公開:2025.12.17

年末年始におすすめの1冊 ~歴史から現代社会の組織を見つめなおす~【トレンド+plus】

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読書は、知性を高める最強の武器です。筆者は大学の指導教官から「毎月本を5,000ページ読まないと学生と認めない」と叱咤されました。以来、この言葉に挑戦していますが、一度たりとも達成できていません。一般的な新書が約200ページですから、5,000ページを達成するには月に25冊読了する必要があり、そのハードルはなかなかのものです。

5,000ページには届かずとも、本を読むことで知見が広がり、それは自分の糧になります。

では、どんな本を読めばよいのでしょうか。 もしも時間があるのならば、名著と呼ばれる書籍はことごとく読んだ方がよいと思いますが、なかなか時間が取れない方も多いと思います。そこで、今回は筆者のおすすめの本を1冊だけご紹介します。

歴史を紐解き仕事に活かす1冊

今回取り上げるのは、『失敗の本質-日本軍の組織論的研究-』(野中郁次郎ほか、中公文庫)です。著者の一人である野中郁次郎氏は、2025年1月に89歳で亡くなりました。野中氏の経営学者の立場などから、太平洋戦争で日本が敗北した教訓を読み説いたのが本書です。

本書の一部で、日本軍はミッドウェー海戦でなぜ敗北したのか?が分析されています。当該章の分析では、「日本軍が送り出した偵察機が敵空母部隊を発見するのが遅れて、たまたま運が悪かった」という説明を批判します。著者は、歴史に「もしも、あのときに…だったならば」という仮定法過去は許されないと断じます。

錯誤(ミス)は作戦途上で随時起こりますから、事前に腹案(コンティンジェンシー・プラン)を練っておき、作戦達成のための軌道修正ができる組織運営でなくてはいけないと主張します。運の良し悪しは常に起こるので、日本軍の作戦に運に左右されない計画立案ができていなかったことを指摘しています。

また、日本軍では、ミッドウェーを攻略する作戦の意図が全司令官に共有できておらず、空母部隊は敵基地の滑走路を攻撃しようと準備していたところを米艦載機に狙われたと論じています。滑走路を爆撃するなど、不必要な作業をしていたがために、虎の子である日本空母部隊を壊滅させられたという分析です。

連合艦隊司令長官の山本五十六氏は、狙いは米空母部隊の撃滅であると優先課題を持っていたのですが、その作戦意図は各部隊の司令官に周知徹底されていなかったようです。
これに対して、米司令官のスプルーアンス氏は、部下に「(日本の)空母以外は攻撃しなくてよい」と通達し、山本長官と同じことを狙っていました。最優先課題を全軍に周知させていたことが勝敗を分けたと言えます。

ここまで本書の一部のみをご紹介しましたが、この話は、現代の日本企業にも通じるところがあるのではないでしょうか。例えば、経営層が理念を持って経営方針を示していても、中間管理職や現場が優先していることは食い違っている…のようなケースです。

組織の理念や目的は何なのか、それが全体に共有できていない組織は、どこかで綻びが生じるでしょう。 「賢者は歴史に学ぶ」という言葉もあるように、自分たちの組織に欠けているものはないか、本書で分析される歴史をとおして、見つめなおしてみるのはいかがでしょうか。

記事の内容は、取材先や執筆者等の見解を示したものであり、日本FP協会の意見・方針等を示すものではありません。

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