度(保険会社にもよる)ですが、90年代前半の契約では4.75~5.5%などかなり高い水準で、「お宝保険」などと呼ばれています。
相談者が個人年金に加入している場合には、年金額や受取期間などを確認し、リタイアメントプランに反映します。その際に知っておきたいのが、年金額を増やす方法です。あまり知られていませんが、個人年金は受け取り方、そして保険料の支払い方によって、年金額を増やすことができます。
保険会社や商品によって、できる場合、できない場合があるほか、年金額が増えることによる注意点もあります。前半では年金額を増やす方法、後半では注意点や相談者へのアドバイスの仕方について説明します。
年金額を増やす方法の1つは、受取開始時期の繰り下げです。
公的年金の繰り下げ受給は有名ですが、個人年金保険にも受取開始時期を繰り下げることができるケースがあります。たとえば60歳受取開始の契約なら、65歳から受け取るなどとするわけです。繰り下げ期間中も、保険会社が引き続き年金原資を運用しますので、年金額は増えていきます。契約時の予定利率が高く、その予定利率がそのまま継続される場合には、かなり有利に増やすことができます。
たとえば90年代前半に契約した10年確定年金では、受取開始時期を5年繰り下げることにより、年金額が1.2~1.4倍になるケースもあります。年金額100万円が120~140万円に増えるため、かなり魅力的です。
繰り下げが可能か、元の高い予定利率が引き継がれるかは保険会社や商品(約款)によって異なります。年金受取開始時期の繰り下げについて受取開始の数カ月前に案内がくる保険会社、こない保険会社など様々で、繰り下げが可能でも積極的に告知されていない例もあります。
最近は相談者から、「保険会社から、受取開始を繰り下げると年金額が増額になるという案内資料が送られてきたが、どうすればいいか」と質問されることが多々あります。反対に、なにも案内がないと話す方には、「保険会社のコールセンターに電話し、繰り下げが可能かどうか確認するといいですよ」とお伝えしています。案内がなくても、問い合わせると可能であるケースも少なくないからです。
繰り下げできる旨の案内があっても、年金額が増額されることや、どの程度増額されるかまでは記載されていないケースもあります。そのような場合も、コールセンターで詳細を確認するよう促しています。
もう1つの年金額を増やす方法は、保険料の増額です。
保険会社によっては、保険料払込満了の数年前を期限として、保険料の増額ができるケースがあります。50代のAさんは、20代のときに契約した予定利率5.5%のお宝保険を持っていました。「教育費に目途がついたので、老後資金を増やそうと考えた。でも預金してもほとんど金利がつかない。昔契約した個人年金は予定利率が高いので、保険料を増額できないか……」と思いついたといいます。早速、保険会社のコールセンターに問い合わせたAさんですが、明確な回答が得られず。そこで自ら約款を読み返すと、増額が可能であること、契約時の予定利率が引き継げることが記載されていたそうです。
老後資金づくりとしてiDeCoやNISAをはじめたり、積立額を増やしたりするなどの方法を考えがちですが、Aさんのように予定利率の高い個人年金保険を増額するのも有力な選択肢といえます。増額の申し出は払込満了の数年前までを期限としている約款もありますので、50代でお宝保険を持っており、保険料増額に興味がある相談者には、早めに保険会社に確認することをお勧めするとよいでしょう。
保険会社によっては、保険料の増額と、受取開始時期の繰り下げ、両方ができるケースもあります。さながら、個人年金を増やすためのハイブリッド作戦で、大きな効果が期待できます。
年金額が増えるのはいいのですが、注意点もあります。それは、年金額が増えることで税や社会保険料負担などに影響が生じることです。
個人年金を年金受け取りする場合、払込保険料と年金額の差額(収益部分)に対して税金がかかります。「毎年の年金額-その年分の払込保険料相当分」が税法上、雑所得となり、課税される仕組みです。公的年金や企業年金も同時期に受け取ると、それらと合わせて雑所得が増え、税率が高くなることがあります。また、雑所得は総合課税の対象であることも覚えておきたいことです。
たとえば91年に加入した10年確定年金の例を見てみましょう。保険料の払込期間が30~35年、100万円を10年間受け取る契約の場合、年金額の合計は1,000万円なのに対し、払込保険料の総額は半分の500万円程度です。500万円増えていることになりますから、10年間で受け取ると、雑所得は年間50万円(500万円÷10年)となります(終身年金は税の計算方法が異なります)。受取開始時期を5年繰り下げすると、年金額が増えるだけでなく、雑所得も増えます。
とはいえ、収入が公的年金だけなら、個人年金で雑所得が増えても、現役で給与収入を得ていた時期よりも全体の収入は少ないことが多いので、税率が大きくアップすることはなく、税負担はそれほど重くならないと考えられます。
しかし、収入や所得が増える分、国民健康保険と介護保険の保険料負担が重くなりますし、医療費の窓口負担や高額療養費の自己負担限度額、介護保険サービスの自己負担割合が高くなる可能性があります。
公的年金のほか、企業年金やiDeCoを同時に受け取ると、その影響はさらに大きくなります。
では、繰り下げをせずに60歳から受け取りを開始するとどうでしょうか。
60歳で定年を迎え、65歳まで再雇用などで社会保険に加入して働く期間は、社会保険料は給料に対してかかるのみで、個人年金の年金額は社会保険料に影響しません。関係するのは税金だけで、定年前より給料が大幅ダウンしていれば、税負担が大きく増える心配は避けられます。
本来の契約通りに60歳などで受け取りを開始すれば、残念ながら繰り下げにより年金額を増やすことはできません。しかし、額面だけで判断せず、税や社会保険料などへの影響も考慮し、手取りが多くなる受け取り方を考えることが大切です。
また、「60代前半で定年を迎えたあとの収入ダウンの崖が大きすぎて、家計が苦しくなりそう」というケースや、「体力が十分あるうちに旅行などを存分に楽しみたい(お金を使いたい)」といった場合もあります。そうした人は繰り下げをせず、60代前半に受け取るのが適しているとも考えられます。相談者にとっていつ受け取るのがいいかを見極め、その人に合った受け取り方を助言することが求められます。
さらに、65歳以降も社会保険加入で働けば、「繰り下げで年金額を増やしたい。国民健康保険料の影響も抑えたい」という望みを叶えることもできます(介護保険料は自治体からの請求となり、影響を受けます)。
複数の個人年金を持っている場合は、1本を60歳から受け取り、もう1本は繰り下げして、雑所得が増える時期を分散させるなどの方法もあるでしょう。
まれに55歳で受給が開始される個人年金を持っている人もいますが、給与収入が多いと、個人年金の雑所得が加わることで税負担が重くなるケースがあるので、注意が必要です。
せっかくの「お宝保険」。契約内容を確認し、相談者に合った受け取り方を検討することが大切です。
CFP®認定者、株式会社生活設計塾クルー 取締役
深田 晶恵 氏
外資系電機メーカー退職後、1996年にFP資格を取得。FP会社を経て独立。コンサルティングを中心にメディアでの情報発信、講演活動を行う。定年退職前後の生活設計、退職金などの受取方法アドバイス、共働き夫婦の家計管理、シングル向けの生活設計など、得意分野は多岐にわたる。モットーは「すぐに実行できるアドバイスをすること」
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