公開:2025.09.02

【リタイアメントプラン】定年後の健康保険を徹底比較!医療費負担はどうなる?(深田晶恵氏)

ベテランのFPや経済の専門家が、FPに関わるさまざまなテーマやトピックスについて、全6回にわたり解説します。「リタイアメントプラン」の第4回目は、定年退職後の健康保険の選び方や保険料の決まり方、そして年齢による高額療養費制度の違いについて解説します。

会社員として働かない場合の健康保険3つの選択肢

会社員は健康保険料を給与天引きで支払っています。では、定年退職するとどうなるでしょうか。

定年退職後も再雇用で働く、また転職して別の会社で会社員として働く場合は、それまでと同じように勤務先の健康保険に加入することになります。保険料は給与収入の額によって決まり、もしも年金を受け取りながら働いたとしても年金収入が保険料に影響することはありません。

しかし定年退職後、完全リタイアする(働かない)場合や、フリーランスや自営業者として働く場合には、3つの選択肢からいずれかを選ぶ必要があります。

1. 退職前に加入していた健康保険を任意継続する(最長2年)

2. 居住する自治体の国民健康保険に加入する

3. 家族の健康保険の被扶養者となる

どれを選ぶかによって、支払う保険料の額も、給付の内容も異なります。

任意継続と国民健康保険はどちらがいいか

健康保険の保険料は労使折半ですが、任意継続被保険者では保険料は全額本人負担です。保険料は、退職時の標準報酬月額と、健康保険被保険者全体の平均の標準報酬月額のいずれかに基づき、計算されます。原則はいずれか低いほうが基準となりますが、規約により、高いほうを基準とすることも可能となっています。また全国健康保険協会(協会けんぽ)の場合、平均標準報酬月額の上限を32万円(2025年度)として計算します。

一方、国民健康保険(以下、国保)の保険料は個人ではなく、世帯に対してかかり、本人や配偶者の前年の所得、世帯人数などに応じて決まります。計算方法は自治体によって異なります。

一例として、60歳でリタイア、退職前年の59歳時の給与収入が800万円、東京都江戸川区在住のケースで試算してみました(以下、介護保険料を含まず、2025年度の健康保険料の比較)。

協会けんぽ加入で任意継続すると、保険料は月額で約3万1,000円です。対して国保に加入すると、世帯人数2人(配偶者の所得はなし)の場合、保険料は月額約6万6,000円です。協会けんぽでは任意継続の保険料が平均標準報酬月額32万円を上限としますが、国民健康保険では前年の高い所得がそのまま反映されるため、年間では約42万円も保険料が多くなります。

なお、定年退職後に再雇用で働くと、ほとんどの場合、給与収入は減ります。国保は前年の所得によって保険料が決まるため、定年後2年目には国保のほうが任意継続より保険料は安くなるケースもあります。その場合、任意継続を途中でやめて国保に切り替える選択肢もあるでしょう。

家族の被扶養者になれば保険料負担はゼロ

家族の健康保険の被扶養者になるというのは、配偶者などが加入している健康保険の扶養に入ることです。保険料はゼロですからメリットは大きいといえます。

被扶養者になるには、60歳未満では年収130万円未満であることが要件ですが、60歳以上の被保険者では年収180万円未満までが対象となります(ほかにも被保険者の年収の1/2未満であるなどの条件がある)。夫が妻の扶養に入るというケースは、あまり馴染みがない方も多いため、FPが選択肢の1つとして説明したいところです。

65歳でリタイアした場合の保険料は?

60歳から再雇用で働き、65歳でリタイアした場合の保険料はどうでしょうか。

リタイア後は再雇用で働いていた時に加入していた健康保険の任意継続被保険者になることができます。再雇用時の給与収入を350万円(ボーナスあり、標準報酬月額は26万円)とすると、任意継続する場合の保険料は月額約2万5,200円です。

対して国保の保険料は、月額約3万円です。再雇用の年収が定年前より少ないため、60歳の定年退職直後より保険料は安くなります。

上記は協会けんぽの例で、健康保険組合加入の場合は独自に任意継続の保険料を計算していることなどから、任意継続と国保でどちらの負担が少なくなるかはケースバイケースです。そのため、それぞれのケースごとに保険料を比較する必要があります。

任意継続については、退職前、勤務先に「任意継続した場合の保険料」を確認します。国保については居住する自治体の国民健康保険の部署に電話で問い合わせれば計算してくれますし、自治体によってはホームページに保険料シミュレーターがあります。

健康保険には高額療養費の付加給付があることも

リタイアメントプランを考えるうえでは医療費負担も気になります。

医療費の自己負担割合や高額療養費制度は国保、健康保険とも同じです。69歳までの高額療養費の1カ月の医療費の自己負担限度額は9万円前後(一般所得者ウ)、収入が下がってからでは6万円弱(一般所得者エ)となります。

ただし、健康保険組合や共済組合では、自己負担がさらに軽減される「付加給付」を設けている場合があります。健康保険組合の付加給付では1カ月の自己負担上限を2~3万円としているところも少なくありません。公務員が加入する共済組合では一般所得者の自己負担限度額は2万5,000円、私学共済組合も共済組合に準じた上限金額としています。任意継続すると原則として付加給付も受けられます。

付加給付があることを知らない方がほとんどなので、コンサルティングの際には相談者と一緒に健康保険組合のホームページで付加給付の有無や内容を確認するようにしています。

あまり多くはありませんが、加入している健康保険組合に「特例退職被保険者制度」があるかどうかも確認したいところです。任意継続は最長2年ですが、同制度では74歳まで健康保険組合に加入できます。定年退職して公的年金を受けている人が後期高齢者医療保険に加入するまでの間、在職中の被保険者と同程度の保険給付等を受けられます。高額な医療費がかかり、治療期間が長くなる場合は74歳まで付加給付が受けられるメリットが大きいといえます。病気にならない場合は付加給付のメリットは受けられないので、どちらがいいとは言い切れませんが、選択肢の1つとしておさえておくとよさそうです。

高額療養費は70歳を境に大きく変わる

高額療養費は69歳まで(70歳未満)と70歳以上で仕組みが異なります。一般的な所得なら、70歳になると69歳までより限度額が低くなります。

70歳未満で一般的な所得の人なら、1カ月の自己負担限度額は9万円前後(一般所得者ウ)です。食事代の自己負担額や雑費を含めても入院にかかるお金は1ヵ月10万円前後が目安となります。健康保険組合や共済組合によっては付加給付によってさらに負担が軽減されることもあります。

70歳以上で制度の内容が大きく変わるのは、一般所得者と住民税非課税世帯では外来と入院時の限度額がそれぞれで設定されていることです。公的年金だけなら一般所得に該当する人が最も多いですが、一般所得では、外来での自己負担限度額は個人ごとに1万8,000円(年間上限14万4,000円)と、70歳未満と比べてかなり低くなります。また、70歳未満では各医療機関の窓口負担額が2万1,000円を超えないと合算できませんが、70歳以上では、金額に関わらず複数の医療機関の外来医療費を合算できます。

入院時はその月の外来分と合算し、さらに家族の医療費も合算され、世帯で5万7,600円(4回目以降4万4,400円)が限度額となります。70歳以上で同じ国民健康保険に加入している家族の医療費も合算できるのです。

合算後の高額療養費が限度額を超過した場合には高額療養費の申請が必要ですが、自身で確認するのは容易ではありません。合算は原則、自治体がしていますが、超過した場合に通知をしているか、していないかは、自治体によって異なります。還付を受けるための申請の方法なども自治体により違いがあります。お住まいの自治体では通知をしてくれるか、どのように申請するのかを確認しておくといいでしょう

一般の方では、「年金にも社会保険料がかかるんですか?」「そんなにかかるの?」と驚かれる方も少なくありません。いくつになっても税金や社会保険料はかかりますし、年金など収入が多いと金額もかさみ、医療費の自己負担額上限にも影響します。年金や退職金の受け取り方を考えるうえでも、社会保険料負担や医療費負担について知っておくことが大切です。

次回の【リタイアメントプラン】分野は、「民間の個人年金も繰下げできる!繰下げが向く人、向かない人」について解説します。
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お話を伺った方

CFP®認定者、株式会社生活設計塾クルー 取締役

深田 晶恵 氏

外資系電機メーカー退職後、1996年にFP資格を取得。FP会社を経て独立。コンサルティングを中心にメディアでの情報発信、講演活動を行う。定年退職前後の生活設計、退職金などの受取方法アドバイス、共働き夫婦の家計管理、シングル向けの生活設計など、得意分野は多岐にわたる。モットーは「すぐに実行できるアドバイスをすること」

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