公開:2025.10.23

【家計管理】教育資金の準備は「3本柱」で!(前野彩氏)

ベテランのFPや経済の専門家が、FPに関わるさまざまなテーマやトピックスについて、全6回にわたり解説します。「家計管理」第5回目は、子どもの教育資金準備の考え方と、具体的な貯め方の秘訣を紹介します。

教育資金はどの時期に、いくらかかる?

赤ちゃんを抱っこしながら教育資金の相談にいらっしゃるご相談者に、「お子さんの進路や学費について、どこまでのお金を準備してあげたいと考えていますか?」と尋ねると、ほとんどの方が「わからない」と回答されます。


育児に追われる中で「教育費の準備をしておかなきゃ」とは考えても、わが子が15年、20年先にどんな進路に進んでいるか、想像できないのも無理はないでしょう。でも、教育資金の準備をするときは「親として、どんな進路を想定して準備するか」を考えておくことが欠かせません。

教育資金は、子どもが生まれたときに必要となる時期や目安額がわかるため、準備しやすい費用といえます。

図表1は、幼稚園~高校、大学進学にかかる費用の目安です。

図表1 学校にかかる教育費と塾や習い事にかかる教育費

【幼稚園~高校編】

幼稚園小学校中学校高校
公立私立公立私立公立私立公立私立
学校教育費(年)8万円19万円12万円111万円19万円114万円35万円77万円
学校外活動費(年)10万円16万円22万円72万円36万円42万円25万円26万円
1年間の合計(年)18万円35万円34万円183万円54万円156万円60万円103万円
1カ月当たり(概数)2万円/月3万円/月3万円/月15万円/月5万円/月13万円/月5万円/月9万円/月

出所:文部科学省「子供の学習費調査(2023年)」を基に前野 彩氏作成
※「学校教育費」:授業料、修学旅行代、給食費、生徒会費、教科書費、クラブ活動代、制服代など
※「学校外活動費」:参考書、問題集、家庭教師代や学習塾代、芸術やスポーツの月謝、交通費など
※各項目の数字は千円単位で四捨五入(四捨五入により、合計に差が発生することがある)

【大学編】

国立大
4年間
公立大
4年間
私立大文系
4年間
私立大理系
4年間
私立大医歯系
6年間
初年度(入学金と授業料等)82万円91万円128万円161万円629万円
次年度以降54万円54万円105万円137万円521万円
在学期間合計243万円252万円443万円573万円3,232万円

出所:文部科学省「私立大学入学者に係る初年度学生納付金平均額(定員1人当たり)の調査(2023年)」
「国公私立大学等の授業料等の推移(2023年)」を基に前野 彩氏作成
※各項目の数字は千円単位で四捨五入(四捨五入により、合計に差が発生することがある)

保育料は世帯収入(市区町村民税の所得割)によって異なりますが、共働き世帯では、月額4万~5万円ほどの家庭が多いように思います。
小学校から高校の費用は、公立・私立によっても大きく変わりますから、毎月の家計の中から払い続けることができるかどうか、また、きょうだいがいる場合は同じ進路を選ぶゆとりがあるかどうかも、検討しておきましょう。

大学費用は、前期と後期の2回に分けてまとめて支払う大学が一般的です。「国立大学の分くらいは用意したい」、あるいは「私立理系学部の進学にも対応できるようにしておきたい」など、「仮」の進学プランを考えておくことが教育資金準備の第一歩になります。
保育園・幼稚園から高校までの学費は毎月の収入でやりくりして、まとまったお金を納める必要がある大学費用を今からコツコツ準備しましょう!

教育資金の準備は「3本柱」で考えよう

教育資金の準備は、想定進路に応じた「3本柱」のコツコツ積み立て(図表2)がおススメです。

  • ①児童手当積み立て
  • ②月1万円の積み立て
  • ③幼保無償化分の積み立て、または、月0.5万円の積み立て

図表2 教育費の積み立ての3本柱

出所:前野彩著『本気で家計を変えたいあなたへ<第6版>』(日経BP 日本経済新聞出版)を基に日本FP協会作成

想定進路が国立大学なら、①児童手当積み立て
①の児童手当の積み立ては、教育資金の土台です。児童手当の支給額は子ども(第1子、第2子)1人につき、0~2歳が月15,000円、3~18歳の年度末までが月1万円です。これをすべて積み立てると、約240万円になります。児童手当を貯めるだけで、国立大学4年間の学費分が用意できますよ。

●私立大学文系を想定するなら、①+②月1万円の積み立て
日本の大学の8割は私立です。私立大学文系コースの資金は、①の児童手当に②月1万円の積み立てをプラスして準備しましょう。誕生時から毎月1万円を積み立てていくと、18歳の大学進学時に約220万円が貯まります。①と②の合計額で約460万円になり、私立大学文系の資金が準備できます。

●私立大学理系なら①+②+③幼保無償化分の積み立て、または、月0.5万円の積み立て
私立大学理系の資金を用意したい場合は、①児童手当と②月1万円に加えて、③の積み立てを追加します。保育料が発生していた人は、幼保無償化分で浮いた費用を積み立てます。仮に、無償化で浮いた保育料分月3万円を3年間積み立てたら、合計約110万円貯まります。または、0~18歳までの18年間、月0.5万円を積み立てても約110万円貯まります。①と②と③の合計額で約570万円を用意でき、私立大学理系分になりますね。

なお、すでに子どもが小学校に通う年齢になっていて大学入学まで18年間ない場合や、すでに貯めたお金があったりする場合は、準備しておきたい目標資金の不足額と18歳までの残り年数を明確にすると、逆算貯蓄で準備ができますよ。

詳しくは、『【家計管理】「使うために貯める」逆算貯蓄のすすめ!』をご覧ください。

すべてを投資商品で準備せず、組み合わせること!

最近はNISAへの注目により、「教育資金は投資で有利に準備したい」と考える人が増えています。ただし、大学進学の時期は決まっていますから、積立期間が短い場合や一括投資をした場合は、値動きの影響を受けやすくなります。そこで私は、教育資金のすべてを投資商品で積み立てるのではなく、「元本が確保される商品」と「投資の積み立て商品」を組み合わせて活用することを提案しています。

教育資金の積み立てには、大きく次の4つの方法があります。

・貯蓄(自動積立定期預金など)
定期預金の自動積み立ては、手軽に始められ、必要なときに引き出すことができ、元本が保証されている点がメリットです。児童手当を貯める場合は、給料の振込口座とは異なる、児童手当専用の振込口座(親名義)を作ると、何もしなくても自動積み立てが完了します。

なお、きょうだいがいる場合でも、「子どもたち全員の教育資金」として、まとめて貯めれば十分です。デメリットは大きく増えないことですが、元本を守りたいときの確実な方法です。

・個人向け国債
個人向け国債は、金利の種類と満期までの期間に応じて「固定3年」、「固定5年」、「変動10年」の3種類があります。普通預金等よりも高い利率で運用されており、元本割れの心配がなく、1年経てば解約できるメリットがあります。

金利上昇時代には「変動10年」が向いているでしょう。デメリットは自動積み立てができないこと。1年分の児童手当をまとめて年に1回購入する方法や、眠ったままのお祝い金の保管先として購入する、といった使い方ができます。

・投資信託(NISAの活用)
投資信託は、投資の専門家が株式や債券などに分散投資して運用する商品です。運用によって増える効果が期待でき、NISA口座を利用した投資なら、運用益が非課税になるメリットもあります。現在、子ども名義の非課税口座はないため、親のNISA口座で積み立てを行います。

NISA口座は一人1つですが、Aの投資信託は教育資金用、Bの投資信託は老後資金用、というように目的別に商品を分けたり、夫のNISAはリフォーム費用、妻のNISAは教育資金、というように担当者を分けたりして積み立てます。元本割れのデメリットを避けるために、数年先に解約する予定のお金は投資信託での運用は避け、長期のコツコツ積み立てで準備をしましょう。

なお、もしお金が必要なときに値下がりしている場合は、ほかに準備してあった預貯金などから先に使い、投資信託がプラスになるのを待ちましょう。そのためにも、元本が守られた商品との2本立て準備が効果的です。

・生命保険(学資保険/低解約返戻金型終身保険)

学資保険は、親が契約者、子どもが被保険者となり、進学時(18歳など)に合わせて進学祝い金や満期保険金を受け取ります。保険料払込期間に契約者が亡くなると、以後の保険料を支払わなくても、満期保険金等が受け取れる点がメリットですが、途中解約は元本割れします。

また、親が貯蓄性の高い終身保険(低解約返戻金型終身保険)に10~15年程度の保険料支払期間で加入し、将来、その解約返戻金を学費にあてるという方法もあります。こちらは希望の時期に解約できる点がメリットですが、支払期間中の解約は元本割れになります。

18歳までの準備期間が長い場合は投資を組み入れ、子どもがすでに中学生になっているなどの準備期間が短い場合は元本が守られている商品で準備するなど、未来の子どもの進路に応じてお金を使えるようにしておきたいものです。

教育ローンはあっても「老後ローン」はない

教育資金準備の秘訣は、教育資金目的の商品や口座を明確にして、コツコツ積み立てを続けること。

計画的な準備が大切ですが、私は皆さんに「無理はしないで」「予算を話し合って」というお話もしています。多くの親御さんは「わが子に十分に教育を受けさせたい」「できるだけのことをしてあげたい」と考えるようです。親心として理解できますが、子どもに教育資金をかけすぎれば、その分、親自身の老後資金が心許なくなります。

教育資金が足りなければ、奨学金や教育ローンがあります。住宅には住宅ローンがありますし、車にはカーローンがあります。しかし、老後ローンはありません。親が老後のくらしに困るようなことがあれば、かえって子どもの負担になりかねません。わが子を思うからこそ、「親としてどこまで教育資金を準備するか?」をよく考え、教育資金と老後資金を両立できるコツコツ積み立て計画を立ててみませんか?

次回の【家計管理】分野は、「iDeCoで教育資金を節約」について解説します。
アコーディオン目次

お話を伺った方

CFP®認定者、株式会社Cras代表

前野 彩 氏

J-FLEC認定アドバイザー、MBTI認定ユーザー。中学校・高校の養護教諭から2001年FPに転身。2008年にFPオフィスwillとして独立、2014年に株式会社Crasを設立。金融商品を扱わない独立系FPとして個人相談を中心に活動。近著『本気で家計を変えたいあなたへ〈第6版〉~書き込む“お金のワークブック”~』(日経BP日本経済新聞出版)をはじめ、著書は全21冊。

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