公開:2026.03.04

更新:2026.03.05

【ジャーナリスト/池上彰さん】 若い世代に伝えたい 人生を豊かにする「お金との向き合い方」(前編)

さまざまなフィールドで活躍する方々に、自身を成長させてくれた学びや人生における挑戦、夢や目標の実現について語っていただく本企画。今回は、ジャーナリストの池上彰さんのインタビューを前後編でお届けします。前編では、お金との向き合い方や金融・経済について、子どもたちや若い世代に向けてどのように伝えていけばいいのか、教えてもらいました。

人生に必要なものは「勇気と想像力と少しのお金」

——「もっとお金持ちになりたい」。子どもだけでなく大人も一度は持つシンプルな願望です。池上さんは「お金と幸福感」の関係について、どのように捉えていらっしゃいますか。


例えば私たちが買い物するときは、必ず値段をチェックして、「予算オーバーだな、どうしようか」と悩んだり、「ちょっと高いけど頑張って買おう」と決心したり、様々な心の動きがありますよね。一方で、成功して富裕層の仲間入りを果たした人が「自分がお金持ちになった」と実感するのは、値札を見ずに欲しいものを買えるようになったときだそうです。

「うらやましいな」と思う半面、実はそうした日々の消費に対する「葛藤」がまったくなくなってしまうと、人生の面白みが薄れてしまうこともあります。大金持ちになりすべてを手に入れたように見える人が、人生に空虚さを感じている……というのも、よくある話ですよね。「人生に必要な3つのものは、勇気と想像力と少しのお金」というチャップリンの有名な言葉がありますが、まさにそのとおり。自分が幸せに生きるためにちょうど良い塩梅のお金はどれくらいなのか、若いころからイメージしておくことが大切だと感じます。

「年収分の貯蓄を」とアドバイスされた新人記者時代

——必要な“少しのお金”の額は人それぞれだと思いますが、池上さんはどうだったのでしょう。20〜30代のころはどのようなスタンスでお金と付き合っていましたか。

私がNHKに入局し、最初に配属された放送局で記者として仕事を始めたころ、デスク(取材チームの記事や記者を統括する責任者のこと)から「給料をもらったら、一年間の収入分を貯めておくように」と言われたんです。何があっても「一年分の収入」が手元にあれば安心だから、最低限のお金を自分で確保しておきなさい、という上司からのアドバイスだったんですね。

ところが、新人のうちはそんなに給料も高くないでしょう。年収分の預金なんてそんなにすぐには貯まりません。手取り月収の2割をコツコツ貯蓄しても、5年ほどかかります。新人時代を振り返ると、年収分の預金が私にとっての「少しのお金」であり、これは新社会人となる今の若者たちにも当てはまる一つの目安ではないでしょうか。

まずは、目の前の仕事に一生懸命取り組んで「稼ぐ基盤」をつくること、そして浪費に気を付け、自己投資などにもお金を使うこと万が一の備えとして年収分のお金」を貯めておくこと。どんな世代にも共通することですが、若いころは特にこの3つを心がけることが大事だと思っています。

——ある程度、貯蓄が貯まったり、昇給して余裕資金ができたりすると「投資にチャレンジしたい」と考える人も多いです。


投資初心者に注意してほしいのは、「値動きに振り回されない」ことです。株式投資を始めたら、株の値動きが気になってしまい、勤務中にこっそり株価を見るためにトイレにこもって本業の仕事がおろそかになる……となっては、本末転倒です。

「資産のどれくらいを投資に回せばいいですか」と聞かれることもありますが、リスク許容度は人それぞれ。専業の投資家ではない限り、「日々の値動きを気にしないでいられる金額」がその人にとって投資に回してもいい額なのではないかと思います。

働いてお金を稼ぐことは社会に価値を生み出すこと

——小さなうちから、家庭でもお金との付き合い方を教えていくことが重要なのではないかと思います。子どもたちには、お金についてどのようなことから伝えていけばいいでしょう。

「社会に出て仕事をするようになると、お給料がもらえるようになる。そのお金はどこから出ているんだと思う?」と、考えてもらうところから始めてみてはどうでしょう。例えば企業であれば、ニーズに合わせた様々な商品やサービスをつくり出すと、それを求めてお金を払ってくれる消費者がいる。飲食店であれば、美味しい食事を提供するとお客さんが喜んでくれる。地方公務員であれば、地域の人たちのためにいろいろな仕事をすることで、市民から税金を納めてもらえるわけです。

「働いてお金を得る」ということは、社会や消費者のために価値あるモノやサービスをつくり出すことであり、「その対価としてもらっているのがお金なんだよ」というところから、話してみるといいかもしれません。お金は大事だけれども、働くことのゴールは「お金を稼ぐため」だけにとどまらない。働くということは自らが社会に価値を生み出すことなのだと。そこから自分が将来就きたい職業についても、考えるきっかけになるといいですよね。

スーパーでの買い物からも日本経済が見えてくる

——生活に密着した身近な事柄からも、経済や世の中の仕組みについて教えられるということですね。

親子で一緒にスーパーに行って、売っているものの値段をチェックするだけでもいいんです。物価から今の日本経済の状況が見えてくる。デフレ下で成長した今の子育て世代はピンと来ないかもしれませんが、私がNHKに入局した1973年ごろは第一次オイルショックをきっかけに「狂乱物価」と言われるほど物価が高騰しました。消費者物価指数は前年比の23.2%まで急伸し、国民生活に打撃を与えましたが、一方で給与も毎年上昇していました。今でも覚えていますが、入局当時の基本給は6万8,000円だったんです。翌年は8万円まで基本給が上がっていました。

当時は社会全体に「モノの値段は上がるけれども、給与も上がる」という希望がありました。ローンも組みやすかったので、入局してすぐ中古の軽自動車をローンで買いましたよ。26万円と私にとっては大きな買い物でしたが、毎年のように賃上げが実施されていたので「ローンが返せなくなるかも」という不安はあまりありませんでした。物価は上がるけれども、給与も同様に上がることを前提にして生活設計ができていたからです。預貯金の金利も高度経済成長期からバブル経済の時代にかけては年5〜6%、郵便局の定額貯金にいたっては、年8%もあった時代です。10年お金を預けると元本の倍以上になっていました。

「物心ついたころからデフレだった」世代からすると想像できない世界でしょう? 私たちは「失われた30年」を経て、デフレからインフレへ、そしてゼロ金利から「金利のある世界」へと、今また時代の転換点に立っています。ですから、子どもたちに教える立場の大人たちこそ、「世の中のフェーズ(局面)が変わりつつある」ことを自覚して、知識をアップデートしなければいけない。今までは正しいとされてきたお金に関する常識やセオリーが通用しなくなるのですから。

賢い消費や投資が世の中を変える

——2022年からは高校家庭科での金融経済教育も必修となり、若年層のマネーリテラシーの底上げが課題となっています。

成年年齢が18歳に引き下げられ、選挙権のみならず、クレジットカードの利用やローン契約なども、親の同意なく本人の意思だけでできるようになりました。金融や消費に関わるトラブルも容易に予想されるため、これまではそれぞれの家庭に任されていたお金の教育を、早いうちから学校で行っていくことは良い取り組みだと思います。

「資産形成などの話をなぜ家庭科で?」と思う人もいるかもしれませんが、「家庭科」を英語にすると“Home Economics”。料理や裁縫などと同じく、ライフプランニングや家計のやりくり、資産形成といったテーマももちろん、「家庭をどう経営するか」ということに直結するわけです。

——教育の場や地域などで、小学生や中高生への金融経済教育に取り組むFPも増えています。金融や経済について子どもたちにどのように伝えれば、より興味を持ってもらえるのか、アドバイスがあれば教えてください。

「世の中のお金の流れ」は人間の体で言うと「血流」です。血液がスムーズに流れているときは健康体でいられますが、どこかが詰まって流れが滞ると病気になる。あるいは、勢いよく流れすぎるのも体に良くありません。このたとえで言うと、日本の中央銀行である日本銀行が、私たちの「心臓」部分にあたります。日銀が金利を引き上げたり、引き下げたりとコントロールすることで、お金がスムーズに流れていくようにしているわけです。

貯蓄は大事なことだけれども、ひたすら皆がお金を貯め込むだけでは、血液=お金の流れが悪くなってしまう。お金は社会の血液であり、両親からもらったお小遣いを君たちが使うことも、日本の経済を良くすることの一部なのだと伝えるとわかりやすいのではないでしょうか。

もう一つ、私がよく言うのは、「買い物は経済における投票行動だ」ということです。選挙で、「この候補者はいいな」「この政党に頑張ってもらいたい」と感じて投票するように、買い物する際にも「こんなに良い商品をこの価格で提供しているんだ。この会社を応援したい」という気持ちを持ってほしい。例えば、環境や社会に配慮したエシカルな商品を購入することは、その企業を応援することであり、自分のお金が世の中を変えることにつながるんだよ、ということを、子どもたちにはぜひ伝えてほしいですね。

前編では、「お金との向き合い方」についてうかがいました。
後編は、3月5日公開予定です!

ジャーナリスト

池上彰さん (いけがみ・あきら)

1950年長野県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、1973年にNHK入局。報道記者として、警視庁、気象庁、文部省(現・文部科学省)、宮内庁などを担当する。1994年から11年間にわたってNHK「週刊こどもニュース」のキャスターを務め、そのわかりやすい語り口がお茶の間で人気に。2005年にNHKを退局し、現在はフリーのジャーナリストとして執筆活動やニュースの解説など幅広い分野で活躍。名城大学、東京科学大学、立教大学など、複数の大学でも教鞭を執る。『池上彰の未来予測 After 2040』(主婦の友社)、『50歳から何を学ぶか 賢く生きる「教養の身につけ方」』(PHP研究所)、『一気にわかる!池上彰の世界情勢2026 トランプ関税ショック、その先にある世界編』(毎日新聞出版)など著書多数。

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