公開:2025.07.01

更新:2025.06.30

【住まい】住宅ローンの金利上昇にどう備える?(有田美津子氏)

ベテランのFPや経済の専門家が、FPに関わるさまざまなテーマやトピックスについて、全6回にわたり解説します。「住まい」第1回は、金利上昇と住宅ローンの返済について解説します。

変動金利型住宅ローンの仕組みと知っておくべき注意点

変動金利型住宅ローンの金利は、一般的に銀行の短期プライムレートに連動し、年に2回(4月、10月)見直されるのが通例です。見直し後の金利が実際の返済額に反映されるまでには、通常数カ月程度のタイムラグが生じます。そして、月々の返済額の変動に影響するのが「5年ルール」と「125%ルール」です。

■5年ルール
金利が変動しても、5年間は毎月の返済額が維持されるルール。金利上昇時、返済額に占める利息の割合が増加し、元金返済が遅れる可能性があるとされる。また、5年経過後の返済額見直し時に、返済額が急増することがある。

■125%ルール
5年ごとに返済額が見直される際、見直し後の返済額は直前の返済額の1.25倍を上限とするルール。大幅な金利上昇で返済額が1.25倍を超えると、未返済分は次の5年間に後ろ倒しになるため、ローン返済の終盤に返済額が増大することがある。

注意点として、これらのルールはすべての金融機関で一律に適用されるわけではありません。ご契約前には必ず、金融機関が提供する商品説明書等にて、金利の決定方式、返済額の見直し規定等を確認することが不可欠です。

金利上昇の影響と備える方法

金利が上昇した場合、家計にはどのような影響が考えられるでしょうか。「5年ルール」の適用期間中は、金利が上昇してもただちに毎月の返済額が増加するわけではありません。しかし、適用期間においても、返済額に含まれる利息負担は増加しているため、元金の減少ペースは鈍化します。結果として、5年後の返済額見直し時に、想定以上の返済額増加に直面する可能性があります。

また「125%ルール」が適用される場合は、金利が大幅に上昇すると、引き上げられた返済額(上限125%)でも毎月の利息をすべてカバーしきれないことがあります。その結果、「未払い利息」が発生し、元金が減らないどころか、実質的な借入残高が増えてしまうといった深刻な事態に陥るケースもあり得ます。

変動金利型ローンを利用する際は、現行金利のみならず、将来的な金利上昇(例:1%、2%上昇した場合など)を想定した返済シミュレーションを行い、家計の許容度を把握しておくことが必要になります。特に、教育費の増加期や収入減少期と金利上昇が重なった場合、家計への影響はより深刻化する可能性があります。そこで、予測できる将来のライフイベントと、そのライフイベントにいくらかかるかを考慮した、余裕のある資金計画が求められます。具体的にどのように備えておくべきか、新規借り入れを検討中の方と、既に返済中の方に分けた対策を解説します。

新規借り入れを検討中の方

    1. ローン申込時金利の過信は禁物

    金利が確定する物件引渡(融資実行時)までの金利上昇も考慮し、申込時より高めの金利(例:+0.2~0.3%)からスタートする試算を行う。

    • 諸費用・団信を考慮する

    疾病保障付団体信用生命保険の金利を上乗せした返済額や、諸費用分も加味した総支払額を把握する。フラット35の場合は新機構団信の特約料を試算しておく。

    • 無理のない借入額とする

    金利が2~3%上昇しても対応可能な範囲での借り入れとする。

既に返済中の方

    1. 家計収支の正確な把握

    現状の収入・支出を明確化する。

    • 金利上昇シミュレーション

    金利上昇時の返済額増加を試算し、差額分の積立等を検討する。

    • 繰り上げ返済の検討

    手元資金に余裕がある場合、有効な手段となり得る。ただし、教育資金や老後資金等のライフイベント資金を確保したうえで、無理のない範囲で行うことが重要。住宅ローンの早期返済が目的ではなく、家計全体のバランスを考慮した計画的な実行が求められる。

    • 固定金利への借り換え検討

    変動金利上昇局面では固定金利が先行して上昇している場合が多く、借換手数料も考慮すると、必ずしも有利とは限らない。ライフステージや老後を視野に入れて、慎重に判断する必要がある。

    繰り上げ返済に関しては、無理に全額返済することは要注意です。先日も10年目の完済を目指して頑張ってこられたお客様から、奥様がご病気をされて収入が減ってしまい、手元に完済する分のお金はあるものの、それを使ってしまうと貯蓄がなくなるというご相談がありました。そこで、無理をせずに繰り上げ返済は全体の3分の2にとどめ、手元資金を残して、生活費や万一に備えるようご提案しました。住宅ローンは早期返済を競うものではありません。まずは生活の安定を最優先に考え、ライフイベントも見越した柔軟な返済計画を心がけましょう

    固定型への借り換えが本当に有効かどうかは、一概には判断できません。変動金利が上昇している局面では、一般的に固定金利の方が先に上昇しているため、有利な条件での借り換えは難しいことが多くなります。また、新規借り入れ時に利用できるような金利の優遇策(フラット35の子育てプラスなど)が、借り換えでは利用できない場合があり、結果として固定金利の金利水準が高くなることがあります。会社の利子補給制度などを利用して、全期間固定でも低い金利(例:1%)で借り換えられるケースや、子どもの教育費の目処がついてから、10年固定などで金利が低いものがあれば検討の余地があります。

変動金利型ローンを利用する際の対応例

金利上昇局面において、家計の安定を維持するためには、日頃からの適切な資金管理が不可欠です。まず、ご自身の家計状況を客観的に把握し、将来のライフイベントと必要資金を盛り込んだキャッシュフロー表を作成することをお勧めします。これにより、金利変動が家計に与える影響を具体的に考えることができ、事前に対策を講じることが可能になります。

また、住宅ローンのような長く付き合っていく金融商品の申し込みには、金融機関や不動産業者からの情報に加え、中立的な立場にあるファイナンシャル・プランナー等の専門家に相談することも有効です。個々の状況に応じた多角的なアドバイスや、最適なプランの比較検討が期待できます。

日々の資金管理においては、例えば住宅ローン返済専用口座を設け、毎月の返済額に加えて一定額を積み増しして入金し、将来の金利上昇や繰り上げ返済に備えるといった工夫も有効です。また、貯蓄を目的別に区分管理することも、計画的な資産形成につながります。
金利の先行きを正確に予測することは困難ですが、変動金利の仕組みを正しく理解し、ご自身のライフプランに基づいた準備を行うことで、リスクに対し適切に対応することは可能です。上手に住宅ローンを利用して余裕のある生活をお送りください。

次回の【住まい】分野は、「35年超の住宅ローンはアリか?」について解説します。

お話を伺った方

CFP®認定者 相続診断士、住宅ローンアドバイザー、住まいのお金相談室 代表

有田 美津子 氏

大学卒業後、地方銀行にて法人・個人向け融資業務に従事。その後、子育て専業主婦を経て、不動産販売会社、損害保険会社、メガバンクでの住宅ローン相談窓口業務を経験。実務経験と生活体験を活かし、FPとして独立。現在は、住宅購入、住み替え、リフォームの資金計画から実行支援、介護や相続を見据えた世代をまたぐ相談など、住まいのお金に関するコンサルティングを中心に活動。特に、中立の立場から顧客に寄り添ったアドバイスに定評があり、各種セミナー講師や雑誌等への執筆も多数。

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