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2025.10.09
【生命保険】生命保険料控除の基本と2026年改正のポイント(平野敦之氏)

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公開:2025.08.21
更新:2025.10.10
ベテランのFPや経済の専門家が、FPに関わるさまざまなテーマやトピックスについて、全6回にわたり解説します。「住まい」パート第3回目は、多くの人が直面しうる「高経年マンション」の問題について解説します。
国土交通省の調査によれば、築40年以上のマンションは2023年末時点で約137万戸、その10年後には約2倍の約274万戸、20年後には約3.4倍の約464万戸へ増加する見込みです。この背景にあるのが、1980年代の住宅ブームで数多く建設されたマンションです。これらは築40年を超える「高経年マンション」となり、大きな転換期を迎えています。一部の物件だけの話ではなく、日本の多くのマンションが直面する社会的な課題です。単に建物が古くなるというだけでなく、「建物の老朽化」「居住者の高齢化」「修繕積立金の不足」という3つのリスクが複雑に絡み合い、資産価値や生活そのものを脅かす深刻な事態につながりかねません。
まず「建物の老朽化」で最も懸念されるのが、防水機能の劣化です。屋上だけでなく、外壁のひび割れなどから水が浸入すると、鉄筋が錆びて腐食します。これは建物の骨格に直接影響し、耐久性を著しく低下させる原因となります。また、給排水管の劣化による水漏れは、ある日突然リビングが水浸しになるといった大惨事を引き起こす可能性もはらんでいます。
次に「居住者の高齢化」です。マンションの経年と共に、そこに住む人々も年を重ねます。現役時代は問題なく支払えた修繕費用も、年金生活に入ると大きな負担となります。「自分が80歳になったら、大規模修繕に何十万円も出すのはもうしんどい……」そんな声がちらほら聞かれるようになっており、大規模修繕の合意形成は極めて困難になります。
そして、これら2つの問題が3つ目の「修繕積立金の不足」に直結します。計画当初の想定を上回る建築費の高騰や、住民の合意が得られず積立金の値上げができない状況が、必要な修繕を不可能にします。資金が枯渇すれば、管理は行き届かなくなり、空室が増え、治安が悪化するという負のスパイラルに陥ります。最悪の場合、行政代執行による解体となり、所有者に1,000万円以上の費用負担が命じられたケースも存在します。マイホームが、一転して「負の資産」と化してしまうのです。
では、高経年マンションに未来はないのでしょうか? 決してそんなことはありません。適切な管理と計画的な修繕を続けることで、100年後も快適に住み続けられる「長寿マンション」を目指すことは可能です。その鍵は、機能不全に陥りがちな管理組合をいかに活性化させるかにかかっています。
国もマンションの長寿命化を後押ししており、ガイドラインでは12〜15年ごとの大規模修繕、特に防水工事の重要性を説いています。しかし、管理を管理会社に任せきりにしていると、修繕費用や修繕計画が適正かどうかの判断すらできません。そこで有効なのが、マンション管理士といった第三者の専門家をコンサルタントとして迎え入れ、管理状況を客観的に評価してもらうことです。専門家の視点が入ることで、問題点が可視化され、組合の機能が適正化されるきっかけになります。
資金計画を具体化する第一歩として、独立行政法人住宅金融支援機構(以下、住宅金融支援機構)が提供する「『マンションライフサイクルシミュレーション』~長期修繕ナビ~」の活用が考えられます。これは、建物の状況や積立金の現状などを入力することで、将来にわたって必要となる修繕費用を試算できるツールです。2020年に提供が開始された比較的新しいものですが、住宅金融支援機構のリフォーム融資データに基づいた客観的なコストが算出されるため、長期修繕計画の妥当性を自分たちで検証するきっかけになります。FP自身が直接シミュレーションを行うことは少ないかもしれませんが、こうしたツールの存在を顧客に伝え、まずは管理組合で試してみるようアドバイスすることは、所有者の問題意識を高めるうえで非常に有効でしょう。
資金計画の面では、住宅金融支援機構が提供する「マンションすまい・る債」(以下、「すまい・る債」)の活用なども有効な選択肢です。「すまい・る債」は管理組合向けの積立商品で、現在の定期預金などと比べて金利が高く設定されており、効率的な資金形成が期待できます。さらに、この「すまい・る債」を利用していると、万が一資金が不足した際に利用できる「マンション共用部分リフォーム融資」で金利や保証料の優遇が受けられるという大きなメリットもあります。こういった制度や各金融機関から提供されている管理組合向けの様々な商品の活用についても比較検討し、専門家と相談しながら進めていくことが安定した資金計画の一歩となるでしょう。
管理や修繕が困難になった場合の最終的な出口戦略として、「建て替え」や「敷地売却」があります。しかし、どちらも区分所有者の5分の4以上という極めて高いハードルの合意形成が必要です。現役世代が建て替えを望んでも、高齢者は現状維持を望むかもしれません。この合意形成の難しさが、多くの高経年マンションを身動きの取れない状況に追い込んできました。近年、所在不明の所有者を決議から除外できる法改正が行われ、状況は少しずつ動き出そうとしていますが、依然として困難な道であることに変わりはありません。
そこで最も重要なのは、問題が深刻化する前に、所有者一人ひとりが「今」できることに取り組む意識です。その第一歩は、他人任せにせず、管理組合の活動に積極的に関心を持つことです。まずは総会に出席し、長期修繕計画に目を通し、自分の住まいの現状を正確に把握することから始めましょう。
加えて、将来必ず訪れる修繕積立金の値上げを、他人事と捉えないことです。新築時に数千円だった積立金が、30年後には5倍以上になるといったケースもあります。FPとしては、そのような事態に備えて、顧客の住宅ローンの返済計画だけでなく、ライフプランニングを通じて数十年先を見据えた管理費・修繕積立金の上昇シミュレーションを提示し、「気づき」を促すことが不可欠です。特に、返済期間が40年、50年にも及ぶ超長期ローンを組むという若い世代には、本当に年金生活の中で高額なローンと維持費を払い続けられるのか、具体的な数字を示すことが求められます。
マンションの購入は、ゴールではなくスタートです。その価値を維持し、豊かな暮らしを守り続けるためには、長期的な視点での資金計画と、所有者としての当事者意識が何よりも大切なのです。
CFP®認定者 相続診断士、住宅ローンアドバイザー、住まいのお金相談室 代表
有田 美津子 氏
大学卒業後、地方銀行にて法人・個人向け融資業務に従事。その後、子育て専業主婦を経て、不動産販売会社、損害保険会社、メガバンクでの住宅ローン相談窓口業務を経験。実務経験と生活体験を活かし、FPとして独立。現在は、住宅購入、住み替え、リフォームの資金計画から実行支援、介護や相続を見据えた世代をまたぐ相談など、住まいのお金に関するコンサルティングを中心に活動。特に、中立の立場から顧客に寄り添ったアドバイスに定評があり、各種セミナー講師や雑誌等への執筆も多数。
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