FP・専門家に聞く
2025.10.09
【生命保険】生命保険料控除の基本と2026年改正のポイント(平野敦之氏)

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公開:2025.07.01
更新:2025.07.17
ベテランのFPや経済の専門家が、FPに関わるさまざまなテーマやトピックスについて、全6回にわたり解説します。「生命保険」第1回は、生命保険を取り巻く社会の変化と保険商品の進化を振り返り、保険商品の選び方、見直しのポイントについて解説します。
生命保険にとって10年という期間は、ライフプランの変化に応じて見直しが必要になることが多いタイミングです。一般的には「医療技術の進歩」や「公的保障の変化」なども含めて対応を検討しますが、直近10年の日本は、経済状況の変化や少子高齢化に伴う制度改正など動きが大きい時代でもありました。そこで、近年の生命保険を取り巻く社会の動きと保険商品の進化を振り返り、いま求められる保険商品の選び方、見直しのポイントを整理します。
直近10年の間に起こった出来事の中から、生命保険に関連する主なトピックをまとめたものが下表(図表1)です。
出来事 | 影響 | |
---|---|---|
2015年1月 | 70歳未満の高額療養費制度の改定 | 所得に応じて5区分に細分化 |
2016年1月 | 日本銀行がマイナス金利政策を導入 | 国債などの安全資産の利回りが低下 |
2017年4月 | 金融庁の標準利率引き下げを受け、生保各社は予定利率を引き下げ | 貯蓄性保険の保険料が引き上げ |
2017年4月~ | 後期高齢者の医療保険料軽減特例の段階的見直し開始 | 高齢者の医療費負担の増加 |
2017年8月 | 70歳以上の高額療養費制度の改定 | 現役並み所得者、一般所得者の負担増 |
2018年4月 | 標準生命表が11年ぶりに改定 | 第1分野の掛け捨て保険の保険料の引き下げ |
2018年8月 | 70歳以上の高額療養費制度の改定 | 現役並み所得者をさらに細分化、一般所得者の負担増 |
2021年4月 | 65歳までの雇用確保が義務化 | 必要な保障期間が延びる |
2021年9月 | 消費者物価指数(CPI)が上昇をはじめる | 物価高による家計負担の増加。節約志向が高まる |
2024年3月 | 日本銀行によるマイナス金利政策の解除 | 予定利率を引き上げる動き。貯蓄性保険の保険料は下落 |
2025年1月 | 高額療養費制度の見直し案の公表 | 2025年8月~の引き上げは見送り |
2025年4月2日~ | 男性の「特別支給の老齢厚生年金(報酬比例部分)」の支給が終了 | 必要な保障期間が延びる |
この中でも、生命保険に大きな影響を与えた出来事の1つが、金利政策です。バブル崩壊以降の日本経済は“失われた30年”ともいわれ、賃金も物価も上昇しない時期が続きました。日本銀行は1999年にゼロ金利政策を決定し、その後、一時プラスになったこともありましたが、2016年にはさらにマイナス金利を導入しました。これにより、金融庁が定める標準利率が2017年は0.25%、2020年は0%へ引き下げられました。
標準利率と予定利率は完全に連動するものではありませんが、予定利率を標準利率よりも高くし過ぎると責任準備金を多く計上しなくてはいけないことから、生命保険会社の経営に影響を与えます。そのため、予定利率の引き下げや販売停止となる貯蓄性保険も少なくありませんでした。
マイナス金利政策の解除によって“金利のある世界”が戻ってきました。2025年は40年ぶりに予定利率を引き上げる大手生命保険会社が現れるなど、貯蓄性保険が息を吹き返しています。
もう1つ生命保険に大きな影響を与えた出来事が、国の社会保障制度のひとつ、高額療養費制度の自己負担限度額の引き上げです。高齢化や高額薬剤の普及などを受けて医療費の総額が年々増加していることから、2025年1月に厚生労働省が見直し案を公表しました。今回は世論の高い関心を受けて見送りとなりましたが、70歳未満は2015年、70歳以上は2017年、2018年に改正が行われています。
これまで日本の社会保障制度は、公助をベースに足りない部分を自助で補うというのが基本でした。そのため、「社会保障制度が充実しているから、民間の医療保険はいらない」という意見もあるほどです。しかし、今後はさらに少子高齢化が進む中、これまでより公助でカバーできる範囲が小さくなっていくケースも想定されます。自助の割合が増え、高齢になっても収入が現役並みにある人は負担増も避けられない時代になりそうです。
前述のような社会や経済状況の変化を受けて、保険商品はどのように進化しているのでしょうか。
第1分野はもちろん特に変化が大きいのは、医療保険やがん保険といった第3分野の保険です。
医療保険は入院期間が短くなっていることを受け、短期間の入院でも一律の入院給付金が受け取れるものや、在宅療養にも対応する商品が登場しています。また、契約時や契約後の健康状態や健康増進活動に応じて保険料が割り引かれたり、給付金や特典が受けられる健康増進型の保険商品のバリエーションが増え、健康増進のための取り組みをする人にとっては有利な商品が増えています。
がん保険も入院日数の短期化に対応すべく、入院給付金よりも「治療給付金」や「診断一時金」のいずれかを重視したもの、または両方を組み合わせるものもあります。自由診療の実費を保障する商品や、「上皮内がん」に対しても、通常のがんと同額の保障を行う商品も目立ってきました。また、がん保険の中には、非喫煙者に対して保険料の割引が適用される商品があります。さらに、がんの部位や症状によっては、治療経験などがあっても、以前より加入しやすい保険商品が出てきています。
マイナス金利が解除となり、安定的に資産運用をしたい人にとっては生命保険も選択肢のひとつとなる時代が戻ってきました。
資産形成が注目を集めている中で、各社の参入が続く変額保険と“金利のある世界”が戻ったことによる定額の貯蓄型の保険の動きが活発です。定額の貯蓄型の中には、どのタイミングで解約しても元本割れしないという商品もでてきましたが、定額の生命保険は、さらに金利上昇が予想される中で金利を固定してしまう点や、インフレに弱いというデメリットもあるため、注意が必要です。
一般的に生命保険は、家族構成の変化や住宅購入といったライフステージの節目で見直すことが大切です。というのは、保険は自分の経済力ではカバーしきれないリスクに備えるために加入します。ですから、「何の目的で保険に加入するのか」「どんなリスクに備える必要があるのか」を定期的に検討することが、保険を過不足なく活用することにつながるからです。
また、近年のポイントとしては保障期間にも注意が必要です。定年=60歳を前提に、満期や更新の時期を設定している人も多いようですが、65歳までの雇用機会確保の義務化や、長寿化による老後資金への不安から60歳以降も働き続ける人が増えています。必要保障期間にズレが生じていないか、逆に保障が過剰になっていないかも確認するとよいでしょう。
急速なインフレが進んでいるため、家計から保険料を支払うことが厳しくなったり、更新タイプで保険料が上昇することから支払いを継続することが難しい場合もあります。そんなときは、家計管理の面からも保険の見直しが必要です。
第1分野の掛け捨てタイプ(10年満期の定期保険、収入保障保険など)は、2018年の標準生命表の改定で保険料が引き下げられています。そのため、10年経過していても保険料が安くなっていることもありますから、複数の商品を比較してみるとよいでしょう。
保険料を抑えたい場合は、健康増進型の商品も選択肢になります。契約時の健康状態や健康年齢、喫煙の有無はもちろん、契約後の健康増進活動や健康診断結果などによって保険料が割引になったりキャッシュバックが受けられるなど、様々なタイプの保険があります。
特に商品内容を見直す必要があるのは、前項で紹介した第3分野の保険ように保障内容が進化しているものです。保障内容が現在の医療体制に合っているか、将来の医療技術の変化に対応しやすいかについても確認しましょう。また、貯蓄型保険については、長期にわたるゼロ金利、マイナス金利の影響を受けているため、加入している保険の予定利率など、契約条件を確認しておく必要があります。
資産形成に関わる保険や第3分野の保険を中心に保険会社間の競争が厳しくなっていることから、商品内容の改定や新商品の投入が頻繁に行われています。生活者の視点で見れば好ましいことといえそうですが、その代わり自身で積極的に見直しを検討しなくてはいけない時代ともいえます。
保険は若年層や健康な人にとっては恩恵を感じにくい商品です。だからこそ、保険で備える必要があるもの、預貯金や資産で対応するものとの住み分けが必要です。
CFP®認定者、平野FP事務所 代表
平野 敦之 氏
証券会社、損害保険会社などでの実務経験を活かし、1998年から独立系FPとして活動。リスク管理の側面から家計の相談業務や、企業の支援を行う。各種媒体での情報発信をはじめ、行政や企業の研修、大学、消費者向けセミナーなど、講演や執筆活動も積極的に行っている。
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